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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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64羽目:名探偵の名にかけて!

 みぃのお陰で、まさかこんなにあっさり解決するなんて。ロウガさんは目をまんまるにして、固まってしまっている。


「そんな事がすぐわかるなんて……やっぱり、何も知らねぇ俺はダメだな……」


「んー……全部を知るなんて、誰にもできない事だと思うよ?うちも、みぃも知らないことは山ほどあるし。漁に関してなら、ロウガさんは誰にも負けないでしょ?『知らなかった』ってことがわかっただけでも、大事な一歩だと思う!」


 肩を落としていたロウガさんに、笑顔で励ましの言葉をかける。


「……そうだな。すべてを知るのは無理だ。卑屈になっていたよ……俺も子供達に負けないように、少しずつ学んでいかないとな!」


 ロウガさんが前向きになってくれて、うちも少しほっとした。

 知れるなら、うちだって鳥のすべてを知りたいよね。飼育下の状態や図鑑を眺めるだけじゃわからないことが多すぎて、実際に海や山に飛び込んでみちゃったわけだし。


「ロウガさんは何も悪くないわ。錬金術って、本来は人を助ける職業なの。だからこそ、錬金術を偽ってこの船を作った連中が、許せない」


 ゲームだからって気楽に考える人もいるかもだけど、それでも自分が好きで選んだ職業を汚されるようなことをされたら、嫌な気持ちにはなるよね。だからこそ、この詐欺を暴いてみんなの好きを取り戻さないとね!ただ、表示にある《証拠集めをする》には、進捗バーが付いていてまだ4分の1にも達していなかった。これは、ここでもっと証拠を集めないと次に進めなさそうな気がするなぁ。


「ロウガさん、同じような話を持ち掛けられた人って他にも知ってる?今はとにかく証拠集めが大事だと思うんだ」


「うーん……俺の仲間はみんなこの船に出資したからなぁ……」


 頭をガシガシと搔きながら困った表情を浮かべるロウガさん。

 契約書には口止めの項目もあったようだし、やっぱり地道に調べていくしかないかと思っていたその時、倉庫の扉が軋む音を立てて開いた。潮と錆の匂いを含んだ、少し肌寒い風が頬をかすめて、誰かの気配が静かな倉庫に流れ込んでくる。


「私ならわかるわ。最近出資した人のことも知ってる」


 ジャリジャリと足音を立て近づいて言ったのは、エルザさんだった。


「かーちゃん、どうしてそんなことまで……?」


「あら、ママ友ネットワークって意外とすごいのよ?」


 ふふっと笑って、ウィンクするエルザさん。

 家計を支えるために子どもたちを送り出したあと、食堂で働いている彼女は、学校や食堂を通じた人脈から、ひそかに情報を集めていたらしい。さらに、彼女はこう続けた。


「あとね、これは職員に聞いた話だけど……契約書が本物なら、商人ギルドを通して発行されたはずよ。だから、ギルドに正式な書類があるはずなの」


 商人ギルドが仲介人となり、双方の契約書の正式な書類をその場で確認して保管し、控えがそれぞれに手渡されるそうだ。

 やはり、正式な手続き方法がちゃんとあったんだね。剣士ギルドの時も役所っぽいと思ったけど、商人ギルドはさらに厳しいチェックが入りそう……。実際に、エルザさんは商人ギルドに確認しに行ったが、契約者双方がいないと書類を見せられないと断られたようだ。


「かーちゃん……いや、エルザ。まさか……そんなことができたなんて惚れなおしたぜ……」


「あら、私も昨日のあなたがかっこよくて惚れ直したのよ?ふふっ」


 昨日も仲の良い夫婦だなと思ったけど、今日はさらに愛が深まっているみたい。見ているだけで、胸がぽかぽかしてくる。みぃがエルザさんとリストを整理している間、うちはロウガさんに2人の馴れ初めを聞いてみた。


 同じ村の出身で幼馴染の2人。幼い頃から海の生き物が大好きだったエルザさんは見るのも食べるのも、図鑑で調べるのも好きで、ページをめくるたびに「この子かわいい!」「このヒレ、最高!」と目を輝かせていた。


 やんちゃ坊主のロウガさんは、そんな彼女が図鑑を眺めている姿が好きだったらしい。静かにページをめくる横顔も、興奮して語り出す時の笑顔も、全部。でも、実際に海に行くと、なぜか彼女が水辺に近づくだけで魚たちは一斉に姿を消してしまう。まるで彼女の熱意に圧倒されて逃げてしまうかのように。「なんでなのよ〜!」と悔しそうに叫ぶエルザさんの背中を、ロウガさんは何度も見てきた。


 そんなある日、彼女が図鑑で何度も見せてくれた、透明な体で花のような触手を何本も持つテンタブルームを、実際に見せてあげたいと思った。「これ、いつか本物見たいなぁ」と言っていたあの寂しそうな顔が忘れられなくて、ロウガさんは網を持って海に通い詰めた。


 山は得意だったが、海のことは何もわからなくて何度も失敗したらしい。やっと捕まえたが水槽が手に入らず、バケツに入れて渡した時、エルザさんは目を丸くして驚いたそうだ。プレゼントをバケツで渡すなんて嫌われるかも……と思った次の瞬間、太陽よりも眩しい笑顔を浮かべて、ロウガさんに飛びついた。そのあまりにも眩しい笑顔と、全力すぎるハグに心身ともに骨抜きにされたんだとか。


「こう言ってるけど、最後の一押しをしたのは私なのよ?この人、いつまで経ってもプロポーズしてくれないんだもの」


「あの時は……その、心の準備が色々あってだなぁ……」


 エルザさんの為に漁師になると決意して、一人前になったらプロポーズしようとしたんだってさ。

 こういう寄り添う夫婦のことを「おしどり夫婦」って言うんだろうけど、本当のオシドリは毎年ペアを変えるから、鳥好きからするとちょっと違うんだよねぇ。

 一生添い遂げるツルのカップルみたいに、ずっと熱々でいてほしいな。


「あのすばしっこいクラゲを捕まえるなんて、すごい……。けど、エルザさんの生き物に逃げられる所が、ルーイの鳥運に似てるわね」


 苦笑しながら、こちらを見るみぃ。

 たしかに、みぃと一緒だと出会う確率が劇的に変わる。だが、これは運を貯めている最中だからである。

 うちの鳥運がMAXに到達した時、世界中の鳥ちゅぁんに囲まれて、羽根の海でもふもふ……バードオーシャン、最高。妄想だけで鼻血が出そう……落ち着け、うち。ンフー。

 何かみぃが若干引いてるけど、うちの本気はまだまだこんなもんじゃないの知ってるでしょ?


「とりあえず、これでリストはそろったし、次は船の確認だね!2人は怪しまれないように、普段どおりの生活で!調査はうちらに任せて!」


 エルザさんの情報提供で、進捗バーがぐぐっと伸びた。


「全部任せっきりですまない……俺にできることは少ないかもしれないが、何かあれば遠慮なく言ってくれ」


「私もできる限り協力するわ」


 うーん、と考えたあと、大切な事を思い出して手を打つ。


「じゃあ、この騒動が終わったら、ポンバサー漁のやり方教えてよ!ポンバサー串作りたいんだ!」


「そんなことでいいのか?」


 ロウガさんは目を丸くして、思わず声を漏らした。

 適材適所だよ!ロウガさんは漁に関して誰よりも詳しいし、うちらは自分にできる事で動いてるだけだからね!


「……よし、任せとけ。とっておきの場所で教えてやるさ!」


「わーい!決まりだね!」


「私もポンバサー好きよ、レシピも一緒に考えましょうか?」


 エルザさんもかなり乗り気だった。うちの頭の中にはもう、ポンバサーをこんがり焼いた串が並ぶ幻想が広がっていて、調査の緊張が少し和らいだ気がした。後のお楽しみのために、他の船の性能低下が本当に物理的な不具合なのか、それとも細工された物なのか。今と同じように調査しないとね。


「ロウガさん、このリストに載ってる船は全部で3隻だけど、どこに保管されているかわかる?」


「あぁ、どれもこの港の倉庫で見た名前だから、売り払われてなければまだここにあるはず。港の管理人に俺の名前を言えば見せてくれるはずだ。あいつも幼馴染なんだ」


 《証拠集めをする》の進捗バーは残り3分の1。そこへ新たな指示、《港の管理室に向かう》と《商人ギルドに向かう》が追加される。


「よし、じゃあまずは船を見に行って、それから商人ギルドに行って契約書の確認だね!」


 よーし、証拠も順調に揃ってきたし、ここからが本番!名探偵ルーイの名に懸けて、このクエストを鳥の羽ばたきのように華麗に解決してみせるよ!

 ビシッと、明後日の方向を指さして決めポーズを取ると、それを見ていたみぃが呆れた声でぽつりとつぶやいた。


()探偵の間違いじゃ……?」


 失礼な!迷ってないですぅ!渡り鳥くらい正確に進めますから!

~一言トリ知識~


「おしどり夫婦」、ずっと疑問だったんですよね。だって、本物のオシドリは一夫多妻で、毎年ペアを変える習性があるし……。

それに比べて、ツルは一生同じ相手と添い遂げることで知られていて、他にも、ペンギンやカラスなども一夫一妻制で、死別しても新しいつがいを作らない個体もいるそうですよ。


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