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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第3章 星を造る 神の真似事編

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9 豊穣の女神をつくる ① 華やかな贋物

 先輩の護衛はヘレナ、ルーネ、アマテルがついて、なんか華やかになったわね。

 お風呂で毎日のように見ていたせいで、先輩がさらに成長していたのを見過ごしていたわ。


 本人も気にしてなかったし、先輩の下着は最高性能の品質なので、たぶん胸もお尻も大きくなっても、優しく包みこむからわからなかったかもしれない。


 アマテルの加入はそういう意味でも大きい。なんたって作物の事だけではなく、薬学に医学にも詳しいのよ。


 スキュティアには悪いのだけど、彼女はこのままわたしが預かりましょう。だって、あの娘がアマテルに教えるのは馬の乗り方や弓矢の扱いとかなんだもの。なんていうか、才能と噛み合ってないのよね。


 枯れかけた大地が、ノヴェルとルーネによって再生する。アマテルは街の人に見つからないようにこっそりと魔力を加えている。最後の仕上げに魔力を吸われないようにノヴェルが遮断結界を張ってくれた。

 おかげで牧草地は復活して、馬賊の残した馬と牛飼いの牛がのんびりと草を食べられるようになった。。


 スキュティアの流した情報の噂を聞いて、よその街から集まって来た人が驚きの目を向ける。川沿いであっても作物の育ちづらい環境だったのが、昔ながらの青々とした緑の牧草地に変わっていたのだから当然だよね。


 大地の女神が降臨されたとか、見てないはずなのにアマテル様が戻られたのかと騒ぎになり始めた。


「スキュティア、日時を指定するから新設した大使館の広場へ、各街の代表者を集めてくれるかしら」


 まだリビューア帝国の使者は戻って来ていないので、あまり大っぴらに騒がれても迷惑なのよね。ムルクルも、まだ作物を育成する程には至っていない。だってまだ敵地だもの。本格的な再生を行うなら、ドローラを呼ぶからね。


「カルミア樣。スキュティアは誤魔化せましたが、生粋の牛人は鼻が効くのでいずれ見つかるかもしれないです」


 アマテルが正体がバレそうで怯えていた。そうなのよね、あいつら本体の香りではなくて、魔力の痕跡からティアマトみたいに匂いを嗅ぐみたいなのよ。スキュティアは馬人の血が入っているらしくて、そこまでの感度がないので助かっている。


「先輩を基本に作った聖霊人形・豊穣型(ハトホル)ではなくて、いっそアマテル自身を基本に豊穣型を造りましょう」


 多少の力が弱っても、魂の質が同じなので生まれ変わりだと思い込むはず。

 姿が見えていて匂いが同じで力が変わらなければ、旗頭の欲しい彼らは勘違いも受け入れると思うのよ。


「要は騙すのよね」


 眼鏡エルフめ、身も蓋もない事を。


「もちろん、アマテルに選ばせるわよ。仲間の所へ戻りたいのか、わたし達といたいのかはね」


「そんなの決まってます。私はみなさんと一緒が良いのです」


 先輩とある意味対極の人よね、アマテルは。指導者というより、研究者としてなら凄く優秀なのに、巫女姫としての振る舞いを求められる事に疲れている。


 わたしとしては、些事を任せられるのが羨ましい。わたしの身代わりなんて、自分が好きな事を優先しやがりましたからね。


 アマテルにはそうならないように、注意しておいた。この娘の場合は、本体がわたし達の所にいないと意味がないのよ。

 アマテルはまだ手乗り人形(タイニー・ドール)に魂を移したばかりなので、魂も弱くて聖霊人形(ニューマノイド)にする成分も足りない。フレミールのように無理矢理絞ると消えちゃいそうだ。


 そこで専用風呂釜に薬湯を入れて、ゆっくり成分を抽出し、寝る前に魔力放出もして稼ぐ。ぐっすり休むために必要な事だと教えてあげたら、ものすごく喜ばれたわ。


「僕の大きさを変えられたのなら、アマテルを大きくすれば早いのではないかね」


「出来なくはないですよ。濃縮させる手間を考えると、いまのサイズは理想的なんですよ。そうだ、先輩も試してみます?」


 この際だから先輩にルーネの錬金釜を風呂釜にした特製の湯船をつくる。薬湯だけではなく薬油もつくり、熱くなりすぎないように丁寧に抽出を行ってみた。


「素晴らしいわ、この抽出液の輝きだけで濃密な魔力の薬になるもの」


 三人共、油でテッカテカになっている。もったいないので、スマイリー君で回収したあと、ゆっくり薬湯で疲れを癒やしてもらう。


 アマテルはこの油風呂が気に入ったみたいね。魔力を放出して魔晶石を作るより、質の良い魔晶石が取れた。

 先輩とルーネはアマテルに釣られて魔力放出を行っていたので、大量の魔晶石が出来た。


「それでニコニコご機嫌なのね」


 様子を見に来たエルミィが、純度わの高い魔晶石を前に浮かれていたわたしを見て呆れたように言う。


「ヌッフッフ〜見なさいよ、この油の質を。聖霊人形(ニューマノイド)器械像(タロス)に使えば、魔力の通りが速やかになるし、自己修復も高まるのよ」


 魔導回路で魔力を通すよりも効率が断然良い。シェリハの糸と合わせると、以前の大雑把な動きが洗練された。


「一番の利点は魔力をほとんど消費しないで動かせることよ」


 魔力油のおかげで動きが滑らかになり、身体を動かす為に用いていた魔力を別の行動へ回せるようになった。


 さっそく、ヒュエギア達にも油風呂を奨めて、新しく身体を造り直した。


 先輩の魔力油はなるべく使わずに貯めておく。巨人型を造る時に、この魔力油があれば巨体を動かすのに役に立ちそうだからだ。毎日少しずつ抽出するとしましょう。


 ぬっふっふ、先輩巨大化計画を諦めたわけではなかったのよ。フレミール絞りの魔晶石、そして血脈に変わる魔力油が手に入ったからね。骨組みさえ強固なものを組み上げれば、搭乗型の先輩巨人が出来る目処がついたわ。


 巨人化に頼らない巨大生物作りを考えているうちに、リビューア帝国から使者が戻って来た。東部地域に関してのみ食料支援等の交易自由を認める許可証が発行された。


「つまり、リビューア帝国も東部地域に関与も支援する気もいっさいなくて、好きにしていいって事よね」


 許可証とともに記されていた内容を見て、わたしは思わず笑った。貴族など支配層のいない東部地域では、何が起きても帝国はいっさいの責任を負わないと書かれていたからだ。


 紛争が多く、暗殺者達の住処となっているリビューア帝国東部地域の価値は低い。シンマ王国が滅び交易による旨味の激減している現在、治安維持の為に帝国が派兵する可能性は皆無になった。


「ふむ、いつものキミの曲解と言いたい所だが、わざわざ地域を指定して許可証まで発行したのはそういう意味でとらえて構わないメッセージであるな」


 リビューア帝国の発行した許可証は、いわば英雄王子に対する挑戦状でもあった。守るつもりのない約定でもあるので、あちらは、あちらで英雄の実力を図るために使うようね。


「取れるものなら取ってみろって見えますよね」


 意味合いは違うけれど、わたし達も被害の甚大な土地を侵略軍の好きにさせて防衛陣地を固めた過去がある。


 略奪と関税的な高額の通行料金が見込めなくなった現状では、東部地域の本当の領主達も切り捨てに賛成したのだろうことがよくわかるわ。


「私達は本当に見捨てられたのですね」


 一緒にいたスキュティアが悄然とした。馬賊に身を窶しても、リビューア帝国の民として、彼女達は彼女達の矜持を持って尽くしていたのね。


「立ち位置がハッキリしたからいいじゃないの」


 わたしが慰めようとしたら、先輩に肘で脇腹を付かれた。いいじゃない、スキュティアみたいな娘に落ち込まれると鬱陶しいだけだもの。

 スキュティアがビクッとしていた。ずっと前から貴女方も気づいていたんだから今更でしょ。


「それより、帝国の介入はほぼないとわかったから代表者を集める日取りを確定させましょう」


 ヒッポストレインの為の街道作り計画は、すでに進めていたのよね。お金にならないので、他の街から作業中に襲われる事もなかった。港町までのルートも確保出来たから、後は街道の下地固めと意思確認よね。街道は出来てもヒッポストレインが通りやすくしないと意味ないもの。


「実りが良くなったら、リビューア帝国が約束を反故にする確率ってどれくらいだと思います?」


 わたしとしてはバスティラやロブルタまで、遊牧民族の放牧地を増やして回遊させ、国内の巡回警備に利用したいと思っているのよね。

 吸血鬼族や蠍人もいるけれど、彼らは都市の防衛を任せたいから。


「防衛施設にもよるだろう。僕が彼らなら、遊牧に向かい留守の時期に十中十、奪うよ」


 そうよね。そうなると、リビューア帝国東部地域を独立させても、肝心の民が留守にしてしまうと奪われる。放棄したのに近いとしても、もともと彼らの地だと主張されて終わり。


「このムルクルは防衛には向かないわよね。港町と、一番近い街をまず優先して防衛陣地を築いて、リビューア帝国との新しい国境沿いを固めていきましょう」


 土地の調査はメネスとバステトに頼んでまだ調べている最中だった。ロブルタやシンマ以上に土地勘がないため、東部地域が実際にどこまで示しているのか自分達で調べて決めるしかなかった。


 わかりやすいのは魔力が枯渇して、大地に変化がある境だ。帝国側は豊かな大地側を境界として、不毛な地への支援や介入を止めている。その境界さえ見つけてしまえば分かりやすかった。



「キミが本音を隠すのはいつもの事だから気にしないが、僕に隠し事をするのは許されないぞ。話したまえ」


 付き合いが長いだけあって、先輩もわたしの口癖から真偽を見分けるのが早くなった。頼もしいけれど、説明が面倒臭い。


 わたしはメネスから貰った情報をもとに作り上げた地図を広げて先輩へ見せた。

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