佳代編 3話
働き始めてなんとか最初の一日を凌ぐ事は出来た。
最初の一日は先輩にあたる立儀愛梨の後ろを付いて周り彼女の仕事をする姿を見ているだけで済んだから良かったがそれで得た感想と言うか印象は…
「こんなの私に出来る訳ないじゃない…」
だった…。
だって…そりゃそうでしょ?
私は今まで仕事なんてした事がない人間だ。
そんな人間にここの仕事は過酷過ぎるんだ…。
そもそもとしてお金稼ぎなんてのは男に向かって媚びを売ってればお金が貰えるって程度が私の認識だ。
お金稼ぎなんてその程度の物だと思ってたし、こんなしんどそうな思いをしても稼げる金額はたかがしれてるんだから…割に合わない。
この愛梨とかいう女も顔は良いんだからこんな過酷な仕事を馬鹿正直に熟さなくてももっと賢い生き方があるんじゃないかと要らぬお節介をやきたくなる。
何を馬鹿正直にこんな辛くてつまらないだけの作業をやらなければならないのか…
この女だって本当はそう思ってるはず…
少し粉をかけてやろうか…。
「ねぇ?少しいい?」
「うん?なぁに?」
「貴方どうしてこんなむさ苦しい所で働いてるの?貴方の容姿ならもっと綺麗な所で働けるでしょ?」
「あはは…それは買いかぶりだよ〜…」
「そんな事はないわ…容姿は最大の武器よ…貴方はそれだけの物を持ってるじゃない…」
「見た目がいくら良くても意味なんてないよ…」
「馬鹿ね…男に媚びてその馬鹿でかい胸でもチラつかせれば簡単に稼げるでしょ?」
「そーいうのはしたくないかな…自分の体を安売りしても得られるのは最終的には傷物になった自分って結果だけだしね」
「傷物……ね…でもそこは上手くやれば良いじゃない?女は度胸よ?」
「でもその後に待ってるのは破滅とかだよ…私一人が破滅するならまだ良いけど私を助けてくれた人達に報いる為にもそーいうのはしないって私決めてるから…」
「ふーん…そう…」
………驚いた…
この女…ポワポワしてるだけかと思ってたけど…しっかりと理解してるんだ…
美人である事にうつつを抜かすとどういう結末に向かうのか…。
この子位の年齢の頃…私は色んな男の下を転々として宿を得る対価に体を差し出していた。
安売りしていた。
あの糞教師に裏切られ、捨てられてから色んな男の下を転々として…正直嫌だった…何故私がこんな思いをと思ってたけど…かといって家に帰る勇気もなく、そんな刹那的な行動に逃避していた。
抱かれて快楽に溺れている内は嫌な事を考えなくても良かったから…。
でもそれも終わりだった…金払いのいい男は私が三十路に差し掛かると手のひらを返した様に私の相手をしなくなり、逆に金を要求してくる者まで出てくる始末…
どうにかしないとと思ってた所に私は立樹と再会してアイツに依存…寄生した…。
まぁ…アレが最善だったなんて最初から思ってなんて無かったけどね…。
とか色々思索を巡らせていると定時に差し掛かり今日の労働は終わりとなった。
「お仕事が終わったらね、ここのタイムカードを切ってね!着替える前に切るのが暗黙のルールだからね!」
「別に良いけど着替え終わってからでも良くない?」
「えぇ…とね、着替えてからだと時間稼ぎとかを疑われるから…時間を稼いで時給を少しでも多く貰おうって人が昔いたみたいなんだ…だから…」
「せこい人もいたものね…」
「あはは…」
せこいお金稼ぎの仕方なんて星の数程あるモノだなと感心する…
私みたいに体を使って稼いだり…
時給を少しでも多く貰う為に小細工を弄したり…
やってる事の規模は随分違うけどせこいって意味では大差ないと個人的には思う。
そんな感じて二人で他愛無い話をしてると男が話しかけて来た。
「どう?立儀さん?うまくやれてる?」
「あっ!トモ君!」
「ちょっ!トモ君って呼ぶな!俺は先輩だぞ!」
「えへへ〜トモ君はトモ君だよ〜」
個人的な思索にふけってると隣でなんだか甘ったるい空気が展開し始めた。
若そうな男と立儀愛梨がとても気分良さそうに話していたのだ。
この男は相澤智樹、立儀愛梨の先輩にあたる男性社員だ。
立儀愛梨よりも1〜2歳若いが彼女よりも早くからここで働いてる先輩であるらしい。
立儀愛梨がここに入社してから彼女の面倒を見てたらしく年齢は彼女より若くとも経歴的には立派な先輩らしい。
「まったく!ゴメンな中岸さん、立儀さんはちゃんと指導出来てた?」
「え?は…はい…問題ないです」
「そっか…なら良かった」
「もう!だから言ってるじゃん!私ももうベテランだよ!トモ君!」
「調子にのるな!慣れ始めが一番怖いんだ!」
「注意し過ぎるくらいが丁度いいんだ!だよね?」
「うぐっ!そ…そうだ!」
「うふふ!」
この二人は別に付き合ってるわけでも無くただ社内の後輩先輩ってだけの関係らしい。
しかしなんだ…この初々しい空気は…
反吐がでそうだ…
どこからみても両思いの片思いカップルだ…。
こういうバカップルを見てると胸糞悪くなる…。
私は恋愛なんて上手く行ったことが無いのに見せつける様にしやがって…
ブチ壊してやろうか…
私の中でそんな良く無い声が聞こえた気がした。




