53羽目:食べ物はいついかなる時も
本日より週1更新になります
残りの分配は後日に回そうということになり、みんなはダンジョン奥の白い魔法陣へと向かい始めていた。魔法陣に乗れば、ダンジョンの入口へ戻れるらしい。けれど、うちはどうしても気になる場所があった。
ボス部屋の一番奥、魔法陣のすぐ傍に設置された巨大な扉。討伐前からずっと気になっていたその存在に、うちはふらりと近づいた。
「……なんか、怪しくない?」
2メートル級のゴーレムもすっぽり入れそうなデカさ。その表面には、頭が鳥で体は人間っぽい古代の絵が描かれている。
扉は半開きで、中を覗くと、だだっ広い部屋に鍛冶炉がぽつりとあるだけだった。空気はひんやりしていて、ほのかに鉄と焦げた木の匂いが混ざっている。
「ジョンさん、神殿を守るために兵士が散ったって話してたけど、ここって何の神殿だったの?」
魔法陣へと向かっていたみんなに声をかけると、みんな足を止め振り返った。
「ん?ここは『鍛冶神殿』って呼ばれてたらしいで。導具兵器の開発と精錬を担ってた施設や。神々に鍛冶の技術を捧げるために建てられた、炎と金属の交差する神聖な場所やったらしい」
うーん、神殿なら祭壇のひとつやふたつ、この部屋とかにあってもよさそうなんだけどなぁ……。この絵もかすれているけど、迦楼羅だよね?インド神話の神鳥で、天狗の原型になったっていう。神様の絵はあるのに、祭壇のない神殿か……。
詩にもあったけど、ボスはこの炉を守っていたんだよね?絵を見上げながら考えていたら、ふと違和感に気づいた。頭のあたりに、六角形のくぼみがある。迦楼羅は如意珠を頭につけていたはず。そして、この形……さっき宝箱から出てきた炎の硬貨と、まったく同じ形なんだよね。
「……試してみる?」
うちはインベントリから炎の硬貨を取り出し、そっとくぼみに嵌め込んだ。
カチリ。
「「「「「え?」」」」」
音と同時に、炉の底がゆっくりと開き始めた。内部からは、赤く揺らめく光が漏れ出し、階段が現れる。
「隠し部屋……!」
みんなが呆然とする中、みぃだけが「やっぱりね」と言いたげにこちらを見ていた。
「ボス終わった後にこんなのあるの、初めてきのぉ……宝箱の中身といい、ルーイちゃんの運どうなってるきの?」
「鳥運が地球の裏側までマイナスになった代わりに、こういうレア運だけぶっ飛んでるのよ」
みぃの説明に、みんなが「なるほど」と納得してる。納得しないでいただきたい。うちの鳥運をブラジルまでマイナスにしないで、せめて国内にとどめて!
みぃの《風導の瞳》では、硬貨を嵌める前は靄がかかってたけど、今は風の導きがつながってるらしい。
慎重に階段を下りると、そこは静寂に包まれた小さな空間だった。壁には古びたレリーフが刻まれ、中央には炎が灯る祭壇。そして、その祭壇に祀られるように、ほのかに光る低木が一本。その枝には六角形の果実がひとつだけ実ってた。
「これが炎の記憶……」
みぃを見ると、彼女は静かに頷いた。うちは実を摘み取り、ナイフで核を取り出す。ふと思い出して、インベントリから作り置きの【森の導きティー】を取り出した。
「みんな、これ飲んでね。妖精さんが出てくると思うから、これで話ができるんだ」
「え、話……?『精霊の導き』……?」
「あらあら、料理でこんなバフあったかしら……?」
「頭が追い付かないきのぉ……」
背後がざわついているけど、うちはグビリと飲み干し、核を床に置いて盾を構える。
「【シールドチャージ】!」
「「「「「え?」」」」」
バキッと音を立てて核が割れ、まばゆい光があふれ出す。
―― 『契約者、ルーイとみぃを確認。記憶の封印、解除を開始します』
赤い魔法陣から火の粉が舞い、中から小さな存在が現れる。燃えたぎる炎の翼、陽炎のように揺らめく赤い衣の熱風が頬を撫でた。表情は相変わらず光って見えないが、その姿は、まさに炎の精霊そのもの。
「導かれし者たち。オイラは炎の妖精、イグナ=ヴァルグレア、炎の記憶を守る者だ。封じられた怒りの記憶を、今、解き放――」
イグナさんが名乗りを終える前に、ジョンさんが食い気味に話しかける。
「ほんまに妖精や!このお茶どないなってん?!君みたいなの他にもおるん?!なぁなぁ、羽根触ってもええ?!」
「え?記憶を……えぇ?」
イグナさんがジョンさんのパワーに押し負けて、しどろもどろになっている。
「はいはい、邪魔よ検証厨駄犬。こっちで椅子になりなさい」
耳をグイッと引っ張られ、悦びながら部屋の隅で四つん這いのイスにさせられたジョンさん。
呆気に取られているイグナさんに、うちはそっとお詫びの品を差し出した。
「えっと、ごめんね?はい、これ。ルーナベリーマフィン」
スピルカさんお気に入りの、ドライルーナベリーをちょっとアレンジしてみたやつで、効果も前より上がっていた!
【ルーナベリーマフィン】
カテゴリー:料理
効果時間:30分
味わい:さっぱりとした甘みとしっとりした生地の味わいが絶妙。喉を通ると、微かな清涼感が残る。
効果:目と頭がすっきりする、集中力向上+10%
イグナさんは一瞬、固まってマフィンを見つめているように、見えたけど表情は光っていてわからない。
「……な、なんだよあいつは!?あと、オイラはツマミ派だぞ!?辛いのとか、しょっぱいのとか、そういうのが好みなんだ!」
そう言いながらも、手はしっかりマフィンを受け取っている。
妖精さんはみんな甘党かと思ってたけど、ツマミ派もいるんだねぇ。
「じゃあ、いらない?」
「いや、まあ……とりあえず、頂いておくけどな!礼儀としてな!オイラは義理堅いからな!誤解するなよ!」
がぶっ。
イグナさんは一口食べると、目を見開いた――ような気がした。
「……な、なんだこのふわふわ感……!ベリーの甘酸っぱさと、しっとりした生地のバランスが……!くっ、こんなの……こんなの……!」
もぐもぐ。
気づけば、イグナさんはマフィンをがつがつと食べていた。
「……うまい。オイラ、ツマミ派だけど、これは別枠だ。例外だ。特例だ。」
「居酒屋常連客に、意外性のあるメニュー出した時みたいな感想ね……」
ツバキ先輩の呆れたツッコミに、場の空気が少しだけ柔らかくなる。そして、イグナさんは最後の一口を飲み込み、コホンっと咳払いし姿勢を正した。
「さて……いきなり邪魔が入ったが。ここからが本番だ。オイラが守ってきた《炎の記憶》――見せてやるよ。怒りの焔が、何を焼き、何を残したのかをな」
イグナさんの言葉とともに、パチパチと燃える火が少しずつ視界を覆い、徐々に熱が肌を刺す。まるで現実のように目の前に再現されていく中、焦げた木の匂いが鼻を突き、遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえた。背後で、はっと息を呑む音が聞こえた瞬間――世界が陽炎のようにぐにゃりと揺れた。
次に見えたのは、赤く染まった街だった。
Q.何派ですか?
ルーイ:「ハイ!鳥派!」
みぃ:「それは食べる方でいいのよね……?」
ルーイ:「え、両方でしょ?」
みぃ:「言うと思ったわ……」
あなたは、スタンプ派?ブクマ派?そ・れ・と・もぉ★派?(新婚のやりとりスタイルで言うな)
コメント派もいましたら、ぜひ教えてくださいね!




