第20話
かつん、かつん。
石床を叩く、靴の音。
「…おい」
「ああ、聞こえた」
警戒した兵士が互いに顔を見合わせて頷く。
交代までは時間がある。こんな場所の廊下を、夜中にうろつくのは怪しい奴だけだ。
しかし急ぐでもなく、隠れるでもなく、足音はただ暗い廊下に反響する。
ついてない。どうせ侵入者なんていやしないさ。喉の乾きに耐えられなくなったお偉いさんかそのお付きが、野営地へ行くと駄々でもこねるんだろう。
そう呟き、兵士の一人は舌打ちして不審な足音を追った。
残されたもう一人は、うっそりと眉をひそめる。
妙な噂を、見張りの前に聞いていたからだ。馬鹿な噂だとは思うのだが…。
「…おい、止まれ、そこの…女?」
怪訝そうに、兵士は誰何した。
静かな廊下の先で聞こえる仲間のその声に、残った兵士も慌てて後を追った。
「そこで何をしている」
兵士達は素早く剣を抜いて構える。
廊下を一定距離で照らす弱々しい蝋燭の火に、浮かび上がった後ろ姿。
女は足を止め、こちらを振り向こうとし…
ぱしゃん。
小さな水溜まりを残して、消えた。




