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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第2章 砂漠の心臓編

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5 港町プロウト

 港町プロウトは先の戦いで、シンマ王国からロブルタ王国領となった海岸沿いの街の一つだ。元々はシンマ王国の貴族、プロウト伯爵家が治めていたが、ロブルタ王国軍の反抗の際に降伏した。

 領主は既に家財を抱えて内陸の別の街へ移ってしまったため、残されたのは行き場のない街の漁民や船乗りなど、海での生活を生業にする人々だった。


 ロブルタ王国の領主として新しく赴任して来たのは、もとルエリア子爵のリドルカだ。港町プロウトをはじめ、海沿いの元シンマ領を全て統括する候爵にまで出世した女傑と噂になっている。


 魔物の大暴走(スタンピード)にシンマとロブルタの戦いと、連戦で最大の武功を立てた人物となると、敵側だった住民達も緊張して迎える。

 内陸へ追い払われては、やっていけない人々にとって、無能でも害のない貴族はそれなりに有用だったのだと気づかされた。


◇◆◇


「なんか攻め込まれてませんかね」


 プロウトの街は防壁がまだ以前のままで、門はお飾りのため簡単に破られたようだった。乱入してきたのはシンマ軍三千と避難民五千。門の付近では、そのシンマ軍と駐屯していたロブルタ軍で争いになっていた。


 ロブルタ軍千名の采配を振るうプロウト候爵リドルカは、領民の避難を優先している。かたやシンマ軍は三千名と優位な兵力で街へ侵入し略奪をしていた。


「プロウトを落とされると、復興が遠のきますよね」


 被害を抑えて占拠を優先した結果なので仕方ないけれど、統治していた領地を自ら荒らすとか、貴族の思考はわからないわね。


 領民も無能で害はなかったはずの元領主の自分勝手な振る舞いに、抗戦すべく銛やら櫂やらを手に略奪兵を滅多打ちにしていた。


「どうします、先輩。今ならフレミールの咆哮で、反乱兵の大半を駆除出来ますが」


 シンマ軍と避難民になだれ込まれては、街は壊滅する。


「フレミール、すまないが一掃してくれたまえ」


 賊徒と見なして、先輩はプロウトの救援を決めた。平和的に退去出来たために、元プロウト領主も兵も民も、考えが甘かったというだけね。

 防衛陣地で戦ったもの達なら、ロブルタ王国に手を出すことがどういう結果をもたらすのか、身を持って知っているから。


 わたし達は馬車でプロウトの門へ急行して、門に殺到するシンマ軍の前に出る。囲んでくるシンマ軍は、ノヴェルとバステトが追い払い、フレミールのブレスでシンマ軍の後続を容赦なく撃ち払った。


 綺麗さっぱりというわけにはいかないけれど、シンマの賊徒を七割は消滅出来たわね。


「いまさらじゃが、良かったのか?」


 この竜、本当にいまさらよね。思い切りがいいのは美点だけど。


「いいのよ。協定を破った敵の始末をしただけだもの」


 非道いって言うなら、大人しく交渉して話し合えば良かったのよね。ロブルタ側も、そういう布石をしていたのもあるから。リドルカ候爵も考慮して、王宮に対応を求める間は保護したはずよ。

 貴族の強弁で、もともと自分達が住んでいた土地だと自分勝手な理屈でロブルタ軍へ譲渡を迫ったんじゃないかな。


 わたし達が門の前で待機をしていると、リドルカ候爵が馬に乗ってやって来た。先輩の姿を見るなり馬から降り、膝をついた。街の中の敵兵は、フレミールの砲撃のおかげで恐れをなして逃げ出していた。


「アスト殿下、援軍感謝します」


「防壁の強化に来たのだが、間に合わなかったようだ。すまない」


「いえ、シンマの暴徒を追い払って頂いたではないですか」


 もう先輩を凝視して、目がウルウルしているリドルカ候爵。得たばかりの領土がまたもシンマ軍に荒らされそうになった所に、王子様がやって来て一瞬で追い払ってくれたからね。部下がやったこととか、殲滅で骨の欠片も残さず塵になったとかは華麗にスルーした。


「防壁の強化をするが、構わないね」


 先輩はノヴェルに頼み、防壁を厚く強化する。蠍人は壁をよじ登るらしいので、上には反しをつけた。

 リドルカ候爵には、やって来るのがシンマの暴徒だけではないことを伝えておく。また吸血鬼に関しては保護を命じて、彼女が元いたルエリア子爵領近くの田舎領へ行くようにしておいた。


「恭順を示したシンマからの民は、ロムゥリ領へ回すようにしたまえ。暴れるものは容赦しなくていい」


 王命として布告されれば、リドルカ候爵や国境沿いの領主も対応しやすいものね。


「それとシンマ王都の壊滅したいま、生き残った異界の強者がどれだけいるのか不明だ。彼らはやけになると何をしでかすかわからない。異界の強者は一人一人が強いから、注意したまえ」


 一人だけならリドルカ候爵も強いので、まともに遣り合えるだろう。でも群れてると厳しいわよね。


「吸血鬼の武闘派がいれば、交渉して残ってもらうのもありよね」


 異界の強者とやり合って来た種族でもあるから、残ってくれると助かるわよね。


「うむ。先の命令を修正して防衛に不安なところは彼らに協力してもらうとしよう。それでは頼んだぞ、プロウト候爵」


 先輩ってばかっこいいわ。ただ戦争の起きる前から婚期の遅れてるプロウト候爵が、先輩に惚れてしまうのは、結婚を諦めたに等しくなるわよね。


 王座についた時に、どちらの性別を通すのかわからないけれども、あまり罪深い行いは控えた方がいいですよ、先輩。


 多分、先輩はわかってないわね。以前は色気だけが突出していたけれど、この所の先輩は英雄的な行動に加えて風格も出てきて、男女問わず国民からも愛されている。

 まさか、こんな馬車で国内外をうろついているなんて、思ってないでしょうね。


「僕だって好きで偉ぶってないのだぞ。キミはそろそろ不敬罪について学んでおきたまえよ」


 照れてわたしの首をガッと掴む先輩。バステトが嬉しそうに近寄ってくるけど、貴女は別の意味で、近寄る敗残兵の首を刈ってからにしなさいな。

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