第567話 調査のその後
人形の実験から数日後。
冒険者ギルド・スウェン支部内は活気に溢れていた。
というのも、A-ランク冒険者チーム『青の雷獣』が発見した古代遺跡の為の調査チームメンバーの募集が始まったのだ。
依頼主は領主であるスウェン伯爵と国の連名で、学者や研究家なども名を連ねている。
そこに『青の雷獣』の名はない。
「『青の雷獣』の名がないですけど、いいんですか?」
タウロはその場にいたリーダーのジャックを見つけて声を掛けた。
「古代遺跡の発見を『青の雷獣』の名で発表した時点で他のチームも調査可能になったんだ。この依頼に関しては領主様と文化人連中が大金を出して音頭を取っている。もちろん、その一部は何もしなくてもうちの懐にも入って来るけどな。うちはそのお金で引き続き遺跡の調査をしたり、他の場所を調査する資金にするというわけさ」
ジャックはニヤリと笑ってタウロの疑問に答えた。
「なるほど。でも、古代遺跡にはどうやって入るんでしょうか? 通路は墓石で塞いだままですけど……」
オログ=ハイの追跡を逃れる為にタウロが道を塞いだから、再度の潜入は難しいはずだ。
そこに行くまでも狭い道があり、大きな荷物を持って通る事は難しいだろう。
「それらの道を広げたり、安全の確保をするのも、全てやるのが今回のクエストなのさ」
ジャックは事細かに教えてくれた。
だから今回、ジャック達『青の雷獣』をはじめ、前回帯同したB-ランクチーム『銀の双魔士』もそれを知っているから参加しないのだ。
それに参加可能対象チームが、Bランク帯からEランク帯と幅が広く、規模も五十人以上で、領主の派遣する兵などを合わせると三百人をゆうに超えるという大規模なものである。
備考欄をよく見ると、小さく「Eランク帯は魔物討伐から荷物運びや現場での肉体労働が可能な者」、が求められていた。
それはつまり、戦える労働者を求めているという事だ。
「クエストとは名ばかりの詐欺みたいな応募内容ですね……。気づかない人いるんでしょうか?」
タウロはジャックの説明でクエスト内容がはっきりわかって苦笑する。
「Eランク帯の連中は気づいていても参加する奴は多いだろうな。古代遺跡の調査に参加出来るのは安全を考慮すると、普通は高ランクの冒険者がほとんどだ。だが、今回のように大規模だと安全もある程度は担保できる。それに、そんな夢のようなクエストに低ランクの自分達でも潜り込めるのなら、力仕事だろうと後々、仲間への自慢にもなるから行きたいと思うのさ。ロマンを求めて命を掛けている冒険者も多いしな」
ジャックは自分が低ランク帯の時の事を思い出しながら、タウロに説明するのであった。
ジャックと別れてから、タウロ達はギルドの奥にある高ランク冒険者専用の特別室で新たなクエストを探していた。
「あの古代遺跡、まだ、お宝残っているのかしら?」
エアリスはタウロが暴いた大きな棺は王族のものであったからお宝が入っていたが、他の場所に同じようにお宝があるのかどうかに疑問を持っていた。
「どうだろうね。あの場所はかなり広い感じだったし、まだ、あの棺に入っていた遺骨はあの大きさで一人分だけだったから、他にお墓があってもおかしくないとは思う。だからその他のお墓にお宝が眠っていてもおかしくないかもしれない」
タウロは可能性を口にする。
「まあ、俺達は貰えるもの貰ったし、いいんじゃないか? それに他の冒険者達にも少しくらい儲けさせないと恨み買うぜ?」
アンクが処世術を口にする。
「アンクの言う通りだ。独り占めすると敵を作るだけだからな」
ラグーネがクエストの掲示板を見ながら答えた。
「自由の代名詞である冒険者も色々大変ですね……」
冒険者としては一番経験が浅いシオンが素直な感想を漏らす。
「はははっ、そうだね。今回は僕達も参加せずに見守る事にしよう。──みんな、何か良いクエストあったかな?」
タウロも掲示板を見ながら確認する。
「──これどうかしら? アンタス山脈麓の村に謎の魔物が度々現れて家畜を襲ったり、最近では村人に死者も出ているから、討伐して欲しいらしいわよ?元はDランク帯クエストみたいだけど、度重なる失敗でBランク帯クエストまで上がってきたみたい」
エアリスが擦り切れてボロボロのクエストをタウロに渡した。
確かにエアリスの言う通り、そのクエストは元はDランク帯のものが、度重なる修正でBランク帯まで上がっていた。
「そうだね、これにしようか。村人にも死傷者が出ているのなら緊急性が高いだろうし……。それに今はみんな古代遺跡に集中しているからこれをすぐに引き受ける人はいないかもしれない」
タウロは報酬がDランク帯用のままで、誰も引き受け手がない状態なのを危惧して頷いた。
「そにしてもこの北部のクエストは謎の魔物案件多すぎないか?オログ=ハイは俺達が偶然倒してリーダーが鑑定したからすぐに発覚し、冒険者ギルドで情報共有できたが、鑑定できない、死体を運ぶ手段がないチームは特徴をギルドに報告するだけだから普通は詳しい情報共有は難しいだろ?」
「魔物の一部位だけ持ち帰って鑑定してもらっても、詳しい情報を得られないのも難点だよね」
タウロはこの冒険者ギルドも大変だなと同情気味に言うと、クエストを受付嬢に提出する。
「あ、これを引き受けてくれるのですね、ありがとうございます! 依頼主の村も被害が大きくてこれ以上は報酬を出せないらしいので困っていたんですよ。近いうちにギルドもこのクエストを援助してでも解決させようという話し合いはされていたんですが、例の古代遺跡の件でその案自体が流れちゃって……。あ、愚痴をすみません、手続き完了しました。よろしくお願いします!」
受付嬢は感謝と共に事情を説明するとタウロ達にお願いするのであった。
「これも冒険者としての仕事ですから」
タウロはエアリス達に振り返ってみんなが頷くのを確認しながらそう答えるのであった。




