65羽目:ここ掘れパッカーン
早速、みぃと2人で残りの船の確認をするため、管理人室へ向かった。
港の入口にある小さな掘っ立て小屋の扉をみぃがコンコンと叩くと、中から褐色の肌にラグビー部のようにがっしりした体格、立派なあごひげをたくわえた男性が現れた。
「……何か御用で?」
その威厳のある視線に、みぃの体がわずかに強張る。すぐに彼女の肩をポンと叩き、うちが前へ出て男性の目をしっかりと見据えた。みぃは大柄の男性が苦手なんだよね。
「ロウガさんの知り合いのルーイとみぃです。船の調査依頼を請け負ってるのですが、このリストにある船がまだ倉庫にあるなら、見せていただけませんか?」
「おぉ、ロウガの知り合いか!俺はムルクだ、よろしくな!さて……どれどれ。ふむ、全部まだ倉庫にあるぞ。鍵を取ってくるから少しここで待ってくれ」
厳つい見た目とは裏腹に、ロウガさんの名前を出したら拍子抜けするほどすんなり通してくれた。いくらなんでもセキュリティー面としてこれはダメじゃないか?まぁ、ゲームのクエストだからこんなものなのかなぁ?
疑問に思いつつ、開け放たれた管理室の内扉に色々と貼られていたので、何となく見てみる。
へぇ、ちゃんと現実の港みたいに区画分けがしっかりされているんだね。箱あるは作り込みが細かいなぁ。
関心するように見ていたら、奥から鍵を持ってムルクさんが戻ってきたので、彼の案内についていく。
「まずはここだ」
案内された倉庫はロウガさん達のよりも2回りも大きい建物だった。ムルクさんは鍵束から1つを選び、重厚な鉄製の鍵を手に取った。扉にあるのは南京錠のようなものではなく、中世で使われていたような中と外が貫通したタイプだ。
ムルクさんは開錠に手間取っていたが、無事扉が開いて中へ促された。うちに続いてみぃが室内に踏み入れると、倉庫内は薄暗くあまりよく見えなかった。次第に視界がハッキリとしてきたが、倉庫の端に道具が散らばっている作業台しかなく、船の姿はどこにもない。
「あの、船が……」
振り返って聞こうとした瞬間、背後にいたみぃが思いっきりぶつかってきたので、思わずよろける。
「キャッ!」
「わわっ!」
振り返ると背後の扉が勢いよく閉じ、ガチャリと重い音が響いた。
え??閉じ込められた?
「――っ!今すぐ開けなさい!」
みぃが扉をドンドンと叩くが、硬く閉ざされたままだった。
……やられた。幼馴染だってことで油断した自分にも落ち度はある。最初から罠にハメるつもりなら、ガバガバセキュリティで通すよね。
「お嬢ちゃん達、ロウガ……すまねぇ。だが、これしか方法がなかったんだ……」
ムルクさんの声は扉越しに震えていて、言い終えると足音が遠ざかっていった。
今の言葉、何か弱みを握られている……って感じかな。家族が人質にされているとか、借金を肩代わりしてもらっているとか。
とりあえず、ここから脱出しないと何もできないし、まずは出ることが優先だ。
前に、みぃが宿やギルドの建物には破壊できないようにフィールドがあるって言ってたけど、倉庫も同じカテゴリーになるのかな。
「みぃ、この倉庫にも破壊防止フィールドってあると思う?」
「たぶん、あると思う……はぁ。閉じ込められるとか最悪。絶対、詐欺コンビ来るやつじゃない」
みぃは溜息をつきながら、腰に手を当て、もう片方の手で銀色の前髪をくしゃっとかき上げた。
「その前に抜け出せば大丈夫!とりあえず、フィールドの確認しないとね【シールドチャージ】!」
盾を扉に叩きつけるも、反応なし。どころか、ビクともしない。
やっぱ……ダメか。抜け道になりそうな場所はないかな。周りを見渡すと壁は石造りで、扉と天井は木材で出来ていた。天井と扉の下には空気を取り込むための隙間があるけど、どっちも狭すぎて、大人は通れなさそうだなぁ。
こういう時こそ、いろんな角度からの観察だ!
「ねぇ、ルーイ……さっきから動き回って……何してるの……?」
「いろんな角度から見たら、いいアイデア浮かぶかもって思って!」
「物理的に角度変える方なのね……」
みぃの呆れた声を聞きながら、立ったり、座ったり、寝っ転がったりと体勢を変えて倉庫内をじっくり観察。すると、内側の壁や作業台を確認しているみぃがこちらを見て、台にあった木の棒をこちらに向けて投げてきた。
「砂浜ではしゃぎ回る茶色のラブラドールみたい……ほら、とってこーい」
アバターの肌色を褐色にしたけど茶ラブじゃありません!でもキャッチはしておいた。
やっぱ他に通れそうな隙間はなさそうだなぁ。カモメくらいのサイズなら天井にある隙間から飛んで外に出られるのに……。錬金術で鳥とかになれたりしない?その場合、先にみぃに変身してもらってモフモフを堪能してから、自分も変身だな。もふもふを想像したら……いや、ダメだ今は真面目に考えないと!
「ん?」
立ち上がるのに、手に持っていた棒を杖のようにしたら、地面にめり込んだ。
あれ?……もしかして、地面は破壊防止フィールドの対象外だったりする?
扉近くの地面に自分のナイフを突き立ててみると、刃が砂に埋まった。
「みぃ!地面が掘れそう!手伝って〜!」
「えぇ……?フィールドは……?バグじゃないわよね……?」
ナイフでザクザク地面を掘る様子を見て、半信半疑になりながらみぃも協力してくれた。……けど、これじゃ時間かかりすぎるな。あ、盾をスコップみたいに使えば、もっといっぱい掘れるんじゃない?
「みぃ、ちょっと盾使うから後ろに避難お願い!」
「また何かやらかす気がする……」
そう言いながらみぃが後ろに下がったのを確認して盾を構える。
「【反転 STR】!ふん!」
力でいっぱい地面が掘れるようにする。
盾のフチを両手で持ち、どじょう掬いの様に、勢いよく後ろから前へ動かすと地面の砂利と砂がごっそりと掘れた。これなら、早く抜け穴ができそう!オオミズナギドリの巣穴掘りの如く地面を掘っていく。
何度か同じ様な動作を繰り返していると、地面に岩が埋もれていたようで突如、ガンッ!と音が鳴り、じぃんと痺れるような振動が手に伝わった。
おぅふ、ちょっとビリビリするぅ。
位置をズラして掘ってみたが、思いのほか岩が大きかったのようでまた盾がぶつかる。だが、その衝撃によって地面に細く亀裂が走り――ピコンとシステム音が鳴って表示が現れた。
《スキル【アースブレイカー】を獲得しました》
んん?何かゲットしちゃったぞ?ラッキー!どんなスキルだろ?
【アースブレイカー】アクティブ
獲得条件:武器や盾を地面に叩きつけ、振動で岩や土を砕く。
効果:武器や盾を大地に叩きつけ、衝撃波で周囲の岩盤・土壌を粉砕。
広範囲の足元に継続で振動ダメージ+5秒間移動不可状態を付与。地形によっては地盤崩壊を引き起こし、敵を落下させることも可能。範囲と威力はSTRに依存。
確認してみると、岩を破壊できそうなスキルだった。これなら、岩を壊してからザクザク掘れそう!
「【アースブレイカー】!」
数歩扉から離れて、盾を地面に叩きつけると……先ほどの亀裂に沿ってさらにひびが走り、地面がグラグラと揺れて、流れるようにぐしゃりと崩れた。
なんか……モーゼが海をパッカーンと割ったみたいに地面が壮大に割れちゃった。……まぁ、埋めればいいか!ハハハっ!はは……これ、埋められる……?
ゆっくりと振り返ると、みぃが腕を組み呆れた顔でこちらを見ていた。
「……ルーイ、ステイ。さっきの宝物を埋めるには大きすぎるわよ……?」
だから、犬じゃないわい!
オオミズナギドリってどんな鳥?
カモメやウミネコと同じ海鳥だけど、繁殖の時期だけ陸地の地面に巣穴を掘ってたまごを産み育てる鳥さんです。
ちなみに、正規ルートは、作業台にある細い金属棒を使って鍵をいじると【鍵開けLv1】が手に入って、そのまま扉から出られるんです。……でも、脳筋派はパワーで解決!
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