47羽目:地下溶鉱都市《マグマの街ダンジョン》②
岩壁からはマグマが流れ落ちていたが、不思議と街の建物には一切の損傷がなかった。ただ、そこに人の気配はなく、まるで時間が止まったかのような静けさが支配していた。
廃墟のような街を、指示された方角へと慎重に進んでいく。すると、視界の端に何かが動いた気配を感じ、反射的に盾を構える。
「っ……!」
次の瞬間、影は赤く光る爪から火花を散らしながら迫り、飛び掛かってきた。爪が盾を削り、金属が悲鳴を上げるような音が響く。盾に衝撃が走り、耳を劈くような爆発音と共に火花が散る。熱風で髪が揺れ、頬が焼けるような衝撃を受け止めたが、敵は衝撃を利用し、砂埃が舞い上がる後方へ跳ね退いた。
次の攻撃に警戒し目を凝らすと、焦げた匂いが鼻を刺す中、視界が徐々に晴れていき、影の正体が露わになった。
それは、全身が漆黒のヒョウのような獣。爪と尻尾の先端には炎がゆらりと揺らめき、まるで生きた火の化身のようだった。
「スコーチリンクスか!物陰に逃がすな、奇襲されるぞ!ルーイちゃん、爪の爆発と尻尾のノックバック攻撃に注意しろ!」
三影さんの声が飛ぶ。
奇襲をかけるなんて現実のヒョウみたいな戦い方なんだね。跳ね飛ばしたおかげで、建物から距離が取れたのはよかったかも。
「一気に片付けるで!ツバキ、よろ!」
颯爽とうちの横を駆け抜けていくジョンさん。その背中に呼応するように、ツバキ先輩が神楽鈴を手に取り、静かに舞い始める。
「【神楽の舞】」
鈴の音がシャンと澄んだ音を響かせると、全員の足元から白い光が広がり、身体がふわりと軽くなるような感覚に包まれた。
「【律動加速】!【音律連撃】!」
ジョンさんがスキルを詠唱し、地を踏みしめるたびに加速していく。腰から抜いた武器――かと思いきや、マラカスを両手に構えて向かっていく。
え、マラカス……???
ジョンさんはマラカスを振るテンポを上げていき、まるでラテンのリズムを刻むように、スコーチリンクスに連撃を叩き込んでいく。
シャカシャカシャカッ!ドンッ!シャカッ!ドンッ!
わぁ……マラカスって武器になるんだぁ。
「グギャォ!!」
連撃に押され、スコーチリンクスが後退する。その背後に、音もなく忍び寄る影がひとつ。
「【シャドウステップ】」
いつの間にか移動していた三影さんが、敵の背後に現れる。クロスさせた双剣が、鋭く頸椎を切り裂いた。
「Grrh……!」
赤いポリゴンが首元から弾け、やがて全身へと広がっていく。スコーチリンクスは一声うめくように鳴いた後、光の粒となって崩れ散った。
「ないすきの~♪さすが、うちの二大アタッカーきのね!」
きの子さんが満面の笑みで親指を立てる。
三影さんはふぅ、と息を吐いてクールに視線を逸らす。ヒュー!かっこいい!
でも、しっぽがぴこぴこと揺れ動いているので、嬉しいんだろうなぁ。
「トドメ刺してないから、減点ね」
ツバキ先輩の辛口コメントに、ジョンさんはというと――
「お仕置き?!お仕置きコースかなぁ?!」
なぜかテンション高く叫びながら、自然に四つん這いになったジョンさんに、まりんさんが無言で近づくと、彼は杭を打ち込まれたように、ピンッと跳ねあがった。
「はいはい、コントは放っておいて先行くよ」
みぃに背中を押され、うちらは再び歩き出す。
しかし、マラカスって武器になるんだねぇ。殴りやすそうな形状はしてるもんね?まぁ、打楽器っていうくらいだから、何も間違ってない!
建物の街を抜けると、風景は次第に変化していった。岩壁にはぽつぽつと横穴が開き、まるでアリの巣のように広がっている。無機質な構造物から、自然の荒々しさがむき出しになったような景色だ。
ジョンさんと三影さんが、地図を確認しながら立ち止まるたび、うちは周囲の風景をじっくりと観察する。
「チョウゲンボウ的なのが、巣でも作ってないかなぁ?」
ふと呟くと、みぃが思い出したように言った。
「それって、前に崖のある山に登って見に行った鳥?」
「そうそう。チョウゲンボウって、ハヤブサの仲間なんだけど、崖の横穴とか岩の隙間、カラスの古巣や木の洞なんかに巣作りするんだ。ああいう岩の隙間、ちょうど良さそうなんだよねぇ」
指を差した先、洞穴の奥から、赤い光がいくつも灯った。燃えるような12の赤い点が、闇の中にずらりと並んでいる。
「へ?」
「インフェルノハウンドよ!群れで来るから気をつけて!」
まりんさんの声が洞窟内に響いた瞬間、6体の火の狼たちが一斉に闇の中から飛び出してきた。炎を纏った毛並みは、風に煽られて燃え盛るように揺れていて、焦げた匂いが漂うかのような錯覚に陥る。
「べろべろばー!【挑発】!」
相手をおちょくるように挑発すると、バラバラだった赤い目が一斉にこちらへ敵意を向けた。
その内の1体が群れから飛び出し、先制攻撃のひと噛みを狙って跳びかかってきた。
「【シールドチャージ】!」
盾を構えて突進し、敵の鼻面にぶつけると火花が散り、狼は後方の群れへと吹き飛ばされた。
「ギャンッ!!」
「キャン!」「ギャゥ!!」「ワウッ!」
巻き添えを食らった数匹が床に転がる。だが、群れから飛び出した、新たな2体がこちらへ向かってきていた。
「【サウンドクラッシュ】!」
ジョンさんが両手のマラカスを勢いよく互いにぶつけると、マラカスから空気の波動が前方に飛び出し、2体の狼に命中した。
すると敵は足取りが乱れ、千鳥足でふらつき頭上には、星のマークがくるくると回っていた。
「ナイススタン」
三影さんがふらつく2体の前に飛び出し、両手の短剣を目の前で交差する。
「【即席転写・水】!」
みぃがスキルを三影さんに向かって唱えると、武器に水滴のような紋章が現れ、淡い青の光に包まれた。
喉元を一直線に切るように短剣を振ると、2体の狼は瞬く間に赤いポリゴンを散らして消えていった。
「ツバキ!【セッション】!」
「【神楽共鳴】!」
ジョンさんがシャカシャカとマラカスを振り、ツバキ先輩が神楽鈴をシャンと鳴らす。
シャカシャン、シャカシャカ、シャンシャン、シャカシャン――
和と羅。異なる楽器が奏でる音が調和し、きの子さんの身体が緑と青の粒子に包まれていく。
その2人を狙って、先ほど鼻面を叩かれた個体が再び飛びかかろうとした。
「あらあら。悪いわんちゃんには、しつけが必要ねぇ」
母性あふれる笑顔を浮かべながら、まりんさんが手にしていたのは、棘付きの鉄球が鎖で柄に繋がった、殺意全開の武器だった。
それを「えーい」っと軽い声で振り回し、まるでテニスラケットように優雅な振りを狼へと叩きつける。
「キャウン!!」
棘の鉄球がクリーンヒットすると、瞬く間に狼はポリゴンとなって消えた。
のほほんとした口調で振り回してたけど、あの武器……たしかメイスっていうんだっけ?
ゲームだから返り血はないけど、現実だったら絶対に浴びるタイプのやつだよね。見た目も威力も、しつけってよりもバイオレンス……?
「詠唱バフありきの~!残りは任せるきの!【氷河の嵐】きの!」
きの子さんがスキルを唱えると、頭上に緑色の詠唱バーが表示される。バーが高速で色を満たしていき、完了と同時に冷気が渦を巻いて広がった。
凍てつく台風のような風が、残りの3体のインフェルノハウンドを包み込み、炎を押し返すようにして吹き荒れる。
狼たちは身を縮める間もなく、次々に赤いポリゴンとなって砕け散ると、うちの頭上でファンファーレが鳴り響いた。
スタンプ、ブクマ、★をポチっとしていただくとジョンさんとツバキ先輩がそれぞれの武器持ってカラオケでリズムとってくれるって!
ツバキ:「……やらないわよ、でもボタンは押してほしいわね」
ジョン:「ご褒美はくれるん?!」
ツバキ:「駄犬は黙ってなさい」




