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エッセイ

信じるか否か

作者: 中原 誓

動画のおすすめって時々 謎。

 先日、動画サイトを見ていたら、なぜかおすすめで手相の解説動画が流れて来た。


 ああ、これか……


 動画と自分の(てのひら)を見比べて、中学の頃の事を思い出した。



 おおらかで不適切だらけの昭和の話である。


 近くの大型スーパーに1週間の期間限定テナントとして、開運印鑑の店ができた。

 無料で姓名判断と手相を見てくれるという触れ込みの、当時としてはありがちな店だった。

 漠然と、占いの結果が悪いと言って印鑑を売る店なんだろうなと思っていたので、友人が『行ってきた』と言い出した時は驚いた。


「無料だっていうから」


 彼女は勇者だった。


 手相見といえば、やはり松尾芭蕉のような帽子をかぶって着物を着てるのかと聞くと、洋服を着た普通のおじさんだったと言う。


 そうか……


 よし、私も行ってくる――と、その日の放課後、印鑑屋へ行った。

 印鑑への興味は1ミリもなく、完全に冷やかしである。もしお小遣いで印鑑を買う中学生がいたら、どんな奴か顔を見てみたいくらいだ。

 

 友達から聞いたんですけど……と、一応遠慮がちに行くと、『ああ、いいよ』とあっさり通された。


「じゃ、ここに座って生年月日と苗字と名前を書いて」


 漢字の画数の合計で運勢を判断するのだという。

 なるほど……と、私は自分の平凡な苗字と平凡な名前を書いた。

 ところがだ、


「これ……お嬢ちゃんの名前は誰か専門の人につけてもらった名前?」


 いやいやいやいや、母が『この字が好き』という単純明快な理由でつけたと聞いている。

 おじさんによると、一見平凡な組み合わせに見える私の名前は、運気の強い名前なのだという。


「まあ、女の子は結婚すると苗字が変わるからね。大人になったら、今よりは弱まるかもしれないね」


 その後手相を見たおじさん、今度は『ああ……』と言う。


 何だ何だ。私の掌にどんな宇宙がっ!?


「あなたは一生お金に困らない」


 ほう。


「お金持ちになれるって意味じゃないよ。食べていくのに困ることがない。そういう手相だ」


 どうやら私には開運印鑑は必要ないらしいと言うことだけは理解した。


 因みに結婚改姓後に別のところで見てもらったら、『強運』から波乱万丈型の『凶運』にジョブチェンジしていた。


 占いの類は良い結果はそのまま受け取り、悪い結果は戒めとして心に留めておけばいい――そう思って生きてきた。なので、人生のトラブルは全て夫の苗字との相性が悪いせいである。

 まあ仕方がない。

 どうしても開運したければ、元の名前を通名で使えばいい。無問題。


 で、冒頭の話に戻ると、


 かつて印鑑屋のおじさんが私の手に見たのは、『俵紋』と呼ばれる指に出る縦線だった。

 しかも両手の全ての指にハッキリクッキリ。


「ほら、これが私の強運の印だよ」


 水戸黄門の印籠の如く、夫の目前に突きつけてみた。


「一生食うのに困らないんだって」


 夫は、胡散臭いものを見るような顔で『ええぇ ……』と言った。



 まあ、信じるか信じないかはあなた次第――ということで。




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