218話 食べ過ぎた結果
アンクの誰かわからない雇い主達の名前、エアリスのヴァンダイン侯爵の娘の証言、そして、トドメの王家の紋章の威力によって、タウロは少なくとも使者を装っていた捜査員を納得させる事ができた。
この捜査員達は翌朝、タウロ宅に訪れるとこれまでの非礼を詫びて、ダレーダーの街に帰っていった。
これでやっとタウロも一息つけると安心し、エアリス達に今日一日休みにすると告げた。
そうするとアンクは『憩い亭』に午前中から飲みに出かけ、ラグーネは自分の村に顔を出してくると『次元回廊』で帰郷する事に、エアリスはラグーネの村に興味があるから付いて行きたいと言ったが、『次元回廊』が自分ひとりしかギリギリ通れないと答えていた。
「『次元回廊』って、制限があるんだね。」
「うむ。私1人がギリギリなのだが、最近とんかつの食べ過ぎで太った気がするからちょっと心配なのだ。」
ラグーネはどうやら、それを確認する為にわざわざ休日なのに鎧を着て『次元回廊』を試そうとしていた様だ。
「では、行ってくる。」
ラグーネは『次元回廊』を開くと飛び込んだ。
が、壁に当たる様に止まった。
…僕も薄々感じていたけどラグーネやっぱり太ってた…。
タウロは内心でラグーネが太った事を確信した。
一番のショックはラグーネ本人で、
「やっぱり太ってた…。鎧姿のままで通れないとは…、これが目安だったのに…。くっ殺せ…。」
文字通り地面に膝と手を突いて落ち込んだ。
こればかりはタウロも励ませない。
ラグーネはここのところ、とんかつばかり食べていたのは知っていたし、忠告もしていた。
それはエアリスも同じだった様で、
「だから言ったじゃない。一日に二食以上もとんかつ食べたら太るわよって。」
と、ラグーネのここのところの食生活の偏りを指摘した。
毎日、二食も食べてたの!?毎日食べるだけでも太るだろうに…。
タウロは、内心でラグーネのとんかつへのハマり具合に呆れるのであった。
「…だ、大丈夫だ…!鎧を脱げばあちらにも行けるから。」
ラグーネを鎧を脱いでマジック収納に入れると、『次元回廊』であちらに出かけて行った。
「…帰ってきたら、ホームメイトのエアリスが食生活を改善して上げてね?」
「…ごめんなさい、気を付けるわ。でも、いつも気づいたら、『小人の宿屋』に食べに行ってる後なんだもん…!」
「ははは…、そうなんだね。ラグーネは量も食べるから、一日一食でも危険かもしれない。」
「そうね。戻ったら心を鬼にして改善させるわ…!」
エアリスは仲間の為に鬼になる事を決意するのであった。
「じゃあ、僕は村の外を散歩してくるね。あ、家の鍵は閉めて帰ってね。」
タウロはそう言うと、エアリスを置いてうちを出る。
「あ、ちょっと待って、私も出るから。」
エアリスはそう言うとタウロと一緒に家を出た。
「…で、タウロは今日、何をするの?」
意味ありげにエアリスが聞いて来た。
「…エアリスさん。その鋭い勘、どうにかなりませんか。」
タウロがエアリスに呆れながら答えた。
「タウロが意味も無く散歩するわけないもの。また、何か能力覚えたの?」
「…今回は普通だよ多分。覚えたの『魔力操作(極)』だから。」
タウロは包み隠さず答える。
「え?『魔力操作(極)』?『魔力操作』も上級魔法職でも滅多に覚えないからね?私が知ってるのでは、魔法を使う際、魔力消費の効率が上がるとか…。でも、タウロの魔法は闇の精霊魔法以外はあんまり使えないから意味がない気もするけれど。」
「ふふふ。やっぱりそうなのか…『浄化』を使った時に薄々そうじゃないかとは感じていたんだよね。はっきりと魔力消費の効率化が出来るとわかっただけでも収穫だよ。あとは色々試してみてからだけど…。」
タウロは何か想像している事がある様で、実験する気の様だ。
「そうね。じゃあ、村外れまで早速行きましょう!」
エアリスは例によってノリノリだ。
「あ、やっぱりついてくるのね。」
「それはそうよ。『創造魔法(弱)』を1人で使って死にかけた事があるんでしょ?ひとりで無茶したら、介抱する人が必要じゃない。」
「そうでした…。」
タウロは以前、ボブに上げた魔刀を創造魔法で作った時、魔力の消費が想像以上に膨大だった為、魔力枯渇で死にかけたのだ。
その際、気を失う前に魔力回復ポーションを飲んだ事で紙一重で助かった経緯がある。
「じゃあ、よろしくお願いします。」
タウロは保護者的なエアリスを連れて村外れまで行くのだった。




