第10話:学生達はなにかを見たのか
うむ。
私にパリピな台詞はムズい。
「あぁー。回覧板の件ねぇ」
真下親子の別荘を後にした田井中達が、新たに訪れた別荘……それは、おそらく真下護が言っていた、六人の男女が借りている別荘だった。
ノックの後にドアが開くと、中から、髪を黒と金の二色に染めて、耳にピアスをつけている……簡単に言えば、見るからにチャラい男が出てきた。
しかし人は見かけによらない事を、田井中は長い探偵業、そして殺し屋業の中で知っているため、特に不快な感情を抱いたりはしなかった。
「ああ。それで、アンタらのアリバイの有無を訊きたいんだが」
「おぉーぅ。いいねぇいいねぇ、それっぽくなってきたじゃんよぉ!! 探偵さんFOOOOOOOOO!!!!!!」
だが相手がマトモな反応をしてくれなかったため、田井中はキレかけた。
世界中を探し回れば、相手の男のようなヤツは何人もいて、それが世界の当たり前だという事を知っているが……それでも耐えられるかどうかは別問題だ。
たとえ、田井中が冷静沈着な男であろうとも。
「んん~? お~いサト氏ぃ、そんなトコいないでこっち来てよぉ~♡」
するとその時、奥の方から女性の艶っぽい声が聞こえてきた。
「早くこっちでイイコトしよぉ~♡」
「カスミンちょ~~ち待っててねぇ~~ん♡」
カスミンと呼ぶ女性に対し、サトという名の二色髪の男は、猫なで声でそう呼びかけると、田井中達との会話を再開した。
「で、ええと……どこまで話しマシタっけ?」
「………………アリバイの有無について訊いていたところだ」
「い、いったい……中で何をしているんでしょう」と、背後にいる伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンが呟くのを聞きながら、田井中はまず冷静になるため、一度、眉間を右手で揉みほぐし、言った。
「あぁー! アリバイアリバイ! やっぱり、推理ものって言ったらアリバイ崩しっスよね! 特にしょうめーしゅーりょーとか博物館のヤツとかの推理ものが俺、チョー好きで! 全巻、家にコンプしてるっスよ! 他にも食いしん坊なヤツとか犬並みの嗅覚なヤツとかも好きだなー。あとは――」
するとサトは……なぜかアゲアゲな調子な、噂が好きなオバチャンもビックリなマシンガントークで田井中達を困惑させた。
だがしかし!!
「――あ、ところでアリバイって何スか?」
サトは肝心な事をなんにも理解していなかった!!
まさかの展開だったため、伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは思わずその場でズッコケた!!
一方で田井中は……今にも噴火しそうな顔でサトを睨みつけた。
「オイ小僧……大人をナメんのもいい加減にしろよ?」
殺し屋であった時から、現在進行系で精錬され続けている殺気まで発して、彼はサトへと本気で怒りをぶつける。下手をすると、二階堂平法【心の一方】のように相手を呼吸困難に陥りさせかねない凄まじい迫力だったが……田井中は最後の理性でそれをセーブする。
「あ、あばばばばばばばばばばッ」
途端にサトは竦み上がり、その両目に涙が浮かんだ。
「ご、ゴゴゴゴゴメンナサイマジメニハナシマスユルシテクダサイオネガイシマスイノチダケハタスケテクダサイッッッッ」
効果は覿面だった。
少々やりすぎたか、と田井中は思わないでもなかったが……それでも、時間との勝負なためしょうがない、とすぐに割りきった。
※
サトの証言を要約すると、彼ら六人(うち二人は男)は別荘に十時頃に到着し、その後はすぐに水着に着替えて川で遊んでいたという。
その時に真下親子を目撃しており、この時点で、十時頃からの真下親子の証言は事実であったと確定。しかし真下明日子とは違い、彼らの内の誰もが、不審者を目撃していないとの事だった。
ちなみに川遊びは三時まで続き、それ以降……現在に至るまで、部屋でみんなで【転生したら貝塚遺跡だった件。~エルダーバトルオーケストラ~】という、最近入手した、対戦型3Dアクションゲームをしているらしい。
「ま、紛らわしいですねッ」
サトとカスミンの会話から、どうしてもいかがわしい想像をしてしまった伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは内心憤慨しながらも、相手を不快にさせないよう、できるだけ小声でぼやいた。
「なるほど。話は大体分かった」
理解不能な情報が多々あったものの、それでも収穫はあった事でなんとか機嫌を直した田井中は、再び営業スマイルをしながら言う。
「今日はもう遅い。次の日にまた聞き込みに来るから……その時も、よろしくな」
「ひぃぃっ!?!?」
営業スマイルな田井中ではあるのだが、先ほどの殺気がトラウマになったのかもしれない。サトは情けない悲鳴を上げた。だが半分以上は自業自得なため、田井中達は気にせず、すぐにその場を、一礼してから立ち去った。
※
傾斜を越えれば、あとは平坦な道だった。
田井中達は、特に苦労する事なく最後の別荘へと辿り着いた……のだが、サトのキャラ、そして肘川市の特異性からして、次はどんな濃いキャラが出てくるのか、心配で仕方がなかった。
※
そんな田井中達を、未だにその存在は観察していた。
彼らが疲れた様子で、最後の別荘へと向かうのを見て「あぁよかった。ワシの正体とかはバレてないかもしれんのぉ」と、のんびりとした台詞を吐きながら。
次はもっと書きやすいキャラにしよう(ぉ




