60羽目:誠意は伝わるはず?
大声で泣き続けていたカイ君の背中と頭を、2人でそっと撫で続けていると、次第に呼吸が落ち着き、泣き声も少しずつ静かになっていった。
やがて、えぐえぐと鼻をすすりながら、ぽつりぽつりと小さな声で言葉をこぼし始める。
「ぐすっ……お姉ちゃんたち、ごめんなさい……えぐっ……ぼく、ひどいこと……いっぱい言っちゃった……ずびっ……とーちゃん、かーちゃんに悪い子はイラナイって言われちゃうかな……もう、おうち、帰れないのかな……ぐすっ……」
ちょっと背伸びしたい年頃ってあるよね。口調や行動を真似ただけで、何となく大人の仲間入りしたような気がしちゃったり。
「ちゃんと『ごめんなさい』が言えたの、すごいよー!だからカイ君は悪い子なんかじゃないし、お家にもちゃんと帰れるよ」
そう言って、うちはカイ君の背中を優しく撫でながら続ける。
「間違えちゃうことは、誰にだってあるんだよ。大事なのは、そのあと『ごめんなさい』が言えること。どうして、間違っちゃったのかをしっかり考えること。そうして、間違いを減らしていくんだよ」
カイ君は涙でぐしゃぐしゃの顔を上げて、こちらを見つめて小さく頷いた。
「……ぅん……まちがったら、ごめんなさいする……ぐすっ。ちゃんといっぱい考える……」
最初はちょっと生意気なガキ大将なのかと思っていたけれど、今目の前にいるのは、年相応の素直でまっすぐな男の子だった。
よしよし、いい顔になった。
ハンカチやティッシュもないので顔を拭いてあげられないけど、代わりにインベントリから外皮だけを剥いたヤシナッツを取り出し、ナイフとグローブを装着する。
パームクラブを倒した後に、木から落としたやつを拾っておいてよかった。さっき2人で食べたおやつがラストだったし、ここで即席のおやつを作ろう!泣いた後って、なんだか体がぽかぽかして、でもちょっと疲れるんだよね。だから、甘いものが欲しくなったりする。
「みぃ、このナイフに氷属性つけてもらっていい?」
「うん?いい……よ?」
みぃが小首をかしげながらも、「【即席転写・氷】」と唱えると、ナイフに氷の結晶の紋章が現れ、冷気のオーラに包まれる。それを見ていたカイ君の目もキラキラとし始めた。
ナイフでヤシナッツの周りを軽く突いてみると、実から白い霧がふわりと立ち上り始めて、グローブの上からでも、パキパキと徐々に中身が凍っていくのが伝わる。
「おほー、冷たい!よしよし」
ヤシナッツを振ると、まだ少し中の液体がちゃぷっ……ちゃぷっ……と音を立てていたので、ナイフの先で何度か突いていると、やがて液体の音が消えていった。カイ君はちょっと不思議そうな目で、みぃが変な人を見る目で見ている気がするけど……これはちゃんと、おやつを作るための大事な工程なんです!
「よし、これくらいでいいかな」
そのままナイフで上部を切り落とし、落とした部分をざっくりと削り整えて、スプーン代わりにして完成!
【ヤシナッツアイス】
カテゴリー:料理
効果時間:30分
味わい:ひんやり冷たいヤシナッツの甘みが口いっぱいに広がる、手作りの即席アイス。ほんのりとした香ばしさと、自然な甘さが絶妙にマッチ。
効果:HP回復+10%
注意:冷たさに注意。キーンエフェクト発動の可能性あり。
「じゃじゃーん、ヤシナッツアイスぅ~!(某青いロボット猫の声で)はい、カイ君。ちゃんと『ごめんなさい』できた君に、スペシャルスイーツを進呈しよう!」
「うわー!お姉ちゃんたち、すごい!!ありがとー!」
「ふふっ、『ありがとう』もちゃんと言えるの、すごいね!……でも、慌てて食べるとキーンってするから気をつけ……あっ、遅かったか……」
一口食べて目を輝かせたカイ君は、勢いそのままにパクパクと食べ進めたが、すぐに片手で頭を抱えてうずくまってしまった。頭の上には、ピカピカと小さな雷マークがいくつも浮かんでいる。これがキーンエフェクトなのね。
グローブを外して、おでこに手を当てて温めてあげたら、キーンエフェクトが収まった。
急いで食べると、脳が冷たさを痛みと勘違いして、キーンってなっちゃうんだよね。こうやっておでこを温めると早く収まるって、アイス好きの整体師さんが教えてくれた。
その様子をじっと見ていたみぃが、ふいにこちらを見つめてきた。カイ君のおでこに手を当てるうちを見ながら、ほんの少し唇を噛み、指先で自分の袖をぎゅっと握っている。
どうしたの?と首を傾げて視線を返す。みぃがこういう表情するときは、何かを抑え込んだり、我慢しているときなんだよね。何か嫌な事でも思い出していないといいけど。
「(さっき顔を両手で包んでくれたの思い出して、またしてほしい。なんて、言えないよ)……今度、私にも作って」
みぃはさっと視線を逸らしながら、膝に顔を埋めた。耳が赤く染まっているのが、ほんの少しだけ気持ちを伝えてくれているようだった。その一言に安心し、うちはニカッと笑って、親指をぐっと立てる。
「もちろん!ヤシナッツはまだまだあるし、みぃの分は特別仕様だよ!」
嫌な記憶スイッチじゃなくて、よかった。甘い物スイッチなら大歓迎だよ!みぃは甘いものが大好きだけど、甘え下手なんだよなぁ。カイ君の前で余計素直になれなかったのかな?……まぁ、言われなくても最初から、みぃに何か作るつもりでヤシナッツを落としたんだけどね。
そんな事を思いながら、カイ君に視線を戻すと、今度はゆっくりと口の中で味わいながら食べていたが、キーンが来そうになると自分の手でおでこを温めていた。子どもって、本当に学ぶのが早いなぁ。
うちもちゃんと『ごめんなさい』と『ありがとう』を忘れず、人に嫌な事をしない、考えられる大人にならなきゃね。
嫌な事。そういえば、鳥ちゃんをモフモフするとき、いつも一方的に抱きついてたな……?それって……鳥にとって嫌だね……?え、バードハラスメントしてた……?(震)
だ、だめだそれは!!あの屋台のセクハラおじさん達と同じになってしまうではないか!!
よし、今度からは抱きつく前に「突然で申し訳ございません!もふもふを堪能させていただきます!誠にありがとうございます!」って言おう。それなら誠意も伝わるし、ハラスメント回避もバッチリ! うちは学べる大人!
今までの鳥ちゃんたちには……心の中でスライディング土下寝で謝っておこう。バードハラスメントして大……変!申し訳!ございませんでしたっ!
「……なんか今、ルーイがすっごくバカなこと考えてる気がする……」
膝から顔を上げて、いつも通りのジト目でこちらを見てるみぃ。
失礼なっ!うちは今、鳥ちゃんに対して誠心誠意、心の奥底からお詫びを申し上げて、今後の鳥ハラ対策について考えていたところだよ!
某青いロボット猫のお声は誰で脳内再生されましたか?
私はモ〇クマの声もしているお方になります(年バレするやつ)
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