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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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番外編:お揃いのメリークリスマス

今日はお昼と夜で2羽分更新

 今日は待ちに待った公式クリスマスイベントの日。現実ではまだ23日だけど、箱あるでは一足先に雪が降りホワイトクリスマスが始まっていた。心が弾んで、胸の奥がじんわり熱くなった。雪ってなんでかテンションがあがっちゃうんだよねぇ。

 みぃと一緒にギルドハウスから中央の噴水へ向かうと、街の至る所に雪だるまやツリーが並んでいるのが目に入る。飾り付けられた赤や金のオーナメントが風に揺れ、光を反射して宝石のように瞬いていた。


「うわー!キレイ!ドイツのクリスマス市みたい!……でも指がかじかまないの、なんか不思議な感覚だね」


「ふふっ、寒がりの私にはありがたいシステムだけど」


 雪の積もった地面には足跡が続き、吐息が白く立ち上る。でも服装はいつも通り薄着。リアルも同じくらい寒いので、きっと澪は布団に包まってヘッドギアを被ったミノムシ状態だろうな。と想像していたら、天空からアナウンスが響いた。空を見上げた瞬間、思考が全部ふっとんだ。


新世界人(ニュービー)の皆様、メリークリスマス!【公式アナウンス】ですッピ!』


 サンタ帽子を被り、赤いサンタ服に身を包んだシーちゃんが舞い降りたからだ。サンタになっても神々しい!瞬きせず、その可愛さを眼球に収めます!

 天の使いシーちゃんのアナウンスが終わると、隣からみぃの呆れた溜息とジト目が刺さったのに気が付いた。


「ねぇ、内容聞いてた……?」


「ハッ!また聞いてなかった……」


「だろうと思ったわよ」


 みぃはおでこを押さえて深いため息をついた。だって、シーちゃんが可愛すぎるのがいけないと思うんです。

 刑法第250条・無自覚可憐窃盗罪むじかくかれんせっとうざいの常習犯だからね!実にけしからん、もっとしてください!


「はぁ……。説明するから落ち着きなさい。おすわり」


 だから、犬じゃないわい!と心の中でつっこみつつイベント内容を聞く。今回は3人のサンタ見習いの誰かのお手伝いをすると、クリスマス限定アイテムが貰えるらしい。プレゼントはもらうまでわからないみたい。


「ルーイはどれにする?料理系だから、私は戦力にならないけど……」


 彼女は少し申し訳そうにしながら、こちらを見つめる。

 みぃは手先が器用なんだけど、なぜか料理だけは事故率が高い。包丁を握った方の指を切るのはある意味才能だと思う。

 ローストチキン、ホットワイン、ジンジャーブレッド……。ドリンクは単純作業っぽそうだし、2人で楽しむならデザートのがよさそう。


「デザートならみぃも作れるでしょ?これなら2人で楽しめるよ!」


「またそうやって……ルーイならローストチキンのがいいでしょ。鳥もふできるかもしれないわよ?」


「鳥もふはいつでもできるけど、みぃと一緒じゃないとイベント楽しめないじゃん。だからデザートがいい!決定!2人で楽しも?」


 みぃにニカッと笑いかけ、親指を上げてサムズアップする。

 ちょっと強引に進めてしまったが、みぃと一緒に楽しみたいのは事実だしね!鳥はまた今度もふもふすればいいし。


 イベントの受付はサンタの家で出来るらしい。今は期間限定でクリスタルを使って行き来できるようになっているので、噴水からそのまま向かう事にする。

 淡い光に包まれ、視界が開けた先に、深い雪に埋もれた湖畔が現れた。近くに煙突から煙が立ち上がる家、巨大なモミの木と馬小屋がそばに建っていた。

 ツリーの下には、カラフルな箱がデタラメに重ねた積み木のように置かれ、その前で忙しなくしている赤い服に身を包んだ人と、走り回っている小さなドワーフ達が居た。

 馬小屋では、雪の結晶みたいに身体をきらめかせたアホウドリモンスター、【クリスタルアルバトロス】が毛づくろいをしてリラックスしている。


「鳥ちゅぁぁぁーん!!!突然もふもふっ!ぐぇっ」


「ステイ!飛びつかない!」


 小屋に向かって走ろうとしたら、みぃに襟首をつかまれて変な声が出た。ついクセで飛びつくところだった……。飼われているモンスターみたいだけど、とりあえず、クリ坊と名付けよう。しかし、改めてじっくり見ると、クリ坊は馬のように大きいなぁ。


「大きいわね……この子がソリを引くのかしら?」


「外にソリがあるから、そうなのかも?ほーら、クリ坊おいでー。ナデナデしてあげるよー。さぁ、こっちにおいでぇ……ふふふっ」


「また変なあだ名つけて……。それと両手を構えないの、クリ坊が怯えてるじゃない。オーラが邪よ」


 これはピュアな鳥愛のオーラです!手を伸ばすたびにシュッと体が細まって震えてるけど、きっと恥ずかしがり屋さんなんだろうね!


「もう……ほら、一緒に撫でてあげるから。上に手、重ねて」


 みぃの手にそっと手を重ねて撫でる。ふわぁ……綿みたいにふわっと軽いのに、1本1本がシルクみたいでひんやりしてるぅ。先ほどまで体を細めていたクリ坊が、リラックスし始めたのか、わずかにこちらに体重を傾けた。指の隙間から伝わる幸せを噛みしめていると、外から騒がしい声が響いた。


「ふぉーっ!ドワーフが足りぬ、どうしたらいいのじゃ!」


 外を覗くと、サンタ服を着た人が両手で頭を抱えていた。服装と見た目でこの人がサンタさんだと思うけど、ここで話しかけたらクエスト開始になるのかな?とりあえず、声をかけてみよう。


「おじいさん、初めまして!うちは剣士のルーイだよ」


「初めまして、私は錬金術師のみぃです。何か困っているんですか?」


「おや。初めまして、お嬢ちゃん方。わしゃ、サンタじゃ。いやはや、子供達に配るパーティー料理が間に合わなくてのぉ。とほほっ」


「ありゃ、お手伝いできる人はいないの?」


「いつもはドワーフとワシの見習いが料理を作っておるのじゃが、今年はプレゼントの準備で忙しくてのぉ。2人は何とかなるのじゃが、もう1人分のお手伝いが見つからないのじゃよ」


 とほほっ、と頭をまた抱えだしたサンタさん。すると、通知音と共に3人の見習いがパネルに表示された。


 《クリスマスクエスト:見習いサンタのお手伝いを受領しますか?》

 《お手伝いする見習いを選択してください》


 ここは人型のクッキー、ジンジャーブレッドマンをタップする。


 《クリスマスクエスト:ジンジャーブレッドマンのお手伝いを受領しました》


「サンタさん、私達がジンジャーブレッドマンのお手伝いをしますよ」


「手伝ってくれるのかい? ありがとう。なんと優しい子たちじゃ。あそこでジンジャーブレッドマンが料理をしておる。ぶっきらぼうなところはあるが、心根は良いやつなんじゃ。どうか力を貸してやっておくれ」


 サンタさんが微笑みながらヒゲを撫で、指を指したのは先ほどの煙が出ている家だった。

 扉の前に立つと、ふんわりと香ばしい匂いが漂ってきた。いい匂いだなぁ、スパイスの香りでぽかぽかな気分になってきた!ノックしてからドアを開け切ると、中から温かい空気が流れてきて、目の前に茶色い影――いや、クッキーが仁王立ちしていた。


「お前たちがアシスタントだな!おいらはあの有名な走るクッキー!Gingerbread Man様なのジャー!長いから、特別にジン様と呼ばせてやるのジャー!」


 ドヤ顔でこちらに話しかけてくる茶色のクッキー。アイシングで書かれた顔を器用に動かしてしゃべってる。しかも、ものすごい良い発音で。てか、ジンジャーだから語尾がジャーなの?


「態度がでかいわね……ルーイ、この小麦粉の塊を今すぐクリ坊の餌にしましょ」


「ヒィ!お、おいらを小麦粉呼ばわりするなんてひどい差別ジャー!」


 いや、あなた小麦粉から作ったクッキーだから間違ってないでしょ。このままだと話が進まないので、間に入りますか。


「まぁまぁ。うちは剣士のルーイ、この子は錬金術師のみぃだよ。もっと仲良くなりたいから、ジンくんって呼んじゃだめかな?」


「ふ、ふん!それもいい響きなのジャー。仕方ないからジンくんと呼ばせてやるのジャー!」


 クッキー生地の腕を組み、そっぽを向くジンくん。ツンデレか。

 とりあえず、丸く収まったかな。でも、次はどうしたらいいんだろう?


「ジンくんのお手伝いってどうしたらいいのかな?まずは試作からする?」


 このクッキーは練り込むスパイスの量がかなり重要なんだよなぁ。味見とかもできたらしておきたい。

 すると、待ってましたと言わんばかりにドヤ顔で向き直るジンくん。


「ふふふっ、今年はこの新レシピで作る事にしたのジャー。まずは、味見してみるのジャー!」


 某あんぱんのヒーローみたいに頭の一部をいきなり割るジンくん。しゃべっていた顔を食べるのはちょっと複雑な気持ちになるが、とりあえず食べてみる。

 クッキーを齧るとサクッとした歯触りのあとに、ホロホロの生地からふわっと香辛料が口の中に広がった。そして最後に喉を通るショウガの辛さ……って、からっ?!唐辛子?!しかも普通のじゃなくて、これハバネロ級じゃない?!イタタッ!喉が焼ける!!何か目の前も赤く点滅してるんだけど!

 隣のみぃを見ると青白い顔になって魂が抜けかかっていた。インベントリから慌ててルミナハーブティーを取り出し、みぃに飲ませてから自分もお茶を流し込む。ミントみたいに口の中がスーッとする。


「ふふん、どうだ。隠し味にペッパーXを入れたのジャー」


「ぷっは!世界一辛い唐辛子はダメでしょ?!」


「なんでジャー?!」って驚いてるよ。こんなの同意書がないと食べちゃダメでしょ!箱あるにもこの品種があることにこっちがビックリだよ!運営スタッフに激辛マニアがいるな?そして激辛食べるとHPが減るのね。回復薬も飲んでおこう。


「ふぉーふぉっふぉっ。ワシは好きなんじゃがのぉ。カッラー!」


 いつの間にか背後にいたサンタさんが、ジンくんからクッキーを貰って食べていた。まさかの身近にいた、激辛マニアが。でも顔が洋服と同じ色になってるから、サンタさんにもルミナハーブティーを渡しておこう、ついでにアイスを取り出してみぃに渡しておく。涙目になりながら食べてるのがちょっと可愛かったが、ジンくんに対して大変激辛思考になっている。


「レシピ封印しなさい。じゃないとモンスターの餌にするわよ……」


「いや、モンスターもお腹壊すから辞めよっか……。ジンくん、これって子供に配る用なんでしょ?何でこんなレシピにしたの?」


「おいらが丹精込めて作ってるのに、毎年同じ味で飽きたって言われたからジャー!おいら、味覚がないから、サンタ親方が好きな味なら、みんなも文句は言わないと思っただけジャー!」


 文句を言いつつも、子供達が飽きないように工夫しようと頑張っていたんだね。とはいえ、ちょっとサンタさんの味覚の方向性がぶっ飛んでたけど!でも、さっきの味ならペッパーXを抜いてアレンジしたらいい気がするな。せっかくだし2種類違う風味にしたら喜ばれそう。

 みんなにも見えるように、羊皮紙を取り出してアイディアを書き出す。甘めのレモンアイシングと甘じょっぱいチーズ入りでどうかな?どちらもスパイスに合うレシピだし!


「アシスタントなのに、中々やるジャー!よし、それぞれ100個ずつ!時間がないから、早速作っていくのジャー。スパイス、生地、型抜きとアイシングは2人で、焼きはおいらが担当するジャー!」


 30分のカウントダウンタイマーと共に《進捗:クッキー生産 0/200》が視界の隅に表示される。よーし、やっていきますかね!


「スパイスとアイシングは私がやるわ。シナモン、ジンジャー、クローブ……って、ジンくん、ペッパーX禁止!」


「えぇ~?やっぱ、ちょっとくらい……」


「瓶を寄こさないと、小麦粉に戻るまで砕くわよ……」


 笑顔で脅すみぃ。震えるジンくんがそっと瓶を渡していた。

 さて、うちはSTRで大量の生地を混ぜていきますかね!筋肉が疲れないって素敵。

 お次は生地を平らにしてと。むっ、一度に10枚分の生地しか平らにできないのね。じゃ、出来上がった物から人型に抜いて鉄板に乗せていくか。


 《進捗:クッキー生産 150/200》

 《イベントタイマー:残り5分》


「急げ急げ!あと50枚ジャー!」


 うちが生地を叩き伸ばし型を抜き、ジンくんがオーブン前で踊り、みぃが必死にアイシングを塗る。最後の一枚にアイシングを塗り終えた瞬間、《進捗:200/200 完了!》と表示された。

 最後の一仕事、湖畔の前に用意されたパーティー会場にクッキーを並べると、子供たちが歓声を上げる。その達成感で肩の力が抜けた。


「わぁ、かわいい!おいしい!」


「このチーズの甘じょっぺーのうめぇー!」


 子供達の笑顔を見て、ほっと息をついた瞬間、背後からサンタさんが現れた。みんなの笑顔を見て嬉しそうにヒゲを撫でている。


「みな美味しそうに食べておるのぉ!……で、激辛はどこじゃ?」


「「ない!!」」


 2人で全力否定した。


「うそじゃよ、ふぉっふぉっふぉっ!お嬢ちゃん達のおかげでクリスマスパーティーは大成功じゃ!」


 ピコンと通知音が鳴り、クリアの表示が流れる。


 《クリスマスクエスト:ジンジャーブレッドマンのお手伝いをクリアしました》

 《ジンジャーブレッドクッキーのレシピを入手しました》

 《限定称号【ジンジャーブレッドマスター】を獲得しました》


「さらに!いい子の2人にはプレゼントもあげよう!じゃが、開けるのは()()()()25日になってからじゃぞ?ふぉーふぉっふぉっ」


 サンタさんから差し出されたのは、カラフルなラッピングに包まれたプレゼントボックスだった。



 * * *



 お手伝いが終わり一夜明けて、現実世界でのクリスマスイヴがやってきた。明日は澪が出社しなくてもいいので、そのまま我が家でお泊りしてパーティーをすることになっている。毎年変わらないけど、澪の好きなエビグラタンとローストチキン、それにイチゴサンタを乗せたチーズケーキ。唯一違うのはジンジャーブレッドマンクッキーが追加された。

 いつもより少し華やかで温かい食卓で向き合って、夜遅くまで楽しんだ。


「あ、25日になった!メリークリスマース!」


「メリークリスマス。はい、プレゼント。手作りだから気に入るかわからないけど……」


 わーい!いくつになってもプレゼントは嬉しいねぇ!

 受け取った柔らかな感触のラッピングを開けてみると、中から出てきたのは深い青に銀色の刺繍でイニシャルが編み込まれたニットマフラーだった。そういえば、来た時に澪が巻いていたピンクのマフラーは肉球柄でこんな感じだったね?

 うちのやつはコロッとしたフォルムのセキセイインコや文鳥が模様になっている。しかも!エンジェルシーちゃんもいるじゃない!クオリティーがそもそも売り物みたいなレベルなのですが!大切にします、夏も首に巻きます。


「さすがに冬物にしまっておきなさい……じゃないと瑠衣の隣歩かないからね」


 呆れているが、少し頬が嬉しそうに緩んでいる。さて、うちからもプレゼントを渡しますかね。澪が縦長のラッピングを解き、中の箱を開ける。


「4つ葉のクローバー……キレイ……」


「実はお揃いなんだ!つけてあげるよ」


 今年のプレゼントに選んだのは、4つ葉のクローバーのシルバーネックレス。葉の真ん中には澪の誕生石であるオパールが埋め込まれている。うちのは3つ葉でエメラルドだ。澪が背中を向けて、髪を前に持っていくとサラサラと肩を撫でるように前に流れていき、白いうなじがさらけ出される。


「ん、できた。これさ、実は合わせることができるんだよ」


 ネックレスを付け終え、澪がこちらに振り向いたので、腰を少しかがめて目線を合わせる。


「こうすると、7つ葉のクローバー。花言葉は無限の幸福」


 彼女の首元で揺れる小さな銀葉をそっと摘まむ。少し顔を近づけて2つを合わせると、虹色と深緑色が重なって、太陽が当たった朝露のように輝いた。澪に出会えたことが最大の幸せ。大学の時に出会ってなかったら、あの時同じ講義を受けていなかったら。事故の後も、こんなに楽しく幸せに過ごせていなかったと思う。


「まぁ、これからも鳥で突っ走っちゃうけど、よろしくね!あ、そうだ。箱あるのプレゼントも開けにいこうよ!」


「もう……仕方ないわね。これからも暴走は止めてあげるわよ」


 少しだけ恥ずかしくなって、話題をすり替えてしまった。澪を見ると嬉しそうに首元のネックレスに触れていた。

 2人でログインして、プレゼントを開けてみると中からスノードームが出てきた。ガラスの球体の中には、ジンくんとうちらの人形がサンタさんの家の前に立っていた。ドームをひっくり返して元に戻すと、雪の結晶がふわふわと舞い降りて、その中にホログラムの様な映像が浮かび上がった。


「うわー、キレイ!2人でやったイベントの映像が見れるなんて思ってなかった!」


「ふふっ、ゲーム内でもお揃いの記念ができたわね。じゃ、改めてこっちでも」


 2人で声を合わせる。


「「メリークリスマス!」」


 スノードームの中とガラスに反射する2人の笑顔が重なった。

[読者の皆様]

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