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地味令嬢の魔力は規格外です。婚約破棄? どうぞご自由に。でも、この国の結界が消えても知りませんよ?  作者: 九葉(くずは)
第一章

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最終話

圧倒的な力の差を前に、完全に戦意を喪失したユリウス殿下は、アシュレイ様の配下の騎士たちによって丁重に、しかし有無を言わさず「保護」された。王都が危機的状況にあることに変わりはない。アシュレイ様はすぐさま国王陛下に事の次第を伝える書状を送り、私と共に王都へ向かうことを決めた。


「君を、これ以上危険な場所に連れて行きたくはない。だが……」

「わかっています、アシュレイ様。これは、私が始めなければならなかったことの、後始末ですわ」


馬車に揺られながら、私は彼の大きな手を握った。もう、一人ではない。彼の存在が、私に無限の勇気をくれる。


王都に戻ると、その惨状は想像以上だった。

街には活気がなく、人々は疫病と魔物の脅威に怯え、空はまるで鉛のように重く淀んでいる。私が維持していた結界は、もう虫の息だった。


私とアシュレイ様が王宮に到着すると、国王陛下自らが出迎えた。陛下の顔には深い疲労と後悔の色が浮かんでいる。


「エリアーナ嬢……すまなかった。我々は、とんでもない過ちを犯してしまったようだ」

「お顔をお上げください、陛下。今は、一刻も早く王都の機能を取り戻すことが先決です」


私は国王と大臣たちが集まる謁見の間で、これまで自分が担ってきた役割――王都の大結界を維持・管理してきた事実のすべてを包み隠さず話した。そして、結界を修復・再起動させるための具体的な方法を提示する。大臣たちの中には信じられないという顔をする者もいたが、私の規格外の魔力を目の当たりにした国王陛下と、何より『氷の公爵』アシュレイ様が後ろ盾となっている今、誰一人として異を唱える者はいなかった。


そして、偽りの聖女、リリアーナと、私の家族もその場に引きずり出された。

リリアーナは、私の姿を見るなり「いやぁっ! 悪魔よ! あの女は国を滅ぼす悪魔だわ!」と見苦しく叫んだが、その言葉を信じる者はもう誰もいない。


「聖女リリアーナよ。其方、本当に聖なる力を持っているというのなら、今この場で、淀んだ王都の空を浄化してみせよ」


アシュレイ様の冷たい声が響く。

リリアーナは顔を真っ青にしながら、必死に祈るふりをするが、当然、何も起こらない。彼女の虚偽は、完全に白日の下に晒された。


「リリアーナ……お前、今まで私たちを騙していたのか!?」


ユリウス殿下が絶望の声を上げる。

私の父と継母も、自分たちの犯した罪の大きさに気づき、その場で崩れ落ちた。彼らは、自らの野心と虚栄心のために、本物の救世主を追放し、偽物を祭り上げたのだ。その代償は、あまりにも大きかった。


ヴァインベルク侯爵家は、国家転覆未遂の罪で爵位を剥奪。父たちは領地を没収の上、北の僻地へ幽閉されることが決まった。そして、リリアーナとユリウス殿下は、王家と国を欺いた大罪により、その身分を剥奪され、生涯を修道院で過ごすこととなった。彼らが望んだ栄光も愛も、全ては砂上の楼閣のように崩れ去ったのだ。


まさに、最高の「ざまぁ」だった。

けれど、私の心にあったのは、爽快感よりもむしろ、一つの時代の終わりを見届けたような、静かな感慨だけだった。


全ての裁きが終わった後、私は一人、王宮の最上階にある『星見の間』にいた。

ここは王都の魔力が集まる中心地。大結界を再起動させるのに、最も適した場所だ。


窓の外に広がる、沈みかけた王都の景色を見つめながら、私は深く息を吸い、魔力を練り上げていく。

もう、誰かのために自分を犠牲にする力じゃない。

私が愛しいと思う人々が、穏やかに暮らせる未来を守るための力。


「――古き理よ、今一度、我が声に耳を傾けよ。光の礎となりて、この地を穢れより守りたまえ――」


私の体から放たれた白銀の魔力が、奔流となって空に駆け上る。

魔法陣が王都の空を覆い尽くし、浄化の光が雨のように降り注いだ。街の淀んだ空気は一掃され、疫病の元凶となっていた瘴気も消滅していく。弱り切っていた結界が、以前よりもさらに力強く、そして温かい光を放ちながら、完全な復活を遂げた。


空には、美しい夕焼けが広がっていた。

全てを終えた私の体を、ふわりと、優しい腕が背後から包み込む。


「……お疲れ様、エリアーナ」

「アシュレイ様……」


振り向くと、血のように赤い瞳が、愛おしそうに私を見つめていた。


「君は、本当にすごいな。たった一人で、この国を救ってしまった」

「一人では、ありませんわ。あなたが見つけてくれたから、信じてくれたから、私はここにいられるのです」


彼の胸に顔をうずめると、冬の森のような、澄んだ安心する香りがした。


「エリアーナ」


アシュレイ様は、私の肩を掴んで、まっすぐに向き直らせた。

その表情は、いつになく真剣だった。


彼は、私の前で再び、恭しく片膝を突いた。

あの日、絶望の淵にいた私を救い出してくれた時と同じように。


「君はもう、誰かのための道具でも、国のための礎でもない。ただ、一人の女性として、幸せになるべきだ」


彼は、懐から小さなベルベットの箱を取り出し、開いた。

中には、夜空の星をそのまま閉じ込めたような、美しい青い宝石の指輪が輝いている。


「俺の、唯一の光。俺の人生の、全てだ。エリアーナ、結婚してほしい。俺の妃として、これからの人生を、共に歩んではくれないだろうか」


それは、私が今まで聞いたどんな言葉よりも、甘く、誠実な愛の告白だった。

見せかけの評価でも、家柄のためでもない。

私の本質を、私の魂そのものを愛してくれる人が、ここにいる。


涙が、今度は悲しみからではなく、どうしようもないほどの幸福感から、とめどなく溢れ出した。


「……はい、喜んで。私の全てを、あなたに捧げます」


私の答えに、彼は心の底から嬉しそうに微笑み、指輪を私の左手の薬指にはめてくれた。ひんやりとした感触が、永遠の誓いのように感じられた。

立ち上がった彼に抱きしめられ、交わした口づけは、夕焼けの空よりもずっと、甘く、温かかった。


こうして、私は地味で目立たない侯爵令嬢としての人生を終え、アーベンハイト公爵妃として、新しい人生を歩み始めた。

隣には、誰よりも私のことを理解し、愛してくれる人がいる。


もう、力を隠す必要はない。

孤独に耐える夜もない。


私は私のままで、彼の隣で笑う。

規格外の魔力は、今度は、愛する人々と私たちの幸せな領地を守るために。


窓の外では、完全に蘇った王都が、七色の光に輝いていた。

それはまるで、私と彼の輝かしい未来を、祝福してくれているかのようだった。

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― 新着の感想 ―
結界張ってた事や膨大な魔力の事は誰も知らないって設定になってたのに、なんで前話では王子がエリアーナが結界張ってた事知ってたんだろう? エリアーナは結界を王家に頼まれてたとかじゃなかったんならいつでも止…
クソみたいな立地なのか他に理由があるのか分からないけど、 結界が無いとアカン場所なら、 これまでの王の誰かがさっさと遷都していたと思うんだ
公爵の妻は妃ではなく夫人ですね。 王族の妻なら妃ですが、自分の妻を妃よびする公爵は王位の簒奪でもするつもりなのでしょうか…(?_?) 最後に何やら不穏なラストで気になりましたwww
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