50羽目:地下溶鉱都市《マグマの街ダンジョン》⑤
祝50羽目!そして昨日の49羽目で公開する内容すっ飛ばしていたので、昨日公開してすぐに読んでしまわれた方は、よろしければもう1度お目通しをお願いします(土下座)
異様な存在は、まるで空気をパンパンに詰め込んだ炎の風船のようだった。燃え盛る炎がゆらゆらと揺れていて、目はつぶらで丸い。何度も見てきた、あの形――そう、スライムに似ている。
魔法陣の中心に鎮座しているのは、真っ赤な炎のような揺らめきを纏ったスライム。サイズは先ほどのゴーレムよりも大きく、4メートルほどだろうか、巨大なスイカゼリーのようにぷるぷる感がある。
「あれが、ボス……?」
《炎喰いのスライムロード【★★フレイムグラット】》
★1つが中ボスだから、★2つだと大ボスって感じなのかな?
そして、案の定、二つ名みたいな名前にスライムってついてる。ということは、コアさえ何とかできれば倒せるのかもしれない。コア抜きの戦法はまだ正式には発表されていないけど、一応みんなに話してみようかな。
「あのぉ~」と手を挙げると、みぃは「そうなるよね」と言いたげな顔をし、他のメンバーは「どうしたの?」という表情でこちらを見てきた。
「あのボス、スライムロードってついてるから、普通のスライムと同じ戦い方なのかなって。スライムって物理攻撃を無効化する特性があるから、本体ごと魔法でコアを破壊するのが基本なんだよね?」
「うむ、スライム系は基本的にコアごと魔法で倒すのがセオリーだ。稀に物理攻撃の弓が効くこともあるらしいが……属性によるものじゃないかと」
ガルさんと同じことを言っているので、三影さんも何かで調べたのかもしれない。
「剣士ギルドの訓練でやったんだけど、その時に、スライムはコアを安全な位置に移動する習性があるって教わったんだ。通常のスライムだと、目から一番遠い位置にコアが移動することが多くて、それをブチッと抜けばすぐ倒せたんだよね」
「ブチッと抜く」あたりで、みぃ以外のメンバーが「ん???」という顔をしていたので、みぃが補足でコア抜きの説明をすると、みんなが宇宙猫みたいな顔になっていた。今日だけでみんな何回宇宙の真理を知ったのだろう。
「それほんまやったら、戦い方大革命やで……」
「同じようなこと言われて、モンスター研究所に報告したいって、剣士ギルドの教官に言われたんだよね……」
そりゃそうだよね、と全員が頷いている。普通のスライムをよく観察したら、みんなもすぐに気が付くと思うんだけどなぁ。ただ、普通のスライムと違って、今の段階でフレイムグラットの核が見えないのが問題なんだけどねぇ。
「ルーイちゃんのコアの事を、念頭に置いて戦ってみましょう!部屋に全員が入れば自動的に戦闘が始まるから、今のうちにバフをかけ直しておきましょうね」
パンッと両手を打ち鳴らし、まりんさんがみんなに声をかける。
ダンジョン入口のときと同じように、まりんさんは全員のステータスを上昇させ、うちにはVIT上昇のスキルをかけてくれた。みぃは再び、みんなに火耐性のスタンプを押していく。
準備が整い、全員が部屋に足を踏み入れた瞬間、魔法陣が赤く輝き、宙に浮いていたスライムの体がぶるんと震えた。
その表面からは熱気が立ち上り、まるで部屋全体がサウナのように熱が広がっていく錯覚を覚える。
「来るわよ!」
ツバキ先輩が叫ぶと、魔法陣の上に浮いていたフレイムグラットがドスン!と床に落ちてきて、衝撃波が地面を伝って広がる。全員が転ばないようバランスを取り踏ん張っていて、揺れが収まるまで次の一歩を踏み出せなかった。
「【神楽の舞】!【鼓舞の舞】!」
揺れが収まってすぐ、ツバキ先輩の1つ目のスキルでみんなの足元が白く光り、体がふわりと軽くなる。
「【鼓舞の旋律】!」
2つ目の舞に合わせて、ジョンさんが太鼓を叩くようなリズムでマラカスを振ると、足元に赤い光が現れ、体の奥から力が湧き上がる感覚が広がる。
「全ステータスを上昇する合奏スキルや!」
「ルーイちゃん、いくぞ!」
「おっけー!べろべろばー!【挑発】!」
三影さんと共に前に出て挑発すると、フレイムグラットのつぶらな目がこちらを睨みつけ、バインバインと跳ねながら巨体を押しつけてきた。
「【シールドガード】!あちっ、あちちちっ!」
体当たりは防げたけど、このサイズだったら触れるだけでそりゃ火傷しますわな!あつーい!
「【氷槍連陣】きの!」
きの子さんの頭上から次々と氷のつららが発射され、ボスに突き刺さると体表が一部白く濁り、わずかにサイズが縮んだ。
「効いてるきの!」
そのとき、盾のあまりの熱さに耐え切れず、その体から離れる為に打撃を放った。
「あっついわい!【シールドチャージ】!」
ズズズ……!
盾をぶつけた途端、スライムの体が膨張し、先ほどよりも少し大きくなった。
「……!物理無効じゃなくて、物理攻撃を吸収して体積を増やしているのか!ルーイちゃんはみんなを守って!俺がヘイトを取る!【幻歩】!」
フレイムグラットの目の高さに合わせて空中を駆け上がり、切り付けて敵の意識をうちから逸らす。
うちは後ろに下がり、みんなへ攻撃が行かないように盾を構えなおす。また足を引っ張ってしまった。それでも、うちにできうる限りの事を今はやるしかない。
「【神楽共鳴】!」
「【セッション】!」
2人が阿吽の呼吸で舞と音を奏で始める。
「【氷河の嵐】きの!」
氷の台風が、燃え上がるようなボスの体にぶつかると、先ほどよりも広く表面が白く凍りついていった。
しかし、凍結が半分ほど進んだところで、ボスの体から立ち上る熱によって蒸気が発生し、氷がじわじわと溶け始めるのを見て全員が息を呑んだ。次の一手を誤れば、体積がさらに膨張するかもしれない。
「これでもアカンのかい!」
「まって!凍ってる部分には、物理攻撃が効くかもしれない!」
咄嗟にみぃが叫ぶ。以前、マナスライムの素材集めの時に、マルクスさんが「コアを取り出すには凍らせて削る」と話していたのを思い出す。
「【ダブルアタック】!」
一番近くにいた三影さんが、即座にまだ凍っている部分に双剣を突き刺すと、氷の塊のようなゼリーがパキンと音を立てて砕ける。
先ほどまで、そこにあったゼリー状の体は元に戻ることなく、体積が欠けたままボスの氷だけがすべて溶けた。
「効いてるわ!そういうギミックだったのね!」
通常の物理攻撃ではボスの体はダメージを吸収して膨張するが、凍らせてから攻撃すればダメージが通る上に、体積も縮められる。
この方法なら、体を小さくしていくことでコアの位置を特定できるかもしれない。
「きの子ん!バフは任せて!ルーイ、私達に攻撃通したらぶっ飛ばすわよ!」
合奏スキルを使っている間、吟遊詩人と踊り子の2人は無防備になる。攻撃が届かないよう、うちは2人の前に立ち、中腰で盾を構えて守りを固める。
「【氷河の嵐】きのぉぉ!」
きの子さんの魔法が再び炸裂し、氷がボスの体にぶつかって白く凍りついていく。その凍った部分を狙って、三影さんとまりんさんが武器を振るい、みぃはスクロールから風の刃を呼び出して応戦する。
凍らせては削る。その繰り返しによって、元は4メートルほどあったボスの体はみるみる縮んでいき、ついにはゴーレムほどのサイズにまで小さくなった。
また1つ氷の部分が崩れた瞬間、フレイムグラットのつぶらな目がわずかに揺れ、そこには、感情のようなものが宿っていたように感じた。そして、赤い輝きが一瞬だけ弱まった――その瞬間、空気が震えて、何かがやつの中でゆらりと揺れた。
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