佳代編 5話
「警察に行った方が良いと思いますよ!」
「へ…?」
口角を上げたニヤリ顔のまま佳代は膠着していた。
警察に行った方が良い。
至極真っ当な提案だ。
真っ当過ぎて佳代には理解出来なかった。
理解出来ないが為に頭の処理が追いつかない。
だからこそ膠着などという無様を晒してしまっていた。
「どうしたんですか?中岸さん?」
「あ…えと…私…困ってるから…だから…」
「なら尚更警察とかに行って相談しないと!ストーカー被害ならちゃんと取り合ってくれますよ!」
「ちょっ、ちょっとまって!警察は大袈裟よ!少し、少し一緒にいてもらえたら良いなぁ…てっ?」
「何言ってるんですか!ストーカー被害は大袈裟なんかじゃないですよ!ちゃんと警察に相談にいかないと!なんなら俺も一緒に行きましょうか?」
「はぁ…あ…いいわ…一人でいくから…」
「別に気にしなくてもいいですよ?一緒に…」
「いいから!本当に!!」
そう言って佳代は走り去って行った。
一人ポツンと取り残された相澤智樹。
彼は心配そうに走り去る佳代の後ろ姿を見つめた後、何だったんだと独り言をこぼし、頭をポリポリとかいてから帰路についた。
「ハァハァハァ……くそっ!…なんなの!なんなの!なんなのよ!!」
智樹が見えなくなってから佳代は悪態を付いていた。
何だかんだ彼女は自分の見た目にそれなりに…いや、かなりの自信を持っていた。
三十路だとか若くないだとか…色々と言われた所で自分が美人である事に変わりはない。
事実それなりな年齢の男職員からはそう言う視線を感じていた。
ましてや工場務めの若い男なんて皆性欲に溢れていて然りだ。
それは相澤智樹も変わらないはず。
若ければ若い程性欲をより強く持っているものだ。
なのに!なのに!
あの男はどうして手を出さない!
普通アレだけ迫れば性欲にほだされて手を出すだろう?それなのに警察だ?
巫山戯ているのか?
もしかしてイ◯ポなのか!?不能なのか!?
……若い女以外には興味ないのか……。
「結局若さか…」
あの男は若い女…愛梨と一緒の時間が多い。
とどのつまり…いまさら三十路女の色仕掛けなんて意味をなさない…そう言う事なのだろう…。
目の前には極上の女体があるのにどうして三十路女に欲情出来る?
出来るわけ無いのだ。
「くそくそ…くそ……嫌だなぁ…このままババアになるだけなんて……嫌だぁ……」
これからの自分の運命を呪い佳代は咽び泣く。
勤め先の工場はどういう訳か若い女が多い。
確かに男性職員からいやらしい視線を向けられる。
向けられるけど…あくまで向けられるだけ…。
若い女がそこにいるならそっちが優先される。
佳代はついでだ。
若い女のついでに見られる。
勿論見られたいなんて欲求はない。
汗臭いおっさんに欲情されても気持ち悪いだけ。
だからおっさんに見られないのは本来なら良い事のはずだ。
でもこの惨めさはなんだろう…。
この苛立はなんだろう…。
男から女として価値がない。
そう言われているみたいだ。
次の日。
佳代は仕事を休んでいた。
体調不良を理由に。
愛梨が心配そうに智樹に話しかける。
「佳代さん大丈夫かな?」
「え…?あぁ…体調が悪いからって理由だからなんとも言えないけど…多分大丈夫だと思うけど…どうだろう…」
「私…心配だよ…」
「……そういえば昨日さ…」
「え…?」
智樹は愛梨に昨日の事を話した。
ストーカーに追われているかも知れない事、警察に行く事を進めたら突然機嫌を損ねて帰った事。
「てっ事があってさ。」
「佳代さんストーカーに狙われてるの!?そんなの凄い大変だよ!」
「だろ?だから警察に相談したほうがいいって言ったんだけど…」
「……多分佳代さんトモ君に守って欲しかったんじゃないかな?」
「守る?俺に!?」
「わかんないけど…多分」
智樹は愛梨の言葉に釈然とした物を感じなかった。
言葉としての意味は理解出来る。
女は男に守って貰いたい…そう言う欲求みたいな物を持っているものだと何となく理解は出来る。
しかしだ…
10個は下のガキに守られて嬉しいモノなのか?
これが互いに惹かれ合ってる男女の関係なら年の差なんてとそんな風にもなるのかも知れないが智樹は佳代と殆ど会話らしい会話をしてはいない。
愛梨を介してのコミュニケーションしかとっていないのだ。
それが智樹の感じた違和感だ。
そもそも交流がまともにない異性に守って貰おうとか違和感しかない。
「立儀さんは中岸さんが俺に守ってもらいたがってるんだって思うのか?」
「わかんない…わかんない…けど…」
結局答えなんて出ないままその日は仕事の忙しさに忙殺され佳代の話題がこれ以上出てくる事は無かった。
その数日後、佳代は仕事を辞めた。
普通、辞職にはそれなりの手続きがいるし辞めるなら引き継ぎなどの都合上一ヶ月は滞在する義務があるが佳代はそんな物はお構い無しに突然仕事を辞めた。
その後佳代が何処で何をしているかは愛梨にも智樹にも知る事は出来ない…。
二人は結局佳代の事をろくに知らないのだから…。
そして工場仕事を突然辞めていく従業員というのは珍しくない。
こんな言い方をするのも角が立つが普通の事なのだ。
だから二人が佳代の事を忘れてそんな人も居たねと言われてしまうのもある意味仕方の無い事だろう…。
次回で最終回とします。
愛梨と智樹の馴れ初めとかを裏で投稿しょうかなとか思っています。




