第571話 村への移動手段
古代遺跡調査団の指揮を執るネガメとの軽い衝突によるやり取りの翌日。
タウロ達は自分達が引き受けたクエストの依頼のあった村への道が別だったので、ついに調査団と離れる事になり、その分かれ道で親しくなった領兵や冒険者達に手を振ってお別れする事になった。
調査団の一行はタウロ達との別れを非常に惜しんだ。
これから野営でトイレは茂みでする事になるし、食事は支給の保存食、そして寝るときは見張りを立てながらと、《《いつもの》》に戻るからである。
タウロ達と別れる事で快適な旅が失われるのだから、それを嘆くのは当然であった。
「そっちのクエストが早く終わったら、俺達に合流してくれないか?」
「お宅らの飯がもう食べられないのは辛すぎるぜ……」
「茂みでするトイレは他の奴がしたものを誤って踏む事があるから、お宅らの設置してくれてた簡易トイレのありがたみを痛感するな……」
などとタウロ達に名残惜しそうに愚痴を漏らして別れていく。
そんな冒険者や領兵達には朝一番で食事を安価で提供し、昼用にとサンドイッチも販売しておいたからなおさらである。
その光景をネガメは苦々しく見ていたが、今日でそれともお別れと思って我慢して見過ごしていたのであった。
「それじゃあ、僕達も依頼主であるビクタの村に行こうか」
タウロはエアリス達に声を掛けるとみんなと円陣を組むようにして手を繋ぐ。
「──それでは『瞬間移動』!」
タウロがそう口にすると、視界に入るアンタス山脈の麓にあるであろう村目がけて移動するのであった。
ちなみに『瞬間移動』の能力は使用者が行った事がある事、もしくは移動先が確認できる視界の範囲内なら移動可能である。
タウロはアンタス山脈の麓の村というざっくりとした目標を目指し、その能力を使用した。
その為、『瞬間移動』した次の瞬間、タウロ達は空中に現れた。
「キャー!」
「お、落ちる!」
一同は急に足元の地面の感覚を失い落下する無重力感に、握る手は離さないが当然慌てる。
「続けて『瞬間移動』!」
タウロだけは慌てる事無く、空中で能力を使用すると、また、全員は落下途中で姿を消し、また、次の移動先の空中で慌てるという事態が起きる。
その度に悲鳴が起きるのだが、三度目が終了すると次の瞬間にはちゃんと地面の上に移動していた。
タウロは綺麗に着地したが、他のメンバーは腹ばいになったり、お尻から着地したりと散々である。
「……タウロ! 空中に移動するのは聞いてないわよ!」
とエアリス。
「そうだぜ! お陰で生きた心地しなかったぞ!」
とアンク。
「わ、私は、驚かなかったけどな」
なぜか強がるラグーネ。
「漏らすかと思いました……」
とシオン。
「ごめん、ごめん。初めての土地で『瞬間移動』で移動するとなると、遠距離を確認できる空中から見降ろした方が、次の飛距離を稼げるんだよ」
タウロはそ説明すると魔力回復ポーションをマジック収納から取り出し、飲み干す。
「……そうだとしても、次からはちゃんと説明して!」
エアリスが珍しく怒ってタウロを注意する。
「本当にごめんよ」
どうやらエアリスは高いところが苦手らしいとタウロは理解すると、改めて謝るのであった。
「これで結構距離は稼げたと思うんだけど……、また、やっていい?」
タウロは懲りずに提案する。
「……予定より早く進んでいるんだから、もう徒歩でいいだろ?」
アンクも足元が消えて落下する浮遊感はあまり味わいたくないのかタウロの意見には賛同しない。
「じゃあ、ちょっと村の位置を確認してくるね」
タウロはそう言うと、『瞬間移動』でその場から消える。
「リーダーはどこに行ったんだ?」
アンクが遠くを見る為に手をかざし光を遮るように周囲を見渡す。
そこでエアリスが遠距離の仲間の位置を確認する事が出来る探索系能力を使用した。
そして、その視線は上空に向けられる。
「「「上?」」」
ラグーネ達はエアリスの視線を理解して叙空を見た。
すると空に黒い点がこちらに向かって落下してくるのがわかった。
「あれ、リーダーか……?」
アンクが呆気に取られてそうつぶやく。
その黒い点は大きくなって人の形になり、その姿がタウロと視認できるところで、
「……タウロはこのまま落下するつもりなのか?」
とラグーネが呆然とした状態で不吉な事を口にする。
「お、落ちて来ますよ!?」
シオンも慌ててタウロを受け止めるべきか慌てだす。
「みんな、離れて、巻き込まれるわ!」
エアリスが冷静にみんなへ注意する。
その言葉に全員が落下地点から急いで距離をとった。
そこにタウロが落ちてくるのであったが、タウロには能力『浮遊』がある。
そう、だからタウロの死因に落下死だけはありえないのだ。
タウロは勢いよくエアリス達の目の前に落ちて来るが、着地だけはピタッと目に見えないクッションに勢いを吸収されるように降り立つ。
「ふぅ……。『浮遊』との組み合わせなら魔力も温存できていいね。落下中は怖いけど……」
タウロはみんなの冷たい視線を感じながら、この能力の意義について説明する。
「──お陰で、村の位置は確認できたよ。多分、徒歩だと二時間程度かな。移動はどうしようか?」
タウロはみんなに怒られる前に早口で話すのであった。
「……これからは徒歩でいいわよね?」
エアリスが怒るのも疲れたとばかりに淡々と提案する。
「……わ、わかったよ。それじゃあ──」
タウロはエアリスの逆鱗に触れないように静かに頷くと、マジック収納から子供型の自律思考型人形のセトと、大人型男女人形のアダムとイヴを出す。
そして、
「セト。アダムとイヴを連れて村に先行してくれるかい? 僕はセトの視界を共有しながら向かうから」
とセトにお願いする。
セトは頷くとタウロ達に手を振ると、アダムとイブを連れて村のある方向へと走っていくのであった。
「──僕達も行こう」
タウロはセトの向かった方向に真面目な顔でみんなに告げる。
「どんなに真面目な顔しても、さっきの無茶な行動は帳消しにならないぞ、リーダー」
アンクがタウロに対して鋭いツッコミをすると、エアリス達も無言で頷く。
「あはは……。ごめんなさい」
タウロは再度謝ってみんなに村へと進むように促すのであった。




