59話 格上討伐作戦
タウロがゴブリンの追跡を撒き、ダンサスの村に戻るとボブが待っていた。
「タウロ無事か!怪我はないか!」
「僕は大丈夫ですよ。」
タウロはボブを落ち着かせる為に笑顔で答えた。
「…すまん助かった。俺の悪い癖だ、逃げる手段は最悪の状況になってやっと思いつくんだよな。」
ボブは咄嗟に逃げる判断が出来なかった自分を反省した。
「いえ、とにかくお互い何もなくて良かったです。」
「そうだな。今は無事だった事をよしとすべきだな。」
ボブは気を取り直して頷いた。
二人はその足でギルドに行くと受付嬢のクロエにゴブリン10体程度とゴブリンソーサラーとゴブリンナイトが祠に住み着いてる事を報告した。
「え!…わかりました。でも、困りました。今、このギルドにはボブさんとタウロ君、地元の薬草採取専門で農家のカウノさん(62)しか在籍してません。他所から冒険者を回して貰うよう要請するしかありませんが、既に要請して来てくれた人はボブさん以外みんな去ってしまい、それからずっと誰も来てくれてません。」
受付嬢クロエがそう言うとため息をついた。
「このギルドの支部長は?」
ここに来て顔が見えないのでタウロはずっと気になっていた。
支部長になる人なら元冒険者だろう、戦力になるはずだ。
「今、この冒険者ギルドダンサス支部長は不在です。」
「いつ戻るんですか?」
「いえ、支部長自体が今はいないんです。前の支部長さんは就任直後によそ者に冷たい村人達にお怒りになり、すぐ辞めてしまいました。それからはまだ誰もいない状態です。」
「えー…。それはいつの話ですか?」
呆れながら、タウロが聞いた。
「3か月前くらいです。」
「俺がこの村に来た直前くらいだな。」
ボブも呆れた顔をした。
「はい、それからはずっと私がギルドを管理してました。」
これは思ったより深刻だ。
ここを去った冒険者達が他所でここの悪い評判を誰かに言えば、それを聞いた冒険者が来たがるわけがない、悪循環だ。
そもそも、支部長がいない事にはここは機能しない。
このままではこの支部は無くなるだろう。
村人達もそうなると困るはずだが、この村には何か外からの呪いの様なものがかかっている状態だ。
理解しても否定するだろう。
ボブの言うきな臭い何かを解かないとこの悪循環は止まらない。
かと言って、冒険者達は集まらない。
これはボブと自分の二人だけでゴブリン達を倒さないといけないようだ。
「今回のこのゴブリン討伐はギルドから緊急クエストとしてお二人に依頼します。期間は指定しません。」
受付嬢クロエも、状況を理解しての依頼であった。
「腹をくくりましょう。ボブさんと僕の二人で奴らを倒すしかないです。」
「だが、ソーサラーにナイトを含めたゴブリンの集団を倒すのは至難の業だぞ?」
「別に一度に、それも、すぐに倒す必要はないんです。」
意味ありげにニヤリと笑った。
「タウロ、悪い顔してるぞ…。」
ボブはたじろぐのであった。
その日からボブとタウロは徹底して祠の外のゴブリン狩りを始めた。
ゴブリンは集団で行動するので無理せず、1体でも倒せたらすぐに退く。
これにはゴブリンソーサラーや、ゴブリンナイトも厄介だと思ったのだろう、ゴブリンを率いて追ってくる事があったがその時は、ひたすら逃げて孤立したゴブリンのみを狩った。
ともかく今は、希少種は相手にしなかった。
これをひたすら繰り返し、数日が過ぎた頃、祠の周囲にいた普通のゴブリンは2匹まで減らす事に成功していた。
「そろそろいいんじゃないか?」
タウロの偵察報告を聞いたボブがしびれを切らしたのか提案してきた。
「焦ってはいけないです。残りのゴブリンがいなくなれば、ソーサラーとナイトは、自分で食料をみつけないといけなくなります。その時がチャンスです。」
「…わかった。」
ボブは焦った事を恥じると素直に従った。
その翌日、祠に住み着いた2体のゴブリンは食糧調達に出たまま、帰ってこなくなった。
タウロはそれから2日間、祠を監視していた。
『気配遮断』と食べ物を無限に保存できる『マジック収納』を持つタウロは監視向きだ、監視をボブが代わると提案したが、本番に向けて体力を温存しておいて下さいとお願いした。
タウロは能力こそ特殊なものが多いが、基本ステータスは子供のそれだ。
いざ戦闘になった時、火力はボブに頼らざるを得ない。
そんな思いの中、ついに祠からナイトが一体のみで出てきた。
遂に決着をつける時が来た。




