66羽目:敵か味方か
地面がパッカーンと割れた件はひとまず置いといて。何とか逃げ道が確保できたし、まずはみぃを先に逃がそう。
「ここは任せて、みぃは街に戻ってほしい」
「なんで?!囮になるつもりなら私……も一緒に行く」
あちゃ〜……やっぱりそうきたか。捕まるかもしれないしなぁ。密室ってだけで嫌な思い出を連想させちゃうし、極力避けたいんだよね。
どうにか、それっぽい説明で納得してくれますように!
「違う違う。二手に分かれて、みぃはエルザさんと信用できるギルド職員を見つけて、契約書を確認してもらいたいんだ。ムルクさんがあいつらに報告して、証拠を偽造されちゃったら困るでしょ?うちはその間に他の船を探すから!」
「だけど……そんな役、ルーイがしなくても」
「みぃはさ、相手の嘘とか態度の変化によく気が付くでしょ?うちはそういうの苦手だからさ。みぃじゃないとダメなんだよ」
「でも……」
みぃは何かを言いかけて言葉に詰まる。眉を寄せ、もう一度口を開きかけるが、言葉にならなかった。
こういう時のみぃは言葉を選びすぎて、止まっちゃうんだよね。うちが嫌な想いをするかもって心配なんだろうな。暗くて狭いところじゃなきゃ、大丈夫でしょ!
「大丈夫。危ないことはしないから、今は時間がないし、急ごう!」
しぶしぶながら承諾した彼女を先に行かせて、うちも後に続いて倉庫を出た。
しかし……この地面、どう埋めよう?あとででいっか!ハハハ!ゲームだしシュッと戻ってたりするよね?お願い、戻っててね!(希望)
「まずはそれぞれで証拠集めしてから、落ち合う場所は伝書ハトで決めよう!あと、お願いがあるんだけど……これ使ってアイテム作ってほしいな、みぃなら絶対すごいのできるって信じてる」
ものすごく何かを言いたげな表情をしていたが、アイテムを渡すと彼女はしっかりと受け取ってインベントリに入れた。
レシピ本にあったやつ、きっとみぃならうまく作れるはず。最後まで納得してない顔だったけど、それでもお互い行動を開始する。
さて、うちは見つからないように船の証拠を集めないとね。倉庫の扉には隙間があるから、内部は覗けるし。プロペラ部分に付いてるスクロールが確認できれば十分。
「【反転 AGI】」
身体を低く構え、スプリント開始。倉庫の名前を1つ1つ確認しながら走る。
管理人室に貼られていた港の地図をじっくり見ていたおかげで大体の位置はわかっている。
1つ目の倉庫、到着!さすがAGI、加速力がえぐいなぁ。
扉の隙間から覗くと、ロウガさんの船と同じ型のものが停泊していて、動力源として使う風スクロールも確認できる。左右の指で四角を作って、スクショ完了!
その後も同じように証拠を収集。これで船の証拠は揃ったはず。あとは、みぃとエルザさんが上手く立ち回ってくれるだろう。
さてと、さっきの倉庫に戻って……地面、確認しておこうかな。
祈る想いで倉庫に戻ってみるも、地面は案の定パッカーンと割れたままだった。
見なかった事にする?でも、穴が開きっぱなしはよくないよね……。
「ここはシステムに聞こう!教えて!エンジェルシーちゃん!」
「ヘルプシステムAIのシスクロウッピ!……ルーイさん、また何かお調べものですッピ?」
「ケッコンンッ!……じゃなくて。えっと、建物の中から地面が掘れたんだけど、もしかしてバグだったりする?」
「ピッ?」と言いながら首を傾げたシーちゃんが余りにも可愛くてプロポーズしかけたが、残ってた1ミリの理性が無事に機能した。
「ログ確認中ッピ……結果、倉庫は通常地面判定ッピ。5分後に修復されますッピ!」
バグじゃなくてよかった〜!ちゃんとシュッて戻る!これでひと安心だ。
「他に何かまだお調べしますッピ?」
「……ングゥッ!!落ち着け、うち……!大丈夫!ありがとうシーちゃん!」
すべての仕草が可愛すぎて、思わず変な声が出た。本当はもふもふしたいけど鳥ハラスメントになっちゃうしなぁ。
あ、羽なら鳥ハラにならないし、今度くださいって聞いてみようかな?
とりあえず、地面は直ったし今は目的地へ向かおう。
閉じ込められる前に震えてた手を思い出しながら、小走りで目的地について扉を叩く。中から現れた男性――ムルクさんが目を見開いてこちらを凝視している。
「おま……え!?どうやって出た?!」
「んー、地面を掘って?」
「じゃあ、そのまま逃げればいいだろう!なぜ戻ってきた……!?」
「ムルクさんが思い詰めているように感じたから」
ムルクさんの眉がぴくりと動いた。
「何を……俺は敵だぞ……。幼馴染を裏切って、船の調査に人が来たら閉じ込めろってあいつ等に言われてやったんだぞ」
「そうだね。でも、扉を開ける時の手の震え。あれ、演技じゃなかったでしょ?最後まで迷った理由が何かあるんじゃない?」
目の前の視線が、明らかに揺れた。そのまま待っていると、彼は重々しく口を開いた。
「家族を……人質に取られている。逆らえば、嫁と娘に何をされるか……それに、消された奴の噂が絶えねぇんだ。お前の命も、危ないから今すぐ逃げたほうがいい」
何もできずにいる自分に怒りをぶつけるかのように、彼は拳が白くなるまでギュッと握りしめていた。
「……俺は臆病だ。家族を守りたいのに、怖くて逆らえなかった……このままじゃダメなのもわかっている。だけど、どうしたらいいかわからねぇんだ」
「そうだったんだね。……なら、協力しない?証拠は揃ってきてるから、あいつらの悪事が暴かれるのも時間の問題だよ。1人で抱えなくてもいい、みんなで力を合わせて守りたい人を守ろうよ」
うちの提案にムルクさんはしばし沈黙する。拳を握りしめ、歯を食いしばったのか首の筋がピクリと浮き出ていた。長い沈黙。震えていた拳が、ゆっくりとほどけていく。そして、決意の光がその目に宿った。
「もう、あいつらの言いなりになりたくねぇ……。オレは家族を守るために、お前に協力する……。とりあえず、船の証拠はもうあるんだな?」
「バッチリ、撮影済み。プロペラについてたスクロールも、全部ね。あ、ムルクさんは契約書って書かされた?」
「あぁ……監視と報告役をやれって契約をした。俺もあいつらの屋台の投資詐欺に引っかかってよ……その損をチャラにするって話で、ここの管理を任されることになったんだ」
ムルクさんは別の投資詐欺の被害者でもあったのね。あの2人はこうやって被害者を利用して、あちこちで違う詐欺を働いていたのだろう。
「こっちの契約は正式に商人ギルドで行ってる。まぁ、俺も騙されっぱなしはムカつくからな。念のためやつらとのアジトでのやり取りはこっそり全部レコードコアに記録してある」
見せてもらったのは、騎士団ギルド入団の時に見たホログラムが映し出されるクリスタルだった。ほえー、うちらの写真や動画機能みたいな便利アイテムなんだね。感心していると、ムルクさんに不思議そうな顔をされた。
「新世界人は神から同じ能力を授かっただろう?」
なるほど、転送同様この世界の人達にとって、プレイヤーのシステムはそういう認識なんだねぇ。
「ちなみに、商人ギルドにも家族が人質にされていたり、買収されている可能性のある人に心当たりはある?」
「そこまではわからねぇな……あいつら根回しだけはやたら手慣れてるからよ、商人ギルドにも何か仕掛けてる可能性はあるだろう。けどな、信用できるやつが1人だけいる。いや、正確に言えば……ちょっと扱いづらくて、誰にも肩入れしねぇタイプだ。だが、法に従って、誰にでも公平に裁きを下そうとする、筋の通ったやつでな……」
ふむ、つまり詐欺コンビの根回しが勝ればこちらの負けだし、こちらの正当性が取れれば勝てるってことね。なら、その人に協力をお願いできれば勝ち目はあるね!名前がわかったらみぃにも教えないと。
「そいつの名はロー。ロー・エガリテだ」
ロー・エガリテ……。ローはLawかな?確かエガリテってフランス語で平等だっけ?まさに、法の化身みたいな名前だね。絶対強い人じゃん。
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