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第15話:怪盗はなぜ倒れたのか(前)

『フッ、血液採取が終わったのでこれで失礼する! サラダバー!』


 (のぼ)り始めた朝日を背に、ヘリの中から、眼下にある河濤村の広場――先ほどまで血液採取の会場にされていた場所に集まっている村人達と、別荘の宿泊客達へ梅はそう言うと、ドアを閉めてすぐにその場を飛び去った。


 まさかヘリが出動するほどの大事件が起こるとは、夢にも思っていなかった者が大半であったため、その人達は、梅が飛び去った方向を見ながら唖然とした。


 そして、そんな微妙な空気の中。

 より微妙な雰囲気にしかねないが、田井中はそれでも……みんなに言わねばならない事があるため、口を(ひら)く。

 河濤村に住まう人達の、安全のためにも。そして、嫌な可能性は考えたくないのだが……()()()()()()()()()()()()()


「まずは学生グループの二人に、感謝する。おかげで早い段階で窃盗犯を、無傷で捕まえる事ができた」


 しかしまずは礼が先であるので、田井中はメガホンを使い、その場に集まった人達全員に聞こえる声を発し、学生グループの内の兄弟に向かって頭を下げた。

 自分達より年上の田井中に感謝されて、兄弟は恐縮した。そして、彼らの周りにいる、同じ別荘に宿泊している女性四人に「やるじゃん」などと()められていた。おそらく、あの中にカスミンという女性もいるのだろう。


「しかし、窃盗犯があのような状態になった原因は(いま)だに不明だ」


 礼を言うとすぐに、田井中は本題に入った。


「真下家を調べてみたが、彼が昏倒(こんとう)しうる原因は見つからなかった。もしかするとこの村に、無臭の毒ガス……もしくはウイルスのようなモノが充満しているのかもしれない。なのでこれから当分は……少なくとも検査が終わるまでは、ウイルスであった場合に備え、都市部にそれを蔓延(まんえん)させないよう、下山しないようにした上で換気を徹底し、カーテンも()け、お互いの家の状況を、できる限り()(あく)できるようにしていただきたいッ。誰かが窃盗犯のように昏倒した場合に備えてだッ」


 これからも、被害が広がる可能性を考えて。


「フザけてんのカナぁ、オッサン」

 そんな田井中の指示に対し、不満を言う者がいた。


 最初に聞き込みをした、湊誠人だった。


「それじゃあプライバシーも何もあったモンじゃないんじゃないカナ? というかそうしたら着替えはどうしろって言うのカナ?」


「女性も男性も、トイレや風呂で着替えなどを済ませてもらいたい。どこで誰が、いかなる状況で倒れるのかまだ分からんからな」


「はぁ!? オイオイどこまで(きゅう)(くつ)な思いをすればいいって――」


「あー。確かにね」

 しかしその文句は、学生グループの女子によって(さえぎ)られた。


「もしも倒れたらー」

「見つけて助けてもらわなきゃ死んじゃうかもだねー」

「窮屈だけどぉ、死ぬよりはマシだよねぇ」

「そうそう、命あっての物種(ものだね)だしねぇ」


 しかもそれは、田井中の主張を(よう)()するモノだったため、湊は舌打ちを一度すると、もう何も言わなくなった。


「…………まぁ、検査はすぐに終わるだろう。それと俺達は、森の調査に向かう」

 文句がやんだところで、田井中は再び口を(ひら)いた。


「もしかすると森の方に毒ガスか、それに(じゅん)ずる何かの発生源があるかもしれないからな。そこで、窃盗犯を昏倒(こんとう)させた原因の究明のためにも……森の地図を持っている方がいたら、是非(ぜひ)とも貸していただきたいッ」


     ※


「せっかくの清々(すがすが)しい朝だというのに、まさか事件が起こるとは思いませんでしたね田井中さん」


 毒ガス検知機『ガスワカール』を手に、田井中と森の中を歩きながら、伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンはぼやいた。


()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「?? オジサン、絵を()くのか」

「はい。マスターが描いているのを見て、私も描いてみたいと思いましてね」

「へぇ。どんな絵なんだ?」


 歩き始めて一時間近く。

 まだまだ歩き続ける余裕はあるものの、同じような景色が続き、さすがに精神的に参り始めたため、二人は会話をする事でそれを緩和しようと話し出す。


「朝日です」

 伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは誇らしげに語った。


「私、思うんですよ。太陽は偉大だと。そしてここ河濤村は、肘川市の中でも特に綺麗な朝日が見られる場所という事で、朝日マニアの方々には有名でして、それで来ました」

「朝日マニアってなんだよ」


 なんとも(なご)やかな会話が続き、お互いの心に余裕が戻ってきた。

 そして改めて、江島と、彼が師事している教授から借りた普通の周辺の地図と、調査のために、森を散策しながら教授が作ったという、森の地図を同時に広げた。


「とりあえず、帰りのルートはオジサンの髪で大丈夫として……今はこの(あた)りか」


 歩いてきた方向、距離、周囲の木々の配置を地図上に当て()め、田井中は現在地を割り出した。某国の森の奥地にかつてあった、暗殺対象の拠点を捜し出すために身に付けたスキルである。


 そして、教授が散策しながら作った地図には、生物の(ぶん)()が細かく書かれているため、今までに見かけた生物さえ覚えていれば、ある程度は位置を特定できた。


「というか、ここから遠いが……湖があるんだな。地図によれば、魚とかはいないようだが――」


 するとその時、田井中の中で(ひらめ)きがあった。

 同時に思わず、言葉が……驚きのあまり止まってしまう。


「…………田井中さん?」


「…………オジサン、もしかすると分かったかもしれん」


 しかしすぐに田井中は……まだ仮説の段階ではあるが、()()は今の内に相棒たる伝説の神獣にだけは教えておかねばならない事であると判断をして。彼は()(けん)(しわ)を寄せつつ……アーティスティックモイスチャーオジサンへと告げた。






()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 意外と早い解決ですのッ!? Σ(・□・;)

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― 新着の感想 ―
[一言] オジサンの朝日マニア設定まで拾っていただけるとは!?www あざーーーっす!!!
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