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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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55羽目:逆天元突破

 通話は途切れることなく、静かな夜の空気の中で続いていた。互いに言葉を交わすというよりも、ただそこにいることが心地よかった。


「明日、イグナさんを迎えに行ってからしっかり森に届けないとね。あとグラウスさんに話し聞けたらいいけど……辛い記憶を思い出させちゃうのは嫌だな……。こういう気持ちゲームのキャラに思うの変……?」

『そんなことないと思う。瑠衣はさ、ゲームの中でも現実でも、誰かのことをちゃんと考えてるよね。そういうところ、私はすごく好き』


 スマホ越しに聞こえる澪の声。画面の向こうにいるはずなのに、距離を感じさせない不思議な安心感があった。


「……ありがと。澪がそう言ってくれると、なんか救われる気がする」


 少し照れくさくなり、シーツで口元を隠す。

 耳に伝わる温もりは、スマホから発される熱ではなく、彼女の声が残した余韻だった。


『明日、ちょっとだけ早くログインしようよ。イグナさんを届けたあと、鳥探しにいく?』

「行くー!それじゃ、鳥に備えてしっかり寝ないといけないね!」

『ふふっ、だね。じゃ……私はそろそろ寝るね。おやすみ、瑠衣』

「うん。夜遅くまでありがとうね。おやすみ、澪」


 通話が切れると、部屋の静けさが戻ってきた。

 けれど、さっきまでの孤独とは違う。電気を消して瞼をそっと閉じると、澪の声の温もりと共に微睡みに包まれた。






 定時に仕事を終え、パソコンの画面を閉じると、スマホが軽く震えた。

 画面には澪からのメッセージが表示されている。


 『お疲れさま。今仕事終わったから、19時半にはログインできるけど、もう少し遅くする?』


 そのメッセージを見て思わず笑みが零れる。画面を指でなぞり返事を送る。


『お疲れ様、大丈夫!うちもその時間にログインする!』


 夕飯は、縁起を担いで月見つくね丼と鳥気分になれそうな野菜サラダ(水菜とにんじん)を手早く用意した。

 鳥の好きそうな葉っぱを詰め合わせたサラダを食べることで、自分も鳥になった気分を味わえる!

 そして、つくねの円と月見の円で“縁”を結ぶ!鳥ちゃんとの良縁をお願いいただきまっするだっく!



 予定の時間が近づき、ヘッドギアを装着する。

 視界が切り替わり、ログインの光が目の前に広がった。


 ピッピいん。


 ギルドにある自室の天井が視界に映る。

 ドアをノックする音が聞こえたので、ベッドから立ち上がり扉を開けると、そこにはみぃと、肩に乗ったイグナさんが腕を組んで立っていた。どうやら、少し早くログインしてみぃが迎えに行ってくれたようだ。


「おまたせしちゃった!じゃ、まずはイグナさんを森に送らないとだね!」


 うんうん、とイグナさんが腕を組んだまま頷く。今は『精霊の導き』のバフがついていないため、言葉は聞こえない。




 森に到着すると、イグナさんはみぃの肩からふわりと飛び立った。

 光、風、知、火の妖精たちが、再会を祝うように宙をくるくると舞っている。


「みんな、これ。ルーナベリーマフィンだよ。イグナさんが気に入ってくれたから、今日はみんなにも」


 インベントリーからマフィンを取り出し、妖精たちに手渡す。ふわりと香るベリーの甘酸っぱさに誘われて、妖精たちは謎の踊りを始めた。

 言葉が話せるゼフィさんだけが「ウェイウェイ」と言いながら、ヒップホップ風の動きをしている。たぶん。


「また来るね。次はもっといろんなお菓子と、しょっぱい物も持ってくるから!あ、ルミさん、あの本まだしばらく借りてていい?」


 そう聞くと、金色に輝くルミさんは、両腕で頭上に丸を作って応えた。


「ボクは何でも、いつでも大歓迎なんだよ。気をつけていってらっしゃい。はぐっ。もぐもぐ」


 他の妖精たちも、言葉ではなく、優しい風や光で見送ってくれた。マフィンを食べながらだけど。





 みんなと別れて、森の奥へと足を踏み入れた。

 目的はただひとつ――鳥探し。


「鳥運、今日こそは取り戻すよ!」

「今までも取り戻せてなかった気がするけど……鳥運、地球の裏側にあるくらいだし」

「えぇい、だまらっしゃい!今日は日本国産レベルにまで戻すんだい!」


 今日作ったつくねはブラジル産だったけど……、だって国産はちょっと値が張るじゃない?

 木々の間を歩き回っていると、みぃがふと低木を指さした。


「何か、あそこにいる」


 そこにいたのは、丸っこい体に卵の殻をかぶった【エッグケッコー】。

 首をかしげて、こちらをじっと見ている。恋が始まる5秒前である。


「【反転 AGI】!エッグケッコーちゅわぁぁん!モフらせてぇぇ!」


 最速スピードで駆け寄り、5秒以内にエッグケッコーを優しくふわりとスライディングしながら抱き上げる。

 そのままの勢いで顔を羽毛に埋めると、ふわふわの感触とほんのり温かい体温に、心がとろけそうになる。


「エッグケッコーが驚きのあまり固まってる……豆鉄砲どころか、大砲くらったみたいな顔してるよ……」

「今ちょっと顔面が羽毛で忙しいから、どんな顔か後で見てみるね!こんなすぐに鳥がモフれるなんて、幸先がいいねぇ!」


「……幸先、いいのかな?」


 もふもふを堪能していると、木々のざわめきが静かに変化していった。

 風が止み、葉の揺れもぴたりと止まった。まるで、森全体が息を潜めているようだった。

 森が変化したことによって、腕の中にいたエッグケッコーは我に返って身を捩り、逃げてしまった。

 あぁん、もふもふがぁ……。


「てか……なんか、静かすぎるね?」

「うん……」


 先ほどまでは他の鳥のさえずりが聞こえていたのに、今は驚く程静かだった。立ちあがり、周囲を見渡すと、上空の木々がざわりと揺れた。みぃがすかさず武器を構えて、うちも盾を構えた。


 周囲を警戒していると、視界の隅で何かが動いた。

 目を凝らして影を追うと、頭上の高い木の枝にふわりと鳥が舞い降りた。

 木々の隙間からの逆光で輪郭はぼやけていたが、虹色の翼を持つ鳥だった。


「あれは……フュリーナ……!?」


 図書館の図鑑で見た、フュリーナ――光属性の魔法鳥類。夜の闇を照らす導きの鳥。

 昼間は高い木の上や雲の中で休息しているはずなのに、今、頭上にいる。

 上からこちらをジッと見つめて、首を傾げていた。


「フュリーナと恋が始まる3秒前……?!」

「いや、始まらないでしょ……」


 風の音が一瞬止み、森の静寂に溶け込むように、かすかな声が響いた。


「……ベリー」


 その響きは、まるで水の中に広がる音のような、儚い呼びかけのように聞こえた。


「「ベリー??」」


 今のは、フュリーナが発した言葉なのだろうか。ベリーってルミさんから貰ったのしかないけど、あげてみようかな?

 うちはインベントリからルーナベリーを取り出し、ヒョイと空へ投げてみた。すると、フュリーナはふわりと舞い上がり、こちらへ僅かに視線を送り、ベリーを咥えて森の奥へと飛び去っていった。

 あのベリーで合ってたって事かな?


 その瞬間、フュリーナがいた枝から虹色の羽がふたつ、ゆらゆらと舞い落ちた。それぞれの足元に落ちた羽は、淡く光を放ち、美しく輝いていた。


「これ……フュリーナの羽?」


 拾い上げると、羽は微かに光を放っていて、どこか温かさが伝わるような感じがした。すると、視界に通知が表示される。


 《フュリーナの羽を獲得しました》


「なんか、すごい鳥だったね」


 みぃも目を輝かせながら、羽を見つめていた。


「月光を浴びることで発光するらしいよ。次は夜も見てみたいね!」

「うん、そうね」


 とりあえず、2人でアイテムの説明を見てみる。


 【フュリーナの羽】×1

 装飾クラフト素材。フュリーナが信頼した者にのみ授ける、絆の証。加工には精霊の加護が必要となる。


「これはもう、フュリーナからのラブコールでしょ!鳥運が天元突破して、宇宙まで行った感じだよ!」

「逆にレア運使いすぎて、地球の裏側の宇宙に貫通していったんじゃない?」


 そっち側に突破しないでいただきたい!より遠ざかっちゃうじゃん!

みなさんは、どの妖精さんがお気に入りですか?

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