46羽目:地下溶鉱都市《マグマの街ダンジョン》①
ジョンさんを椅子のようにして背中に座るツバキ先輩。その光景に、4人は「またか……」とため息をついていた。
うちはというと、「肩叩かれてたときも思ったけど、あの2人、接触OKにしてるなんて仲良しだなぁ〜」と、ほっこり眺めていた。
「さて、次は俺がやってみるか」
三影さんが前に出て、レバーに手をかける。
タイミングを見計らいながら、少しテンポを変えてボタンを押していく。
《精霊・精霊・精霊》
絵柄が揃った瞬間、奥の歯車が「カチリ」と大きな音を立て、灯篭の上部にあった丸い石がスライドし、中央にぽっかりと空洞が現れる。
「おぉ〜!」と歓声が上がる中、「ツバキ!まだ座っといてぇぇ!」という叫びが混じっていた……気がするけど、きっと空耳かなぁ?
だが、そう簡単に次も揃うことはなく三影さんも失敗に終わって、みんなから少し溜息が漏れた。ジョンさんだけ「ドンフッ♡マイ」と励ましの中に悦びの吐息が紛れていた。
ふむふむ、2人の見た感じで流れが掴めたかも。失敗したら最初からやりなおしじゃないみたいだし、うちもチャレンジしてみようかな?
「うちもやってみてもいい?」
「どうぞ」と三影さんが場所を譲ってくれる。
レバーを引くと、3つの絵柄が高速で回転し始めた。
うん、問題なく見える。タイミングは、ぴよっぴよのぴよー!
《炎・炎・炎》
また「カチリ」と音がして、今度は空洞の中からロウソクがせり上がった。
成功してよかった!よーし、ラスト1回!チュン、チュチュン!
《鉄・鉄・鉄》
最後の絵柄が揃った瞬間、すべての歯車が一斉に回転する音が灯篭の中から聞こえ、ロウソクにぽっと火が灯った。
「「「「え?」」」」
「えっと、呪文なんだっけ?」
「あ……|Aren vel’kha, toren flam. Felgen’na rek’tor.《アレン・ヴェルカ、トレン・フラム。フェル》
焔よ目覚めよ、技の都の記憶を開け……」
ツバキ先輩が呆気に取られつつもすぐに呪文を唱えると、灯篭の火がさらに轟々と燃え上がり、足元から地面の振動が伝わってきた。何もなかったはずの、ごつごつとした絶壁に溝が刻まれ、そこから土の扉が現れる。
「おー!すごーい!こういう仕掛けだったんだね!まさにゲームだねぇ!」
「なんや、あっさりクリアしてもうたな……?俺のご褒美タイムも終わってしもうた……」
みんながぽかんとしている中、みぃが説明を加える。
「この子、鳥のためにビジョントレーニングしてたから、動いている絵柄が見えるみたい」
「プロレーサーがやるっていう、あのビジョントレーニング……?それを一般人が……?トレーニングって、えぇ……?」
あら、ツバキ先輩、意外と詳しいなぁ。
野鳥って目で追うの大変なんだよ?特にハチドリとか、小さくてすばしっこいし……。
でもビジョントレーニングを始めてからは、どんな鳥でも50メートル以内なら見つけられるようになったんだよねぇ!なんかみんな宇宙猫みたいな顔になってるけど、口開けっ放しだと喉かわいちゃわない?
「箱あるはリアルの身体能力も反映できるゲームきの。プロゲーマーとか、アスリートと同じトレーニングもするって聞くきの!ルーイちゃん、すごいきのね~!でも、これがきのこの絵だったら、きの子もできる気がするきの!」
お互いの推しに対する謎の熱量を再確認しているのを、見ていたジョンさんが苦笑しながら土の扉を押すと、両開きにゆっくりと開き、中から熱気がふわりと漏れ出してきた。
扉の上には『地下溶鉱都市《マグマの街ダンジョン》』と表示が現れて、その向こう側には、土でできた階段が地下へと続いている。底の方からは赤く揺らめく光が踊り場を照らし、まるで地の底から呼ばれているような錯覚を覚えた。みぃの方を見ると、風の導きがうっすらと繋がったようで、彼女は静かにこちらを見てコクリと頷いた。
「みんな、入る前にバフつけるよ。背中見せて」
全員が順番に背を向けると、みぃは一人ひとりの背中にポンっとスタンプを押していく。うちには背中と盾の両方にそれぞれスタンプを押すと、そこからふわりと赤い光が舞い上がった。火の紋章が背中と盾に浮かび上がり、ステータス欄に火のマークが表示される。
「私の新しいスキル【魔力転写術式】で作ったスタンプよ。これはみんなに火耐性を30分付与できるの。バフアイコンに経過時間が見えるけど、こちらでも経過はわかるから消えそうになったらまたつけるわ」
「それじゃ、私もバフをかけるわね。【祝福の鐘】、ルーイちゃんには【聖盾の祈り】」
まりんさんが両手を胸の前で組み、祈るようにスキルを唱えると、全員の頭上に鐘が鳴り響きSTR、AGI、INT、DEXの文字表示と共に矢印が上昇し、うち頭上には盾のマークが浮かびあがりVITが上昇した。
「じゃあ、行こうか」
三影さんが静かに言い、先頭に立って階段に足をかける。続いて、うち、みぃ、きの子さん、ジョンさん、ツバキ先輩、そしてまりんさんが列をなして降りていく。
階段を下りるごとに、空気はじわじわと熱を帯びていった。肌にまとわりつくような熱気が、まるで生き物のように絡みついてくる。
「なんか、熱いって感覚はあるのに、汗をかかないのが不思議だね」
うちがぽつりとつぶやくと、みぃが笑いながら答える。
「だね。リアルだったら、もう全身びっしょりだよ、きっと」
やがて階段の終わりが見えてきて、最後の一段を踏みしめると、視界が一気に開ける。
そこは、巨大な洞窟の中に広がる都市だった。土でできた建物がいくつも立ち並び、天井は高く、ところどころ、マグマが岩壁を静かに流れ落ちている。溶岩の下でうごめく赤い光が空間全体を照らし、まるで都市そのものが静かに燃えているかのようだった。
「……これが、地下溶鉱都市《マグマの街ダンジョン》」
うちが思わず呟くと、三影さんが振り返って全員に声をかける。
「ここからモンスターが出てくる。例の作戦通りでいこう」
彼は一人ひとりを見ながら、落ち着いた声で再度指示を出す。
「ギルドホームでも言ったように、地下3階まではルーイちゃんはタンク、俺とジョンは殲滅担当。
まりんは戦況を見て柔軟に動き、ツバキちゃんとみぃちゃんはバフサポート、余裕があれば殲滅にも回って。きの子はとにかく敵を倒すことに集中すること」
全員が真剣な表情でうなずく。
「では、無理せずに協力していこう」
その言葉を合図に、うちは盾を構え、赤く染まる大地へと一歩を踏み出した。
スタンプ、ブクマ、★をポチっとしていただくとルーイの目押しがさらに早くなる!
ルーイ:「ぬん!ぽちぽちぽちぽちぽちぽち!」




