52羽目:地下溶鉱都市《マグマの街ダンジョン》⑦
最後にちょっとしたお知らせがあります。
赤黒いポリゴンが、ゆっくりと空気に溶けていく。その様子を、うちはただ目で追っていた。
「……終わった、んだよね?」
ぽつりと漏れた声に応えるように、ポンとうちの肩に手を置いて微笑むみぃ。
「うん、終わったよ。ルーイの初ボス討伐だね」
後ろを振り返ると仲間たちはそれぞれ武器を収め、表情がほころんでいる。
そのとき、システム音とは異なる軽やかなアナウンス音が響き、空から天使――と書いてシーちゃんと読む、が舞い降りてきた。
えっ、もしかしてうち、気づかない内に死んでた?天使のお迎えかな……?でも、君になら連れていかれてもイイ!!
そんな妄想がよぎる中、シーちゃんの声がゲーム内に響き渡る。
『【ワールドアナウンス】ですッピ!新世界人たちが、ダンジョンボス「炎喰いのスライムロード【★★フレイムグラット】」を討伐しました!おめでとうございますッピ!初討伐記録として、歴史にその名が刻まれますッピ!』
なんと、シーちゃんが世界に向けて褒めてくれた!
よかったら、歴史に名を刻んだうちと天界で挙式あげちゃわない?なんて逆プロポーズの妄想が加速する。
続いて、ピコンというシステム音と共に通知が表示された。
《称号【炎を越えし者】を獲得しました》
【炎を越えし者】
カテゴリー:称号
効果:炎属性の攻撃に対する耐性がわずかに上昇、物理ダメージを軽減する防御効果を付与。ボス戦闘時に「恐怖耐性」が自動で発動し、精神的な揺らぎを抑える。
アナウンスが終わると、シーちゃんがふわりと目の前に降りてきて、封筒に入った手紙を差し出してきた。
『運営からのお知らせですッピ!』
運営からのサプライズで、うちらの婚約届が入っているのかな??
ドキドキと想いを馳せながら封を開けてみると、そこには丁寧なメッセージが記されていた。
『ルーイ様
いつも「箱庭あるてぃめっとオンライン」をお楽しみいただき、誠にありがとうございます。
このたびは、ダンジョンボス「炎喰いのスライムロード【★★フレイムグラット】」の初討伐、おめでとうございます。
今回のボス討伐の動画につきまして、「要事前確認」をご選択いただいておりましたため、後日登録メールにて動画を送信いたしますので、ご確認いただけますと幸いです。
箱ある運営陣より』
婚姻届ではなかった!……まあ、他の人も同じ封筒だったし、予想はしてたけどさ。しかし、前に変えた設定って、こうやってお知らせしてくれるんだね。動画は後日確認すれば問題なさそうだし、今はシーちゃんがくれたこの手紙を大事にメールボックスにしまっておこう。
みぃときの子さんも手紙を読んでからボックスに仕舞いこんでいた。シーちゃんが触れていた封筒部分だけ貰ってもいいですか??
「みんな、すごい頑張ったきの!帰ったらきのこ鍋パーティーするきのー!」
きの子さんが笑顔で両手を広げると、ジョンさんが「食べられるきのこにしてなぁ」と苦笑していた。
「ルーイちゃん、ナイス判断だった。あの1メートルはでかかった」
いつのまにか、近くにいた三影さんがこちらを向いて言った。
「いやいや、あんな拙い説明で信じてもらえてよかった!」
「しがないギルマスだが、仲間の言葉は信じることにしてるんだ」
その言葉に、みんなが自然と笑顔を浮かべた。普段、言葉数は多くないが、こういうところがみんなを惹きつけているんだろうなぁ。
それを見ていたまりんさんが、優しく微笑みながら、みんなを宝箱へと促した。
「さあ、みんなで報酬を受け取りに行って帰りましょう」
そう言われて部屋を見回すと、ボス戦開始前と違い今はダンジョンの奥に白い魔法陣が浮かび上がり、フレイムグラットが鎮座していた場所には宝箱が出現していた。そして、シーちゃんの姿はもう見えなくなっていた。うぅん、バイバイのもふもふしたかったなぁ。
全員で宝箱の前に立ち、ドキドキとその様子を眺めていると三影さんが振り返ってこちらを見た。
「初ダンジョンボス記念だ。ルーイちゃんが空けるといい」
「え?!うち?!」
突然の事に驚いて全員の顔を見ると、三影さんの言葉に、仲間たちは皆うなずいていた。みぃが一言「いっておいで」と呟き、うちの背中に手を添えて軽く押し出してくれた。
「よ、よーし!ビギナーズラック、来いっ!」
みんなに後押しされ、うちは勢いよく、宝石が埋め込まれた、金ピカかまぼこ型の宝箱の蓋を両手で掴み上に持ち上げた。すると、パーティーのシステム欄に次々とアイテムが表示されていく。
《1,000,000Rを獲得しました》
《灼熱のスライムコアを獲得しました》
《炎の硬貨を獲得しました》
《マグマの欠片を3つ獲得しました》
《焔鎧を獲得しました》
その表示を見て、みんなが歓声を上げたので、きっと初討伐の記念にふさわしい豪華な報酬なのだと思った。うちもアイテムをひとつずつ確認していく。
【灼熱のスライムコア】
アクセサリークラフト素材。フレイムグラットの心臓部。触れるとほんのり温かく、炎属性の魔法威力を高めるアクセサリーに加工可能。
【炎の硬貨】
ある王より授かった硬貨。
【マグマの欠片】
武器クラフト素材。小規模な爆炎が発生し、振ると火花が散る。武器に加工可能。
【焔鎧】SSS
カテゴリー:胴防具
装備Lv:なし
スキル:なし
効果:炎属性耐性+15%、物理ダメージ軽減(中)
特殊効果:HPが30%以下になると、自動で「障壁」を展開(10秒間、物理ダメージ無効)
「あらあら、久々にSSSアイテムみたわ~!」
まりんさんもアイテムを確認していたため、歓声を上げた。
「だな、この鎧はルーイちゃんがもらうといい。みんなもいいか?」
「えっ……でも、みんなで倒したボスのドロップだし、うちがもらうなんて……」
またも三影さんの発言に戸惑いながらも、みんなの顔を見回す。一番レベルの低いうちは足を引っ張っていたし、みんなの力があったからこそ、手に入れられた貴重な報酬なのだ。
「せやな!性能もタンク向けやし、それがええと思う!」
「使えない防具に用はないから、異議なしよ」
「きの子は防御より火力派だから賛成きの~!」
「私も使えないから。ルーイ、遠慮せずに受け取ったほうが、みんなも嬉しいと思うよ?」
次々と背中を押され、うちはようやく頷いた。
「う、うん……みんなありがとう!大事にするね!うち、もっと強くなって、みんなを守れるようになるから!」
三影さんは目を細めて微笑みながら、鎧と一緒に炎の硬貨を手渡してきた。
「これでよりタンクに磨きがかかるな。あとこの炎の硬貨もルーイちゃんが持つといい。ジョンとも確認してみたが情報がないアイテムだから、ボス討伐記念用かもしれない」
アイテムを受け取って今の装備を外し、焔鎧を身に纏う。
黒い溶岩の間を流れるマグマのような線が幾重にも胴部を走り、肩当てには炎の紋章が刻まれている。まるで鎧そのものが火山のような、力強い輝きを放っていた。
そんな仲間たちがまだ盛り上がる中、1人だけジーっとこちらを見ている人物が少し呆れたように口を開いた。
「本当にルーイって、鳥運は壊滅的なのに……こういうレア運だけはぶっ飛ばすよね……」
みぃの呟きを聞き、うちは天に向かって祈る様に手を組んだ。
「神様、仏様、天使さん!このレア運と交換して、鳥運をぶっ飛ばしてもらえませんか……!?」
みぃはやれやれと肩をすくめながら、「それは無理だと思う」とため息をついていた。
いつも、鳥もふを読んでいただいて、ありがとうございますっピ!
キリのいいダンジョン編にて、毎日更新→毎週木曜20時更新になりますっピ。
次のお話は8月21日になりますので、お楽しみにお待ちいただけたら嬉しいですっピ!
ちょっと、仕事や諸々調整をしなきゃいけなくなり、ペースを落とさせていただくことにしました。
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