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久々に会った初恋の訳アリ幼馴染とワンナイトした  作者: テル


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第三十二話 恩人の話

『一緒に、ホテル、泊まりませんか?』


 そんな美月の誘いから一週間経って、約束の土曜日。

 

 美月の先輩に会いに行くために、二人は隣り合って特急電車の指定座席に座っていた。

 これからまだ乗り換え込みで三時間弱かかるらしい。

 

 美月は左窓側の方に座って、景色をぼーっと眺めていた。

 一方で、一樹はそんな美月の姿を眺めていた。


 ホテルに誘われた時、一樹はどういうことかと正直頭が働かなかった。

 しかし何やら事情があるらしく、最初は美月を支えられるならとそんな気持ちだった。

 そのついでで美月と一泊二日のミニ旅行ができるという下心に近しい私情があったのだが……。


『そこって、イルミネーションとか有名らしんだよね……さ、察してよ』


 そんなことを言われた今、一樹の心は下心が九割を占めている。


 今までも美月と二人で出かけることはあった。

 それもデートと言われればそうなのかもしれないが、異性としてデートに誘われたのは今回が初めてだった。


 美月がどういう気持ちで誘ったのかは知らない。

 けれど一樹が思っている通り異性として誘ってくれたのなら、もしかしたら美月も一樹と同じ気持ちなのかもしれない。


 そんなことを考えながら、流れゆく景色を眺める美月を一樹は見ていた。


「電車から見る景色って、綺麗だよね」


 一樹の視線に気づいたのか、美月は窓の外を見たままそう言った。


「そうだな。綺麗だ」


 主語をつけずに一樹はそう返答する。

 すると、美月は少しだけ口角を上げた。

 

「これから会う先輩ってどんな人なんだ?」

「私より七個上の女性の人で、優しい人だよ。口は厳しい時が多いけどツンデレで、私に生き方とか教えてくれた。かっこよくて、優しくて、何度も助けられた……私の恩人」


 美月は過去を思い出すようにして、話終わりにはその顔には笑顔が浮かんでいた。


「なるほどな。その人と会うのは三年ぶりだったよな?」

「うん、だから……楽しみ。色々話したいなー」


 美月の先輩は一樹が知らない美月のことをたくさん知っている。

 だからまだ知らない美月のことを一樹も聞きたい。


 目の前の美月の笑顔の理由を一樹は知りたい。


 そんなことを考えていると、美月は笑顔をやめて、一樹の方を見た。


「ねえ、一樹」

「どうした?」

「話すかどうか……迷ったんだけどさ。昔のこと、話してもいい?」


 一樹はすぐに首を縦に振る。

 

「ああ、いくらでも聞く」

「……ありがと」


 美月はそう言うと、一樹から顔を逸らす。

 そして話し始めた。


「私さ、キャバクラやってんたんだ、昔……グラビアする前、中三の初めの方」

「中三って……」


 どんな話も受け入れるつもりだった一樹は言葉を失いかける。

 

 中三でキャバクラをしていたなんて、普通なら考えられない。

 

 けれど俯きながら頷く美月を見て一樹は我に帰った。

 自分にとっての普通と相手にとっての普通は違う。


 だから心配の言葉も、驚きの言葉も、どちらも美月にかける言葉として間違っていると思った。


 一樹は言葉をかけるかわりに美月の右小指を一樹の手で握った。

 すると美月は強張らせていた肩の力を少しずつ抜き始めた。


「いいよ、そのまま……なんでも聞くから」

「……それで、大学生だって店に偽ってもらってキャバクラで働いててさ。先輩とはその時に会ったの」

「美月が働いてた先の先輩だったってことか?」

「そう。最初は私、大人の男性との接し方なんてわからなかったし、顔も体もまだ中学生っぽかったからあんまり人気じゃなかった。指名してくれるおじさんも変な人ばっかりだった。私も変だし、そういうの承知で働いてたからいいんだけどね。それに、同じキャバ嬢の人は中学生の私に厳しい人が多かった……それで困ってる時に先輩がノウハウを教えてくれたんだ」


 美月は先輩の話をし出すと、顔を明るくする。

 

 それゆえ、どれだけ先輩が美月にとっての光だったのかがわかる。

 

「人との接し方、業界での生き方。それだけじゃなくて、人間としての礼儀とか常識とか……本当にたくさんのこと教えてくれた」

「いい先輩だな」

「……うん。だからいつか、恩返ししないといけないんだ」


 話終わりの頃には、また美月の顔に可愛らしい一輪の花のようなものを咲かせていた。


 また一つ、美月の知らないことを知れた。

 知らない美月を知るたびに、一樹は隣にいる女性の魅力は上がり続けている。


 ちょうどその時、列車が曲がり、日の光が二人に降り注ぐ。


 けれど彼女の今の姿に逆光という言葉は似合わないような気がした。


 隠れる場所一つない昼の光に注がれる中で現れる彼女の影も、今この瞬間のように日の光より輝く彼女の笑顔も。

 そのどれもが一樹にとっては魅力的に思えて仕方がなかった。


 それからしばらく、美月と話しながら電車に揺られているうちに、気づけば目的地駅へと着いていた。

 長いと思われていた電車旅も話していればあっという間だった。


「ちょっと早めに着きそうだね」

「だな。ずっと座ってて疲れたし、ゆっくり歩きながら行かないか?」

「うん、そうしよ」


 十二時前、『先輩』との待ち合わせが十二時半である。

 駅と繋がっているデパート内のレストラン前で待ち合わせなので時間はそこそこある。


 そうしてあとは先輩に会うだけ、そんな状況になった時だった。


 一樹に緊張が訪れた。

 するとどうだろうか。


 緊張を自覚した瞬間から、歩き方すら忘れてしまいそうになっていた。


「先輩と会うの楽しみだなー」

「よかった……な」

「……一樹?」


 顔も言葉も硬くなった一樹を不思議に思ったのか、隣を歩く美月は首を傾げる。

 一樹は緊張を悟られまいと笑顔を作るのなが、余計に不審がられる。


「もしかしてだけど……緊張してる?」

「人見知りだからな。なんか、緊張してきた」

「ふふ、一樹ってやっぱり可愛いところ多いよね」


 大学生活で仲良くなった人はおそらく十人も行かない。

 

 高校生までは旧来の友達がいたのでまだよかったのだが、大学生になっての全く新しい環境。

 そこで初めて自分の人見知りに気づいたわけである。


「心の準備すればするほど緊張しちゃうんだよな」

「あはは、心の準備って何? 別にただ会うだけなんだから」

「それは……そうなんだが」


 そうして二人でそんな会話をしながら歩いている時だった。

 

 どうやらちょうどいいことに一樹には心の準備をする暇がそもそもなかったらしい。


「ねえ、もしかして美月?」


 美月は誰かに声をかけられて振り向く。

 つられて一樹も後ろを振り向いた。


 するとそこに立っていたのは綺麗な容姿を持ち、美月よりも小柄な女性だった。

 

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