最終話:ジャガンジャとははたして何なのか
「…………まさか、アイツが……それほどまでのクズだったとはッ」
河濤村を後にする前に、鈴宮の所へと挨拶に行った田井中達は、改めてこの村の実態と、それを知った上で罪を犯した者達の事を伝えた。
全てを知った鈴宮は、河濤村が犯罪に利用された事への怒りと、それがキッカケで河濤村の、別荘地化計画が中断する事への悲しみのあまり顔を歪ませた。
「というか、残ったのは不動産屋への借金だけ。あぁ、これからどうやって生活をしていけば」
「不動産屋に関しては、こっちに任せとけ」
鈴宮の嘆きに対し、彼の真正面に座った田井中は堂々と答える。
「そもそも不動産屋は、何かを計画する前に、その計画の中心となる土地をできる限り調査するハズだ。にも拘わらず、連中は二酸化炭素の出てくる穴の事は、何も言っていなかった。そしてその上で……法外ギリギリの借金を請求している。この事実からして、もしかすると連中は、瑕疵物件であるのを知りつつ、それを黙っているための口止め料として、ギリギリ法外な金を請求した可能性がある。だとすると……連中は連中で、罪に問える可能性がある。証拠さえ見つかればな」
「そ、そう言われると……確かにそうだな!?」
鈴宮の顔が、今度は笑顔になった。
そしてそれを見て田井中は……河濤村の住民のためにも、早めに弐課参課と協力して稼舎場婁不動産をどうにかしなければな、と心の中で思った。
※
「お、探偵さん達!! え、なんでその二人を担いでいるの!!?」
鈴宮の家を後にして、改めて犯罪者達を担ぎ、IGA肘川支部へと帰還しようとした田井中達は、川で遊んでいた学生グループに声をかけられた。
当然ながら、みんな水着である。ちなみに男性陣二人はともかく、女性陣四人に関しては、少年少女に見せるにはあまりにも刺激的すぎるデザインと露出度だったため……田井中はすぐに明日子を背後に隠した。
「ようやく犯人が判明したんでな。その帰りだ。あとそれからお前ら」
そして田井中は、戸泉のように女性の水着をジロジロ見る趣味はないため、早々に話を切り上げるためにも話を切り替えた。
「俺の弟子の話によれば、貝塚遺跡がどうとかのゲーム……アレはまだ、ゲーム化されてないんだってな」
「「「「「「ゑ?」」」」」」
その発言は、学生グループだけでなく……伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンにとっても初耳な情報だった。
――唯一驚いていないのは、兄弟の弟の方だけだ。
「原作者や出版社が許可とかを出してないのに、勝手にゲーム作っちゃダメだろ。まぁそれを勝手に商品化して、売ったりしてなかったのは褒めてやるが……今からでも遅くない。連中に知られる前に、とっととゲームを壊すなり何なりしておけ。じゃないとゲーム制作者まで著作権侵害で逮捕しなくちゃいけなくなるぞ?」
すると、その時だった。
兄弟の弟の方が、別荘へと、田井中の話を最後まで聞かずに、脱兎の如く走っていった。もしかすると彼が制作者だったのかもしれない。そして、著作権侵害の事を今、ようやく知った兄やその友人と見られる女性達は……弟くんと同じく水着姿で、慌てて彼を追いかけていった。
「……まさか、利用客の中にまだ犯罪者がいたとは」
それを見た伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは、思わず呆れ顔で彼らを見送った。というか、昨日今日で犯罪者ばかりに会っている気がする。
「今の内に見つけて、注意しといてよかったな」
田井中も、苦笑しながら彼らを見送った。
「しとかんと、この村の印象が……犯罪者じゃない連中から見てさらに悪くなる」
「ですね」
そして三人は、改めて村の出入口まで歩いた。
しかし最後に残った謎の事が気がかりで、途中で田井中と伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンの歩みが、そして田井中と手を繋いでいる、明日子の歩みもそれにつられて、自然と遅くなる。
「そういえば田井中さん。ジャガンジャって、結局なんだったんでしょうね。それに村を離れた者が死んだ、というのも」
「…………黒船来航時に河濤村に来た外国人辺りが、二酸化炭素にやられて死んだ村人を目撃して……その時の話が元になって生まれた伝承じゃねぇか?」
田井中は、自分の中で今浮かんだ……根拠のない仮説を口にする。
さすがの彼も、過去の出来事に関しては完全に予想するしかないのだ。
「でもってその外国人が、邪眼を持った魔女やバジリスクとかを連想して……それを説明しようとして……邪眼を持つ者、邪眼者、もしくは、邪眼を持つ蛇、邪眼蛇として伝わって……それが、ジャガンジャの語源になったんじゃねぇか???? それと、村を離れたヤツに関してだが……村の瘴気の秘密を知ったから、口封じに殺されたとかか????」
「ああ、後半は正解だよ」
するとその時だった。
三人……いや、担いでいる者も足して五人の背後から聞き覚えのある声がした。
――あの小柄な、椎名の調査によれば肘大の教授ではない謎の教授の声だ。
その事を椎名に教えられた時に、改めて記憶を辿ってみれば……江島は彼を教授だと言っていたが、肘大の教授だという発言をしたのは教授のみ。すなわち、あの時点で彼が嘘をついていたならば、椎名の得た情報は事実という事になる。
そして田井中は、改めてその正体を問うため、振り返ろうとするが……その前に教授は語る。
「ボクは森や獣と会話できる能力を生まれつき持っていてね。それで森に、二酸化炭素を今まで以上に減らすようにお願いして、この村を救ったんだ。でもって名前の方なんだけど、名乗る時に最初、樹間者……ボクの田舎の言葉で〝森を知り、森に愛される者〟って意味の称号を伝えたんだけど、最初に聞いた人の滑舌が悪くて……いつしか転訛して、ジャガンジャって呼ばれるようになっちゃったんだ」
「「…………は?」」
教授の口から告げられた、予想外の事実を前に、田井中と伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは唖然とした。
「と、いうか」
田井中はなんとか先に復活し、すぐに振り向いた。
「お前はいったい――」
しかし、そこには誰もいなかった。
あの一瞬で、すぐに離れられるワケがないのにだ。
「……………………あ、あの人は……もしかして、ジャガンジャの……?」
遅れて振り向いた、伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは、顔を強張らせながら呟いた。
「おやッッッッ!!? 奇遇ですね探偵さんッッッッ!!」
すると、そんなホラーな場面を覆すような声が聞こえた。
ジャガンジャ――おそらく幽霊だったと思われる存在と行動を共にしていた江島の声である。それが聞こえると同時に、田井中は江島へと視線を移し「お前が教授と呼んでいたヤツは、いったい何者だったんだ?」と問い質した。
「ああッッッッ!! 教授ですかッッッッ!! 自分も知らないっスッッッッ!! この村で偶然出会って、自分と同じく小動物が好きだったんで意気投合して一緒に行動するようになってッッッッ!! でもって自己紹介をし合った時に、教授だとおっしゃっていたのでッッッッ!! どこかの大学教授なんだろうな、とは思っていたんですがッッッッ!!」
しかし返ってきたのは、あまりにもアホな回答だった。
というかこの男は、趣味さえ合えばどんな人とでも一緒に行動するのか。
「…………まぁ、そういう事もあるか」
あまりにもアホな回答に、田井中は毒気を抜かれたのか。
焦りなどが一切なくなった清々しい顔で、一度溜め息をついた。
「ええ、そうですね」
そして伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは、少々呆れつつも最後にこう言った。
「なにせここは……肘川ですから」
【原作】
間咲正樹著『俺の彼女は魔女、しかも重度のヤンデレ』
間咲正樹著『明らかに両想いな勇斗と篠崎さんをくっつけるために僕と足立さんがいろいろ画策する話』
真崎雅紀著『ヲタギャルたちと歩む、ドキドキ肘大ゲームライフ』
麻碕魔裂著『凄い絵師さんに会ったので俺も絵師を目指してみた件。』
磨嵜馬埼著『肘川大学ワンダーフォーゲル部の栄光』




