503話 懐かしの面々
ダンジョンは基本国が管理し、出入りも国の許可が必要になってくる。
竜人族の村の始まりのダンジョンはそれこそ例外であるが、王都の傍のダンジョン『バビロン』は許可が下りないと貴族でもその出入りは厳しく制限されている。
そこにタウロ達『黒金の翼』一行は名誉貴族の地位と王家からの『王家直轄領における施設の利用と自由な出入りの許可』が本当に出来るのかを試してみる事にした。
もちろん、それを踏まえてタウロが試したい事もあったのだが、それはまず、許可についてが先であった。
「前回来たのはヴァンダイン侯爵救出の時だったね」
タウロはダンジョン『バビロン』を取り囲むように作られた城壁と城門を前に、少し懐かしそうにエアリスに聞いた。
「そうね。あの時はまさかパパが生きているとは思わなかったから、びっくりだったわ」
エアリスは「ふふふっ」と、当時を思い出して少し笑って見せた。
城門の傍の衛兵が、距離を取ってタウロ達に声を掛けてきた。
「何用だ?」
「僕はタウロ・ジーロシュガー名誉子爵、そして仲間の『黒金の翼』のメンバーです、入城を許可して頂きたい」
「ジーロシュガー名誉子爵?それでは記章と入城許可書を確認させてもらいたい、よろしいでしょうか?」
衛兵が一人タウロに歩み寄る。
「確かに、ジーロシュガー名誉子爵の記章を確認しました。では入城許可書もお願い──、そ、それは!?」
衛兵があるものを見て驚いた。
それはタウロの手にあった王家の紋章が入った金属の札であった。
裏には「王家直轄領における施設の使用、出入りを許可する」と彫られている。
「し、失礼しました!どうぞお入りください!」
衛兵は慌ててタウロ達の入城を許可する。
他の衛兵達は仲間の衛兵が驚き慌てている事に不審がったが、タウロの手に握られた札を見て慌てて道を開けて整列した。
「凄い威力……」
タウロは改めて自分が手にした物がどんなに力を持ったものなのか、自覚するのであった。
タウロ達一行はスムーズに入城すると、次の城壁まで向かう為に馬車を用意してもらっていた。
そこへ伝令から知らせを受けたらしい現場責任者が馬に跨って走って来た。
「ジーロシュガー子爵、お待ち下さい!」
「?」
タウロ達は最初から馬車の準備を待っていたから、逆に責任者が到着するのを待った。
「今回のご用件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
責任者は息を弾ませながら馬から降りて、訪問理由を確認した。
「あ、すみません。ダンジョンに入りたいなと思いまして」
タウロは軽い感じで答える。
「『バビロン』にですか?では、少々時間を頂いてよろしいでしょうか?護衛の兵士を用意しますので」
「あ、大丈夫ですよ。僕達冒険者でもあるので」
タウロはエアリス達の称号の証明である記章を指差して見せた。
「みなさん、称号持ちの冒険者でしたか!あ、しかし、最初の入城、まして、王家の入城許可を示す札も持っている方を護衛もなしに行かせると後で何か起きた場合、問題になりますので、やはり少々待って頂けませんか?」
現場責任者は汗を拭きながら低姿勢でお願いして来た。
「……わかりました。それでは今日は宿屋に泊まって明日の朝一番に向かいたいと思います。もちろん、護衛の方の費用はこちらでお支払いします」
「そこまでは大丈夫です。ありがとうございます。我々も王家の許可証を持った方からお金を取るわけにはまいりません。普段は必要経費は頂いていますけどね。はははっ」
責任者はタウロが理解ある対応をしてくれた事に安堵すると、冗談を言って返した。
責任者は宿屋に城内の一番良い宿屋に案内すると、仕事に戻っていった。
そして、翌朝。
宿屋の前には責任者の言っていた護衛の兵士が待機していた。
数は十名。
そして、その顔触れに驚いた。
「ツヨーク隊長!?」
そこには、以前この『バビロン』に潜った時護衛を務めてくれた金髪の長髪をなびかせた青い目のすらっとした板金鎧に身を包み槍を手にした凛々しい騎士が立っていた。
「うん?君はタウロ君?それにエアリス嬢まで。──なるほど、この数日噂になっていたジーロシュガー名誉子爵とは君の事だったのか。いや、子爵にこんな口の利き方は失礼だな。いえ、失礼しました」
「はははっ!久しぶりだなタウロ君!俺だ、覚えているか!?」
その後ろに控えていたのは、ダンサスの村の近くに出来立て間もないダンジョンの調査の時に知り合い、『バビロン』に潜る時にも護衛を務めてくれたスキル『武人』持ちの騎士タイチが立っていた。
「もちろんです!お二人ともお久し振りです!言葉遣いは以前通りでいいですよ。急に仰々しくされても困りますし」
タウロが懐かしさに挨拶して、普段通りでとお願いする。
エアリスも思い出して二人にお辞儀した。
ラグーネ達は初見なので、タウロ達の知り合いとわかって見守る姿勢だ。
「それでは、以前通りで。こちらのお偉方が君達に怪我があってはならないと我々に命令があったのだが、ダンジョンにはどのくらい潜るつもりかい?日数次第では準備もかなり必要になるのだが?」
ツヨーク隊長はベテランらしく重要な確認をした。
「前回同様、最初の『休憩室』までで大丈夫ですよ」
「『休憩室』?ああ、何もない部屋の事か。また、あそこまで行って何をするつもりだい?あそこはあの後も学者のシャーザ先生が調べたが魔物が入ってこないこと以外にはあまり調査が進んでいないのだ」
ツヨーク隊長はタウロ達一行の目的がわからず、答える。
「それも含めて、確認をしたいので案内お願いします」
タウロはニッコリと意味深に答えるとダンジョンへの案内を促し、出発するのであった。




