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第18話:次はだれが狙われるのか

 伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンにより、無事に地上に引き上げられ、何度か深呼吸をした(あと)、田井中はふと、ジャガンジャと呼ばれていた謎の存在の事を思い出した。


 森のヌシの瘴気……おそらく、田井中が落ちた穴から()れ出ていた、二酸化炭素であろうモノを封じた、謎の旅人の事を。


 もしも、伝承が史実だとするならば。

 瘴気の正体は二酸化炭素と見てほぼ間違いないだろうが、彼はいかにして二酸化炭素を……大自然の猛威と呼ぶべきモノを封じたのか。それに、なぜ村から逃げた者までが次々と死んでいるのか。瘴気の正体以外にも、まだまだ謎は残っていた。


「そういえば、田井中さん……村に来た当初は疲れきった様子でしたね」

 穴の中の二酸化炭素を吸ってしまった田井中の呼吸が整うのを待ちながら、伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは、ふと思い出した事を言った。


「?? ああ、確かに疲れたが……慣れない山道だから当然だろう」


「田井中さんのように鍛えていらっしゃる方は疲れる程度で済むかもしれません。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もしかすると……河濤村は常に酸素濃度が低めなのかもしれませんね」


「…………ますます瘴気の正体が二酸化炭素だと思えてきたな」


 二酸化炭素濃度が三パーセントを超えると、人は頭痛や眩暈(めまい)、吐き気を覚える。

 七パーセントを超えると、炭酸ガスナルコーシスのために、数分で意識を失う。

 そしてこの状態が続けば呼吸中枢が麻痺(まひ)して死に至る。一番身近な気体の、恐ろしい特性だ。


 現在は二酸化炭素中毒のメカニズムが解明されてはいるが、それ以前の時代の人達には……地域にもよるだろうが、瘴気と思われても確かにおかしくはない。


(となると、もしかしてだが……学生グループへの聞き込みの時に、ついキレたのは……酸素不足のための、イライラもあったりしたのか?)


 ついでに田井中は、珍しくイライラしたその時の事を振り返ってみた。

 だがあの時は、本当に相手の言動にイライラした可能性もあるために……結局、答えは分からなかった。


 ちなみに、田井中は知らない事であるが、学生グループの内の兄弟が伝説の宇宙怪盗を発見した時、方向感覚がおかしくなっていたのは……確かに寝不足と、酒を飲んでいたのも原因かもしれないが、多少は酸素不足も関わっていた。


「とにかく、一度戻るか」

 ようやく呼吸が整った田井中は、立ち上がりながら言った。


「村のヤツらを安心させるためにも、報告しねぇとな」

「そうですね。とりあえずは(あん)()してくれるといいですが」

「…………湊あたりはキレそうな気がするな」


 そして田井中達は、村へと向けて歩き出そうとした……その時だった。

 (ふところ)に入れていたコッソリートが振動した。また、新たな発見があったのかもしれない。そう思い、田井中はコッソリートの通話ボタンを押した。


「もしもし?」

『師匠! メッチャヤバい有名人が映ってたっス!』

「メチャヤバい? どういう事だ?」


 (せっ)()詰まった弟子の声を聞き、田井中は眉をひそめた。

 すると椎名は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』と、先に結論を告げた。さらに話がややこしくなる。


「待て、椎名。ちゃんと(いち)から話せ」

『え、あ、はいっすみません!』


 田井中に注意され、椎名は今度こそ、順序立てて話し出す。

 そして全てを聞き終えると同時に……田井中は()(けん)に、これでもかと(しわ)を寄せ、低い声で「椎名、ブタ箱を一つ()けとけ」とだけ告げて、すぐに通話を切った。


「?? 田井中さん? どうしたんですか?」

 いつになく田井中が真剣な表情をしているのを見て、伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは心配になって訊ねた。


 しかし田井中は、その問いに答えなかった。

 答える時間すら()しいとばかりに、すぐに伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンが()いた髪の毛の線を辿(たど)り、河濤村へと全力で走り出す。


「ま、待ってください田井中さんッ!」

 それを見た伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは、慌てて彼の(あと)を追った。


「い、いったい何が分かったんですか!?」


()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 まさかの返答に驚き、伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは、一瞬目を大きく見開いた。


「い、いったいどういう事ですか!?」


 いったいなぜあの少女が狙われるのか。

 田井中と事件の捜査を始めてから今までの経緯を思い返しても、まったく覚えがないため、彼は再び訊ねる。


 そしてそれに田井中が答える前……彼は見覚えのある人物と鉢合わせになった。


「おッッッッ!! 探偵さん達じゃないっスかッッッッ!!」

 江島と、彼と共に森の生態を調査していた教授だった。


「教授ッッッッ!! 探偵さん達を見つけましたよッッッッ!!」

「君の声が大きいから分かるってばッ!!」


 江島の大声に、教授は辟易(へきえき)しながらも大声で答えた。

 そして改めて江島のそばに寄ると、すぐに田井中達の姿を確認し「いやぁ、まだ生きてて安心したよ」と(あん)()した。


「あなた達がジャガンジャってのに襲われているんじゃないかって心配になった村人達が、捜索隊を組もうって言ってきて。それで、ボク達を始めとする人達が協力して捜してて……さっき地面に長い髪の毛っぽいモノがあったのに気づいて――」


 しかし、その教授の説明は途中で(さえぎ)られた。

 田井中が教授の両肩を素早く掴み、()()(せま)る表情で訊ねたからだ。


 ――その捜索隊の中に、真下親子はいるのかと。


     ※


 ()(ざま)な結末を迎えた伝説の宇宙怪盗サウザンディアンフェイサーサードインパクリュパーンカーメラーダディエンドスは、IGAから宇宙警察へ、己の身柄が引き渡される際……身柄の引き渡しに立ち会ったIGA局員に向け最後にこう言った。


「……気、をつけ……ろ? ()()()()()……()()()()()()()……()()()()()()……()()()()()()()


 それは彼の気まぐれか。

 それとも命を助けてくれた礼なのか。


 今となっては分からない。

 しかし、()(ざま)な結末を迎えながらも、こうして最後に忠告をした宇宙怪盗を見たIGA局員は……ただでは捕まらない、義賊としての意地を感じた気がした。

 次回、ついに!?

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― 新着の感想 ―
[一言] うおおおお、この一件落着したと見せかけてからの、二段オチ!!! 二段オチすこすこのすこ( ˘ω˘ )
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