55話 新たなスタート
──第二部開始──
くすんだ金髪に青い瞳、顔立ちは整っていて将来モテそうな容姿だ、いっちょ前に革の軽鎧に身を包んだ少年が目の前には立っていた。
聞けば名はタウロ、まだ歳は11歳だという年齢の割には少し背が低いだろうか。
その歳で旅をし、冒険者ギルドの資格であるタグを持っていた。
木のタグだからまだ成り立ての素人のようだが身に纏うものはそれなりの冒険者の恰好だった。
まぁ、冒険者ギルドが身分を保証するのなら大丈夫だろう。
ダンサスの村の門番はそう判断すると、この少年が村に入る事を許可した。
「ダンサスの村へようこそ。この村の者はよそ者に警戒心が強いから、あまり疑われるような事をしない様に気をつけな、変な噂を広められる事があるから。あと、一応、この通りの青い屋根の建物が冒険者ギルドだ。」
「ありがとうございます。」
少年はお辞儀をすると村に入って行った。
タウロはサイーシの街を出て王都に到着後、迷惑をかけた人々に挨拶をして回った。
最初、その挨拶回りの先々でタウロを雇う勧誘をされたがどれも丁重に断った。
今は権力と関わりの無いところで暮らしたいと思ったのだ。
そこで、改めて安住の地を求めて旅に出たのだった。
タウロは大きな街にするかそれとも冒険者ギルドがあるレベルの小さい村にするか迷ったが今は権力者と関わりが薄そうなところが良いと思い、ギルドの簡単なクエストをこなしながら村を巡っていた。
「とりあえず、ギルドに登録しておこう。」
タウロは真っ直ぐギルドに向かった。
冒険者ギルドは一応、村の中では村長宅、集会所の次に大きな建物だったが青い屋根の塗料はかなり剥げ落ちており、寂れた感は否めず、ちょっと不安になるレベルだった。
入ると一応、毎日掃除はされているのか清潔ではあったがやはり、補修跡もあったりとボロボロ感はあった。
入ってすぐに受付がある。
愛想が無い黒髪、黒い瞳に丸い眼鏡が印象的な痩せた受付嬢にタグを出して
「この村を拠点に活動したいのですが。」
と、登録を申し出た。
「…ちょっとお待ち下さい。」
タグを受け取ると受付嬢の背後にある魔道具にタグを放り込むと
「確認しました。タウロ11歳Gランク初級者ですね。クエストはそちらの掲示板を確認して下さい。」
指をさした先の壁に掲示板があった、そして淡々と説明をされてタグを返された。
これまでの冒険者ギルドの中でワーストの対応だなぁ…。
と思ったがまだ聞きたい事がある。
「お勧めの宿屋はありますか?」
「宿屋はギルドから2軒横の名無しの宿屋、一軒のみです。」
「ありがとうございます。」
タウロはちゃんとお礼を言ってお辞儀をした。
受付嬢は礼儀正しさにビックリした顔をしていたが、それに気づかないふりをしてギルドを後にした。
まずは、宿屋に部屋を取ってから、改めてクエストをこなそう。
タウロは気分を変えて宿屋に入ると
「なんだい!ここは子供の遊び場じゃないわよ?」
という女主人?の第一声に迎え入れられた。
「いえ、宿を取りたいんですが。」
と、気分を害する事なくタウロは答えた。
「なんだい、お金は払えるのかい?先払いで頼むわよ。」
露骨に警戒されたが、宿泊費を聞いた。
「素泊まりは銀貨3枚、食事は一食に付き銅貨6枚貰うわよ。お湯は桶に一杯で銅貨2枚。」
「それでは素泊まりで10日分、前払いしておきます。」
タウロは小さい革袋から銀貨30枚を取り出した。
実は、革袋から出した様にみせてマジック収納から取り出しているのだが、それは秘密だ。
子供相手なので普段の値段で言ったのだが、金払いが良かったのに驚き、女主人はもっと高めに設定すればよかったと後悔した。
「食事はいいのかい?」
もっと支払わせようと思ったのか女主人は聞いてきた。
「食事は自分で作るので大丈夫です。」
「ふん、そうかい!部屋で調理なんてするんじゃないよ?火事にでもなっちゃ迷惑だからね!」
「はい、気を付けます。」
本当はマジック収納に食糧が大量に入ってるのでその心配がないのだが、それを言うとマジック収納の存在を明かす事になるので、秘密にしておこうとタウロは思った。
「そうかい。部屋は奥から2番目だよ。」
鍵を貰って部屋に向かったが、鍵が無くても入れた。
鍵は壊れている様だ。
あとで修理しておこう、勝手に部屋に入られるのも面倒だ。
中に入ると寝る為だけの1人でいっぱいの狭さで、作り付けのベッドが1つあり、それを椅子にするように、これも作り付けの小さい机と申し訳程度の空っぽの本棚が上部に付いていた。
幸い窓があるので、開けて換気を行えた。
窓を開けた事で光が入り、ホコリが舞っているのに気づいたので、タウロは念の為浄化を唱えて部屋をキレイにした。
タウロは気合いを入れた。
今日からここが、当分の拠点だ、と。




