67話 新人指導
ボブには速やかに彼女を呼び寄せる手紙を書いて貰い…、と、ボブは読み書きは苦手というので、タウロが代筆した。
彼女は読み書きができるらしいから、ちゃんと伝わるだろう。
手紙の内容は話すと本人が嫌がるので掻い摘んで言うと、
「ずっと待たせてごめん。以前に話した村に一軒家を格安で借りられたから一緒に住もう。君にも気に入って貰えると思う。」
というような内容だった。
細かく言うと個人情報が沢山入ってくるのでこれ以上は本人に聞いて下さい。
そして、その手紙を郵便屋に渡すと、すぐ出発して貰った。
ちゃんと特別料金を支払う。
通常、郵便屋は一定数溜まってからでないと動かない、元が取れないからである。
なのでタウロの自腹で多めに支払った。
とにかく善は急げである。
タウロはまた薬草採取のクエストで森に来ていた。
今回は、新人の冒険者も一緒だ。
受付嬢のクロエさんにお願いされたのだ。
新人に早く一人前になって欲しいので、薬草採取のコツを教えて上げて欲しい、という事だった。
タウロはダンサスの村のベテラン薬草採取専門の村人より、薬草に詳しい。
この村の資金源である薬草採取をできる者は一人でも多い方が良いのでタウロに教育を任せる事にしたのだ。
タウロは現在、Fランクに昇格している。
この黒い短髪、黒い目の体格に恵まれている新人はF-ランク。
ランクはほぼ同じで年齢は7歳も上だがこの新人のシンは、素直だった。
年下のタウロが説明すると少しでも早く全てを吸収しようと真剣だった。
「この薬草がヒーラ草という薬草で摘む時は根っこからではなく、その上から摘んで下さい。じゃないと次から生えてこなくなります。基本の薬草採取クエストはこれになります。」
「うん、わかった!」
「似ているものにこの草がありますが、これはタダの雑草なので気を付けて下さい。見分け方は葉の先のとがり具合と、茎の根元の太さです。」
「という事は…これは雑草?」
シンは近くに生えていた草を摘んでタウロに確認する。
「はい、それは雑草です、その横に生えてるのがヒーラ草です。よく、雑草に紛れてる事があるので気を付けて下さい。」
「なるほど。」
シンは年下のタウロに感心しきりだった。
噂では、この村の英雄ボブの助手として、ゴブリンナイトやゴブリンソーサラーとその集団を一緒に退治したという。
自分は、村の畑を荒らしていたはぐれゴブリンを他の村人達と一緒に退治した事はあったが、1体だけだ。
それを二人で10体以上も討伐したというのだから、この落ち着きぶりは伊達じゃない。
今も常に周囲を警戒していて、魔物の動きを察知していた。
最初、11歳の年齢とFランク帯とは似つかわしくない装備が目を引いていたが、今はそれが相応しいのがわかった。
逆になぜ、まだFランク帯なのだろうとさえ思った。
「薬草採取をしているとよくあるのが魔物との遭遇です。今は、出会ったら逃げて下さい。特にゴブリンは集団で行動するのが普通なので、囲まれてしまってからでは手遅れになるので警戒を怠らず、出会ったらすぐ逃げれるようにして下さい。」
「タウロ君もやはり最初は逃げたの?」
この雰囲気のある少年にシンは興味を持った。
「もちろんです、というか逃げまくってますよ。Fランク帯は一角うさぎなどの小さい魔物討伐でまずは慣れるのが基本です。他のを相手にしてもランクに影響もないですし、それがギルドとしてのルールですから。守らないと罰則もあるので気を付けて下さい。それに相手をして、万が一死んだら終わりですよ。」
確かにそうだ。
つい、戦っても勝つイメージしか持ってなかったから忘れがちだが、負ければ殺される、相手は魔物だ容赦しないだろう。
自分が殺されるところを想像してシンは身震いした。
「それでは、クエストのノルマは達成できたので、今から村の周辺で取れる高価な薬草を教えますね。今は収入的に生活が厳しいと思いますが、これを取れれば楽になりますよ。」
「おお!それは助かるよ!」
シンは目を輝かせた、必死で貯めたお金を握りしめて村から飛び出してきたが、日々の生活費を稼ぐのがやっとだった。
逆に赤字で少ない貯金を切り崩す日もある。
なのでタウロが教えてくれる事は、初心者冒険者としては助かる事ばかりであった。




