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天才最弱魔物使いは帰還したい ~最強の従者と引き離されて、見知らぬ地に飛ばされました~  作者: 槻影
第二章

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第三十四話:その後は?

 魔導機械の自立思考は一般的に非常に読みやすい。特にマスターがいなくなったとき彼らは極めて効率的になる。


 そういう意味で、そういう風に作られたとはいえ、ジョークを言える白夜はとても……新しかった。だが、太古に生み出されたというオリジナル・ワンはそうではない。


 【機神の祭壇】攻略に必要なものはたった二つ。即ち、プロフェッショナルと人数だ。


 存在が露呈した魔導機械の神は追い込まれている。時間は人間側の味方だ。

 何故ならば、人間側には外部からの助けを呼ぶという手が使える。レイブンシティは半ば独立しているが、状況を聞けば外部の高等級探求者の中にも興味を持つ者が必ず現れるだろう。


 高等級探求者を動かすのに必要なのは証拠だ。それも、確固たるものであればあるほどいい。

 ワードナーの記憶だけでは少し弱いが、ギルドの下でクイーンアント、アルデバランの記憶が解明されれば、それが決め手になるだろう。


 大規模討伐依頼『灰王の零落』は分水嶺となるだろう。

 彼らの勝利条件は最大の天敵である《機械魔術師》と、最大の戦力である《明けの戦鎚》を殲滅する事。

 少なくとも、クランに大きな被害を与えれば人側はかなり及び腰になり、相手に時間を与える事になる。


 クラン《明けの戦鎚》。その本拠地である建物の会議室に、大規模討伐に参加する主要なメンバーが集まっていた。


 上座に座るのがランドさんとガルド、エティにマクネスさん、そして僕。それ以外の探求者は等級順に座っている。


 今回の大規模討伐に参加するのは、探求者等級B以上の、上級に区分される探求者だ。


 《明けの戦鎚》のメンバーについては特別に参加を許されているが、ここまで参加条件が厳しいのは、今回討伐する対象、クイーンアント、アルデバランが未だ最奥まで至った者のいないダンジョン【機蟲の陣容】を根城にする魔導機械であるためだ。


 そこそこの探求者では足手纏いにしかならない。故に、一流どころを集めた。例外的にリンとセイルさん達はいるが、それは僕が口添えしたからだ。気心の知れた仲間は何人いてもいい。


 今回の攻撃で攻め切れなければ、二回目の攻めは準備のためにかなり時間を空ける事になるだろう。


 ランドさんには今わかっている事の大部分を話した。

 ワードナーとの邂逅。機械の神の存在の可能性に、向こうがこちらの動向を知る術を知っている事。


 混乱を避けるために、神の存在については伏せて皆に説明するランドさんに、集まった探求者の内の一人、強面の男がこちらを威圧するような声で言った。


「つまるってところ、なんだ? 蟻たちが、攻め入るのを待ち構えているって?」


 獣人種の男だ。野生の動物を思わせる引き絞られた肉体に、鋭い目つき。髪はオールバックで、近くには布に包んだ長物を置いている。

 一見チンピラのようにも見えるが、この地ではよく知られる探求者の一人だ。

 この地の探求者については概ね知っている。

 S等級探求者。槍士(ランサー)、ハイル・フェイラー。この魔導機械蔓延る地でソロを貫きここまで成り上がった凄腕。


 彼も……敵ではないな。彼はそういう性格ではない。

 猫系の獣人なのだろう、強面とは裏腹に頭頂でぴこぴこ動く耳が少し可愛らしい。


 …………うちの子になる?


 ランドの代わりに、足を組み、ハイルに言う。


「我々の調べによると、ここ最近、モデルアント達は奇妙な動きをしている。いや――奇妙な動きをしたのはモデルアントだけじゃないようだが……君も知っているだろう?」


 ぎょっとしたようにランドさんと、エティが僕を見る。ギルドの副マスターとして出席したマクネスさんが顔を顰めていた。

 表情。態度。会議ではあらゆる手を使って存在感を出さねばならない。


「あぁ? あんた……だれだ?」


 黙っていると、ランドさんが仕方なさそうに紹介してくれた。


「……彼は、フィル・ガーデン、今回の件で加入してもらった特別アドバイザーだ。この手の大規模討伐を幾つか経験している」


 僕はそこで言葉を引き継いだ。笑顔でハイルに続ける。


「十三だ。そこから先は出禁になった。何しろ、僕の故郷だと大規模討伐は参加希望者が多くてね、経験者は後回しにされるんだが……まぁいい。ハイル、他に質問は?」


「…………てめえの等級は?」


「SSS等級だ、ハイル。彼はこの中で最も等級が高い。フィルも、もったいぶるのはやめろ、時間がもったいない。質問は後からまとめて受けよう」


 マクネスさんが代わりに答える。僕は割といざこざも好きなのだが、どうやらマクネスさんはそういうのがお嫌いのようだ。


「ッ……チッ」


 ハイルが足を組み、舌打ちする。だが、どうやら認められたようだ。

 高等級の探求者は一目置かれる。S等級探求者にもなれば格上を見る機会はなかなかないだろう。


 『我々』という言葉を使ったのもよかったのだろう。まぁ、色々調査してくれたのは《明けの戦鎚》なのだが、細かい事は言うまい。


「皆も知っての通り、ここ最近、魔導機械達が妙な動きをしたタイミングがあった。巣への大移動だ。特にモデルアントは巣に引っ込み、ほとんど表に出てこなくなっている」


 タイミングとしては、僕達が『風の船』で脱出したあの時だ。

 僕が確認したモデルアントの大移動だったが、大移動したのはモデルアントだけではなかった。


 上位者から何らかの命令があったのだろう。しかも、探求者にばれる危険すら冒して――。


 他の魔導機械達は通常の行動に戻っているが、モデルアントだけは未だ巣に引っ込んだまま、外に出てきていない。


 モデルアントの縄張り、【機蟲の陣容】は蟻の巣状に広がるダンジョンだ。掘ったのはモデルアントの一種であるビルドアント。現在でも拡張は留まる事を知らず、当然だが地図も存在しない。


 幸い、モデルアントは大きい。それが自在に出入りするため、そこまで狭くはないが、内部は暗く湿っていて、足場も余りよくない。


 ランドさんがキングアント討伐に動いたのは、探求者等級を上げるためというのもあるが、どこまでも巣を掘り進めダンジョンを拡張するその性質に危機感を抱いたかららしい。

 それでも、準備を重ねた末、キングアントが巣穴を離れ外に出るタイミングでの戦闘を選んだのだからそのダンジョンの難度がどれほどのものだかわかる。


 一応、ダンジョンの攻略等級はAという事になっているが、それは立ち入る者が少なすぎて等級が上がる基準を満たしていないからだろう。明確な基準が存在していると柔軟性が失われる事もある。


 そこで、マクネスさんが立ち上がる。


「実は……もう探求者の諸君は気づいていると思うが、ギルドはもともと、クイーンアントの存在を確認していた。情報の元になったのは、とある探求者が残した映写結晶だ。中には【機蟲の陣容】の探索の様子と、最奥に存在していた魔物が写っている。そして、その危険性から、クイーンアントの情報にはSSS等級未満の探求者には伏せるように機密処理がなされた」


「その探求者とは?」


「そうだ。君の想像通り――《機械魔術師》だよ」


 僕の問いに、マクネスさんが頷く。エティの眉がぴくりと動く。


 映写結晶とは周囲の光景を動画として保存する魔導機械だ。

 高価で壊れやすいため探求に持って行く者は余りいないが、《機械魔術師》には物質の転送スキルがあるため、そういう手法も成り立つ。


 この地の探求者で《機械魔術師》の力を知らぬ者はいないだろう。息を呑む精鋭達の前で、マクネスさんが映写結晶を放った。


 手の平大の魔導機械が空中にビジョンを映し出す。


 【黒鉄の墓標】とは異なる、雑に掘り出された大きなトンネル。ぼんやりと光る苔が生い茂る中、たった一つ、足音が響いている。


 どうやら主観で撮影していたのか、《機械魔術師》の姿は見えないが、ソロで魔導機械の巣に潜入するくらいだ、よほどの自信家なのだろう。


 【機蟲の陣容】には事前の情報通り、大量のモデルアントが生息しているようだ。

 乱雑に掘られたトンネルは四方だけではなく、時には上下にも広がっていて、迷宮の名に相応しい。多様に存在するモデルアントの大半は壁を自在に歩けるようで、三次元からの奇襲への対策は必須だろう。


 狭いトンネルでは数の利が生かせない。モデルアント側もそれは同じだが、相手はどうやら狭い空間で十全の能力を発揮できるように作られているようだ。

 それだけで、この大規模討伐依頼が一筋縄では行かない事が理解できる。


 だが、探求者達が映像を凝視しているのは、それが理由ではなかった。


 魔導機械に対する《機械魔術師》の力に、戦慄しているのだ。


 ガルドが頬を引きつらせて、鋭い目つきで映像を見ながら言う。


「強え……ッ。話には聞いていたが、これが魔術師の戦い方、なのか?」


「戦闘寄りの《機械魔術師》みたいだな」


 鎧袖一触。戦闘風景はその一言に集約された。


 指先から放たれた紫電が四方から襲いかかってくるモデルアントを撃ちつける。戦闘は、ただそれだけで終わった。外傷もほとんどなく、モデルアント達が崩れ落ちる。


 一体来ても十体来ても、そして恐らく百体襲ってきても――恐らくその戦闘光景は変わらない。余りに――圧倒的だ。


 雷の魔法でワードナーを攻撃したことのあるトネールがぽかんとした表情をしている。

 これは、ただの雷ではない。エティがすかさず説明を入れてくれた。


「『停止信号』のスキルなのです。システムに直接停止命令を出しているのです。特別な処置をされた魔導機械でなければ、抗えません」


「おまけに消費魔力も大きくない」


 ランドさんが僕の言葉に納得したように頷く。


「…………なるほど。《機械魔術師》が必須だと言われたわけだ」


 大抵の魔導機械は《機械魔術師》の敵にはなり得ない。だが、今回の相手は違う。


 奥に進むに連れ、どんどん洞窟が大きくなり、モデルアントの種類も多くなってくる。

 中には『停止信号』が効かない個体も現れ、そして、術者は倒れたふりをして後ろから襲いかかってくる個体が現れたその時、戦闘手法を『停止』から『破壊』に切り替えた。


 歩みは止まらない。明らかに内包したエネルギーの異なる雷光が洞窟を通り抜け、召喚された砲塔が雨あられの如く襲撃者を引きちぎる。

 どれほど上級のモデルアントも、唐突な奇襲も、その術者を止める事はできない。エティが難しい顔で映像を見ている。


 と、そこで唐突にマクネスさんが声をあげた。


「ここからだ」


 術者の歩みに従い動いていた映像がぴたりと止まる。

 光蘚がぼんやりと照らす洞窟の先。トンネルの幅が一気に広がっていた。

 傍観者からはわからない何かを感じ取ったのか、映像の人物がごくりと息を呑む音が聞こえ、映像が少しずつ前に進む。


 ――そして、僕達の前にそれは現れた。


 そこは、天井が見えない程の高さの、巨大な部屋だった。轟々と風の音が聞こえ、無数のトンネルがその部屋に繋がっている事がわかる。


 その中心にそれは在った。


「チッ。なんだこれは――」


 それは、未だ見たことのない魔導機械だった。


 下腹部が膨れ上がった巨大なモデルアントだ。その全長は恐らく百メートル近い大きさで、色は濃い灰色。そして何よりの特徴として、下腹部には透明な巨大な管がつながり、部屋中に張り巡らされている。

 周囲にはまるでその個体を守るかのように無数の最高等級のモデルアント達が屯していた。


 初撃必殺と言わんばかりの猛進ぶりを見せていた動画の撮影者が手を止める程の威容。


「クイーンアント――アルデバランッ!」


「体内で、モデルアントを製造している…………工場では、なくッ! こんな魔物、見たことが――」


 エティが愕然とした表情で目を見開く。


 その個体を見れば、誰だってそれをクイーンだと断言するだろう。


 下腹部に繋がった透明な管の中には、無数のモデルアントが蠢いている。それは、グロテスクで怖気の走るような光景だった。一体何体、何十体をその体内に収めているのだろうか?

 その時、地面を這い回っていた兵隊達の爛々と輝く瞳が撮影者を捉える。視界を共有でもしているのか、上から、下から、視線が向けられる。


 撮影者が選んだのは――撤退だった。


 部屋に存在していた最高等級のモデルアント達が壁を、地面を駆け、一斉に襲い掛かってくる。撮影者が素早い動作で踵を返す。映像は、そこで途切れた。


 皆が言葉を失っていた。これまでこの地の魔導機械達はあくまで機械だった。だが、あの光景は、アルデバランは、明らかに生物に近すぎる。


 これは……大規模討伐依頼の参加者が減るかもしれないな。


 そんな事を考えていると、そこでエティが恐る恐る声をあげる。


「映像を撮った人は、どうなったのですか?」


「あぁ。撮影した者は――猛攻を受けボロボロだったが、なんとか街まで戻り、映写結晶と一緒にギルドに報告した」


 だから映像が残っているというわけか。だが、まだ言っていない事があるだろう。

 いつも通り、難しい表情をするマクネスさんに尋ねる。


「その後は?」


 被害者が出なければ、ランドさんに情報を伏せる程の機密指定はかからない。

 マクネスさんは苦々しげな表情を作ったが、すぐに深々とため息をついて言った。


「その後は――クイーンアントを倒すと言い、再び【機蟲の陣容】に挑み――帰ってこなかった。そして、我々はこの個体を通常の探求者では手に負えないと判断し……SSS等級の機密指定を行った。これが、今回の我々の敵だよ」

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書籍版『天才最弱魔物使いは帰還したい』二巻、12/2発売しました!。
今回はアリスが表紙です! 多分Re:しましま先生はアリス推し! 続刊に繋がりますので気になった方は是非宜しくおねがいします!

i601534
― 新着の感想 ―
[気になる点] 機蟲の陣容のボスについて、SSSの機密指定したのに、ダンジョンはAのままというのは矛盾している。 必需品が発掘されたりするのでしょうか? 知ってて教えず潜るのを許可していたなら、ギルド…
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