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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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63羽目:偽りの商談

 扉が静かに閉じられ、足音が遠ざかるのを確認してロウガさんに視線を向けた。彼は短く息を吐き、奥に向かって声をかける。


「お前たち、もう出てきて大丈夫だぞ」


 その声に応えて、奥からエルザさんが現れた。続いてカイ君、そしてナギサちゃんもひょっこり顔を出した。


「……あいつら、戻ってこないよね?」


 ナギサちゃんは不安げな瞳で、ロウガさんとうちの顔を交互に見つめる。


「ああ、今日はもう安全だ」


 ロウガさんがそう答えた瞬間、囲炉裏の火がぱちぱちと優しく音を立てた。張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。


「ルーイ嬢……助け舟を出してくれて、本当に助かった。みんな、こんな不甲斐ない父親で……すまない」


 ロウガさんは深く頭を下げた。揺れる炎が、彼の影を壁に濃く映し出していた。その姿に、ナギサちゃんが小さく首を横に振った。


「そんなことないよ。お父さんが守ってくれたから、私たちは今もこうして一緒にいられるんだよ……。もし、そうじゃなかったら……」


「ぐすっ、ねーちゃん……」


 ナギサちゃんの肩が小さく震え、絞り出すような声が漏れる。隣にいたカイ君が、涙をこらえながら姉にぎゅっと抱きついた。それを見たエルザさんが、そっと二人を包み込むように腕を回す。


「絶対に何もさせないわ。お母さんとお父さんがあなた達を守るから……」


 ロウガさんも静かに妻の肩に手を添え、子供たちの頭を優しく撫でた。


「うちも、勝手に口を出してごめんなさい。赤の他人が首を突っ込むのはよくないってわかってたけど……つい」


「いや、助かった。本当に……。あいつら、俺の無知につけこんで無理を通そうとしていたからな。ルーイ嬢が言ってくれなかったら、どうなっていたやら……」


 彼の言葉が途切れ、炎に視線が落ちる。扉から吹き込んでいた冷たい風を、囲炉裏の火が温めていく。


「……あのおじちゃんたち、またカイトリしにくるの?」


 カイ君が心配そうに尋ねた。


「あぁ……でも、今までと違って今回は2週間の猶予がある。その間に、家族を守る手段をしっかり整える……。ただ、その……こんな事を頼むのは忍びないのだが……」


 ロウガさんが申し訳なさそうにこちらを見つめていた。 そして、電子音と共に視界の隅にパネル表示が現れる。


 ――《調査クエスト:『偽りの商談』を開始しますか?》


 うちは迷わず笑みを浮かべ、『YES』を選択して親指を立てた。


「もちろん、うちとみぃも手伝うよ。どうせ、あいつらまた何か仕掛けてくるだろうし。今度は、もっとしっかり対策しよ!」


「もちろんよ。ぎゃふんと言わせてやるわ」


 みぃも頷き、全員の顔がぱっと明るくなる。ロウガさんも、その様子を見て表情を緩めた。


「ありがとう……ルーイ嬢、みぃ嬢」


 囲炉裏の火が、ゆらりと揺れていた。その炎は、まだ消えていない希望のように、静かに部屋を照らしていた。

 みぃが画面を確認しながら、静かに呟く。承諾した後に《ロウガの話を聞く》というガイドラインが表示されていた。


「ロウガさん、よければすべて話してくれませんか?」


 みぃの問いかけに、ロウガさんとエルザさんは顔を見合わせた。子供たちに話してもいいのか、目で問いかけ合っているようだった。


「とーちゃん、かーちゃん。ぼく、ちゃんと知りたい。みんなを守れるようになりたいから、知らないままじゃダメなんだ」


「私も――怯えているだけなんてイヤ。お姉さまたちを見て、私も強くなりたいって思った。私も家族を守るために知りたい」


 2人の決意に両親の目が見開かれる。


「お前たち……いつまでも子供扱いじゃいけないな……」


「ええ、あなた。カイも、ナギサも……立派になったわね」


 話を聞くため、みんなで先ほどのように囲炉裏を囲み、ロウガさんはゆっくりと口を開いた。


「あの太っちょ商人はバルド・スキム。そして痩身の錬金術師はポンジ・サギィ。2人が持ちかけてきたのは最新型の魔導漁船だった。スキルがなくても操船できて、値段は高いが、皆で出資すれば負担は軽いと甘い言葉を並べてな。」


 先ほどの2人の名前を口にした瞬間、ロウガさんの眉間に深い皺が刻まれた。 それは、過去を語るというより、罪を背負う者の表情だった。


「俺は名義を引き受け、仲間からは使用権という形で資金を集めた。最初は配当も出ていた。それで……スキルがなくても稼げると夢を見た。でも……船は、だんだん動かなくなって、利益も消えた。相談しても『最新型だから故障はありえない』と突っぱねられ、逆に俺たちが詐欺師扱いされた。その噂で信用は失われ、魚も売れなくなった。」


 スキルがなくても稼げるという言葉に、疲れた漁師たちは希望を見たのだろう。だが、正直者ほど、疑いの目に晒される。ロウガさんの拳が、膝の上でわずかに震えていた。


「結局、借金だけが残り、船は動かなくなった。仲間の中には家族を売った者もいる……俺は、あいつらの指定する荷物屋で働くしかなかった。それでも、まだ足りず違約金を取り立てに来るんだ」


 話を終えると、赤く揺れる炎が彼の顔の影を揺らした。

 《ロウガの話を聞く》にチェックマークがついて、続けて《証拠集めをする》という新たなガイドが現れた。


 ロウガさんの話を聞いて、これは典型的な詐欺の手口だと確信した。自転車操業のように、出資金を回して利益が出ているように見せかけ、最終的には製品を動かなくして、借金だけが残る。

 静かに話を聞いていたみぃは、何かを思いついたかのように口を開いた。


「あの、その船ってまだ残ってますか?あと、船の設計図とかもあれば、私のスキルで何か見つけられるかもしれないわ」


「本当か……?!船は港の倉庫に陸揚げされていて、設計図もそこに保管してある」


 みぃの言葉を聞いて、みんなの目に希望の光が宿り始めた。

 しかし、カイ君を見ると必死に腕をつねって、眠気をこらえようとしている。視界の隅に表示されている時計を見ると、ゲーム内でも現実でも、そろそろ休む時間だった。一度ここで切り上げてもいいのかも。


「ふぁぁ。もう遅いし今日は終わりにしない?カイ君とナギサちゃんは明日学校だよね?2人も早く寝ないと!」


 背伸びしてあくびの真似をする。なるべく早く解決したいけれど、焦っても良いことはないからね。そういえば、次ログインするのゲーム内時間だと数日後だけど、クエストって進んじゃうのかな……?あと、何日も泊まっちゃっていいのだろうか?


 みぃに聞いてみると、住民たちはプレイヤーが数日眠ることを理解していて、ゲーマスAIがイベントの進行を一時停止するから、問題ないとのことだった。その言葉に安心して、うちはそのままログアウトした。翌日、いつも通りの日常を終えたあと、みぃと時間を合わせてログインする。


 ピヨいん。


 箱ある内時間は早朝、エルザさんは子供達を学校へ送りに行っている。

 ロウガさんが倉庫のカギを受け取る手続きをしていると、すぐ側の杭に【ウミュール】というセーラー服のエリ模様が素敵なカモメモンスターがいた。もちろん、すぐさま鳥ハラ対策を口に出しながらモフりました!

 まだ鳥吸いが足りなかったけど、みぃに首根っこを掴まれて終了。背後ではロウガさんが生暖かい目で見ていた。


 後ろ髪を引かれつつ潮の香りが漂う浜辺の倉庫で、うちとみぃ、そしてロウガさんで漁船を囲んでいた。


 所々錆びついた船体が、倉庫にひっそりと佇んでいて、砂利と砂が混じった地面を踏みしめると、足元でざらりと音がした。みぃは図面を確認し、船に寄ってスキルを発動する。


「【鑑定】」


 結果は、船の構造に損傷なし、素材も劣化していない。問題は別にあるらしいとのこと。本当にそのスキル便利だなぁ。うちもそれ使って、鳥ちゃんの羽の数から性格まで全部鑑定したい。ハッ!このスキルでシーちゃんとか鑑定できないかな?

 妄想に想いを馳せていたら、みぃが何かを見つけたようだ。


「なるほど……原因は船底にあったわ」


 船の底を見ていたみぃが眉を寄せる。うちも船底を覗き込むと、プロペラ部分に何かがお札の様にたくさん貼られていたのを見つけた。


「あれ?スクロール……?」


「そう。操艦時に魔力SPを流し込んで、一枚ずつ消費して起動する仕組みなんだろうけど、水のせいで紋章がかすれてるものは上手く発動できなかったみたいね」


「えぇ……そんなことで発動しなくなるんだ」


 まぁ、考えてみたら羊皮紙にインクで書かれた紋章だし、エルディアでも魔法整理機が落書きで動かなくなっちゃったもんなぁ。


「でも、私のスキルで直接船に紋章を入れれば問題は解決するわ。ヴェルさんも力を貸してくれるって言ってる。まだアイテムが残ってるし、新しいインクも開発したから船は直せるよ」


 ヴェルさんは風導の瞳(ゼフィールアイ)を通して、必要な紋章を正確に映し出してくれている。みぃもエルディアの後から、消えないインクの研究をしていたようで、マナスライムの核を粉末にして混ぜて完成させたらしい。


 すぐにでも修理しようと言いたい所だけど……もしかしたら、同じ仕掛けの船が他にもあるかもしれない。

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コメント何て頂いちゃったら嬉しくて、鳥の舞をしてしまうかも……!


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