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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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69羽目:一筋縄ではいかない裁判

  路地を抜けてしばらく進むと、商人ギルドの建物が見えてきた。石造りの重厚な建物の上には、堂々とした商人ギルドの紋章が輝いている。

 建物の入口付近には、見覚えのある銀髪のエルフが立っていて、思わず手を大きく振った。

 

「みぃ、お待たせ〜!待った?」

 

「すごい待った。バツとしてしばらく鳥もふ禁止ね」

 

「そこまで?!こういう時は『そんなことないよ〜今来たところ♡』ってデートの待ち合わせみたいに言うもんじゃないの?!」

 

「そんなことより、スパイの説明をしなさいよ」

 

 みぃにジト目で見られる。

 いやー、さっきまでロープでぐるぐる巻きにされた上、家ごと燃やされてたよ!なんて、ゲームでも言えない。


「あはは、長くなるからあとでね!とりあえず(ブツ)は手に入ったよ!そっちは問題なかった?」

 

「まったく……。えぇ、問題ないわ。ローさんとみんなも待機しているし、今は詐欺コンビを呼び出してもらってるところ。頼まれてた物も面白いのができたわよ、このクエストで使えるかわからないけど」


 みぃからポーションを手渡される。

 へぇー!こんなポーションになるのか!詐欺=嘘を暴く=嘘発見器と安直なイメージから頼んだけど、割とドンピシャな物が出来上がったのでは?2本できたみたいだから、もし使うとなったらタイミングを合わせて使うか、どちらかが使えるようにできそうだね!

 

 みぃと共に裁判室へ向かうと、ドアの向こうにはロウガ家、ムルクさん、そして商人ギルドの関係者らしき人物たちがすでに集まっていた。わぁ、何か「異議あり!」と叫びたくなるような部屋だね。ゲームでもここは現実の法廷に近い雰囲気なんだね。


「ねぇ、裁判これで進めてもいい?」


 関心して部屋を見ていると、みぃに声をかけられた。彼女の手元を見ると、裁判に参加する人のアイコンが左右に分けてセットされたパネルが表示されている。へぇ、こうやって被告と告発にメンバーを分けるんだ。


「あー、ムルクさんはこっちにしたいな。いいかな?きっと大丈夫だから」


「……ルーイがそういうなら。じゃ決定するね」

 

 みぃが決定ボタンを押したその時、ギルド職員らしき人物が声をかけてきた。

 

「みぃさん、間もなく被疑者が到着しますよ。えっと、そちらの方は……?」


「この子は証人の1人よ。剣士のルーイ」


「失礼しました、ルーイさん。私は商人ギルド管理官、モルモ・ダウトです」


 自己紹介を交わしていると、部屋の外から濃い口調の声が近づいてきた。


「はぁ……こちらは忙しいザマスのに!一体何の用が……おま?!縛っt、ゴホゴホ!あー、なんか喉の調子が悪いザマスねぇ」


「そうでゲス!まったく。ゲぇ?!燃やしt……!ゴフンゴフン。あっしもちょっとおかしいでゲスぅ」


 バルド(ザマス)ポンジ(ゲス)はうちを見て、驚きのあまり微妙に口を滑らせちゃってるけど……。その発言にみぃがピクリと反応し、鋭い視線をこちらに向ける。


 「縛った?燃やした?ルーイ……どういうこと??」

 

 隣からの圧がロープよりも遥かにきつく感じる。謝罪のデザートで緩めていただけませんか、その圧を。

 うちがみぃの顔から目を逸らし、明後日の方向を見て口笛を吹いていると、モルモさんが場を取り仕切るように前へ出た。


 「お忙しい所ご足労いただきまして、ありがとうございます。商人バルド・スキム、そして錬金術師ポンジ・サギィ。お二人には詐欺の容疑が掛かっております。本日はその審議のためにお越しいただきました」

 

 空気が一気に張り詰め、緊張がピリッと走った。

 

 「これより、私モルモ・ダウトは双方の進行補佐を務めます。裁判官として判決を下すのは、商人ギルド・サブマスターのロー・エガリテ。この部屋では、発言を認められた時以外は静粛にお願いいたします」

 

 各々が指定された席に座ると、ローさんが中央の裁判官席に座り、静かに開廷を宣言した。

 

「これより、商人バルド・スキム。そして錬金術師ポンジ・サギィによる契約詐欺疑惑に関する審問を開始します」


 被疑者は詐欺コンビ、告発者であるみぃ、証人としてうちとムルクさん、そして被害者であるロウガ家は傍聴席に座り、事態を見守っている中、淡々としたローさんの声が響く。


「まずは、告発者より冒頭陳述をどうぞ」


 みぃは立ち上がり、証言台へと歩み出る。人前に立ってしゃべるのが苦手なのもあり、少し緊張しているのか、手をぎゅっと握っていた。

 

「私は、彼らによる不正契約の証拠を発見しました。まずは船の偽装。最新魔導漁船と謳っていたが、実際は風スクロールを雑に配置しただけの船であり、これを最新と評するのは無理があります」


 ロウガさんの船のプロペラ部分のスクショが表示される。

 みぃは一呼吸置いて、さらに書類の問題点を指摘した。

 

 「さらに、隠されていたロウガさんの契約内容は漁船なのに目的がワイバーン輸送用など不自然な点も多く、違約金の計算と回収日も矛盾しています。隠し部屋に保管されていたこれらの書類は、意図的に隠蔽されていたと考えられます。私からは以上です」


 詐欺コンビは、それを聞いても静かに薄ら笑いを浮かべているだけだった。

 続けてローさんは次にロウガ家へと視線を向け、代表者に発言を許可する。

 ロウガさんはゆっくりと立ち上がり、妻と子供たちを背に証言台へ立ち、共同購入の経緯を説明した。


 「そして……俺たちは、奴らの契約により生活が破綻しかけたんだ。最終的に船は使えなくなり、支払いの期日が突然変更され、違約金が倍に膨れ上がった。契約書の控えは貰っていないし、抗議しても、契約書にそう書いてあると言われるだけだった。俺からは以上だ」


 続いて証人としてうちが証言台へ立つと、提示したいスクショや証拠アイテムが目の前のパネルに表示された。おぉ、こうやって必要な物が出てくるのね。アイテム欄は燃えかけの手紙やロープ以外にも、真実のポーションもあった。

 解説ボタンを押すと、提示したい証拠を選択したり、アイテムを合体して使えるようにもなるらしい。

 今、全部を使うのは早い気がする。とりあえず、契約書を選択しよう。

 

「証人ルーイ、あなたは被疑者と接触したと聞いています。証言を」

 

「最初はロウガさん宅で、違約金の支払いに来た2人と接触したよ。船を調べている途中、倉庫に閉じ込められ、その後、彼らの拠点で隠し棚からこの契約書を見つけ脱出。他の証拠は不明なんだよね、建物はその後、燃やされたから。うちからは以上」


 ハッと息を呑む声や、みぃからの鋭い視線が刺さったが、証言を終え席に戻る。次はムルクさんが証言台に立ち、詳細を語った。


  「オレの仕事は、船と人の監視だ。船の調査をしたがるヤツがいれば報告するよう言われていた。……それ自体は、正式に依頼された仕事だった。契約書の控えも、ここにある」


 そう言って、彼は懐から書類とクリスタルを取り出し、机の上に置く。


「最初は、ただの監視だと思ってた。けど、だんだんおかしいと思うようになった。……今まで報告した人はみんな風の噂で行方不明になったと聞いた。そして、いつの間にか管理ログから船の記録も消えた。誰が消したのかはわからないが、何かを隠しているとしか思えなかった」


 彼は一瞬、うちの方を見た。うちは小さく頷いて、彼の背中を押すように視線を送った。

 

「ルーイ殿が船を調べに来た時、報告したらその場に閉じ込めろと命令された。彼女も消されるかもしれないと思ったが、家族を人質にされていて逆らえなかった……。これが、脅されていた証拠だ。それでも、閉じ込めたオレも同罪だと思っているので罪を償うつもりでいる。オレからは以上だ」


 『家族がどうなってもいいでゲスか?』とクリスタルから音声が再生された時に、詐欺コンビは分かりやすいくらい視線が泳いで汗をかいていた。

 発言を聞き終えたローさんは、無表情のまま深く頷いて、裁判は次の段階へ。さぁ、相手はどう出るのか?


「告発の証言と証拠は揃ったようですね。では、被疑者はそれぞれ意見を述べてください」


 先ほどまでの焦りが嘘かのように、ポンジが薄ら笑みを浮かべて反論する。


「まず船のスクロールとはこれでゲスね?

 船の速度が落ちたと相談を受けたので、応急処置として風スクロールを設置したでゲス。

 最新魔導漁船ゆえ情報も少なく、改良を重ねている段階でゲス」


 モルモさんが、ポンジから受け取った画像や書類を裁判官に見せた。


 「ムルク殿の件も誤解でゲスよ。過去に彼が契約違反をしかけた時、話した内容でゲス。仕事がなくなると、家族も苦しんでしまうというアドバイスでゲス!吾輩からは以上でゲス」

 

 続いて、バルドも証言台へ。芝居がかった口調で、堂々と語り始める。

 

 「すべての書類に関しては合法的に契約を交わしているザマスよ。部屋にあったのはただの下書きザマス。オレ様の控えは全部ここにあるザマス。ロウガ殿がなくしたのなら、それはそちらの管理の問題では?現にムルクは控えを持っているザマス」


 ローさんは静かに書類を受け取り、目を通していく。ページをめくるたびに、会議室の空気がさらに重くなっていく。


「ふむ。ギルド書類と控えは形式上問題ないですね。ロウガ被告の控えがないため確認はできず、現場証拠との乖離があるだけとなりますね」


「正式だから当たり前ザマス!それに倉庫は立ち入り禁止ザマス。勝手に入ったから逮捕したザマス!憲兵の仕事も減ったザマスよ!」


 机を手のひらで叩きつけながら、こちらに怒りをぶつけるバルド。


「それに、建物が燃えた件……そこの女の嘘じゃないザマスか?もしくは自分で火を放ったかもしれないザマスよ。オレ様からは以上ザマス」


 証拠を提示しないと、こうやって言いくるめられてしまうのか。

 2人の声が響くたびに、会議室の空気がじわじわと濁っていく。 誰もが息をひそめ、ローさんの反応をうかがっていた。

 彼は一言も発さず、ただ書類に目を落とし、ページをめくる音だけが静かに響いた。静かに書類を机に置いたローさんが、無表情だが冷酷な目をこちらに向ける。

 

「ふむ……現段階では、ギルドに正式に提出された書類と、バルド氏の控えが一致しており、形式上の不備は見受けられません。一方で、告発側の証拠は下書きの契約書のみであり、現場の状況証拠や証言はあるものの、立証としてはやや弱い印象を受けます」


 その言葉に、詐欺コンビの口元が緩む。

 

 「また、建物の火災についても、現時点では事故か故意かの判断がつかず、証拠隠滅の意図を断定するには至りません。よって、現段階では被疑側が優勢であると判断します」


 ローさんの発言で薄ら笑う彼らを前に、うちはただグッと手を握りしめ、心臓の鼓動が耳に響くのを聞いていた。

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