45羽目:焔と封じられし果実
「そういえばさ、ジョンさんとツバキ先輩って、吟遊詩人のクエストでダンジョン見つけたんだよね?」
ふと思い出して、二人に声をかける。
「せやで!あの歌がきっかけやったんけど、ルーイちゃん、俺の美声聞いちゃう?聞いちゃう?惚れられたらどないしよぉ〜ンフフ♡」
……その自信はどこから来るのか、ちょっと気になる。
すると、ツバキ先輩が勢いよくジョンさんを押しのけて前に出てくる。
「よくぞ聞いてくれたわね!この私が先輩として、特別に見せてあげるから、目と耳をかっぽじって、よーく見て聞きなさい!ホラ、さっさとやるわよ、駄犬!」
耳はいいけど、目をかっぽじるのは、ダメだと思うんだ?結膜炎になりそう。
そして、急かされるように耳を引っ張られていたジョンさんが、ちょっと悦びの声を上げていたのは……聞かなかったことにしよう。
ツバキ先輩は全員の前に立ちふっと息を吐き、床をトンと足で叩いて、静かに舞い始める。
その動きに合わせるように、ジョンさんがアカペラで歌を口ずさむ。
──おや、旅の方々。
炎と鉄の歌を、聞いていかれますか?
遥か東、技の都あり。
そこでは炎が踊り、鉄が歌い、人と精霊が、共に創りし時代があったのです。
けれども、闇は静かに忍び寄り、その地を覆った。
精霊たちは眠りにつき、炉の灯は、封じられてしまったのです。
今、その記憶は、火山の麓に眠る。
岩肌に隠された洞。
歯車を回し、3つの舞が揃いし時、火が灯る。古の言葉を唱えれば、道は開かれましょう。
Aren vel’kha, toren flam. Felgen’na.
焔よ目覚めよ、技の都の記憶を開け。
Aren vel’kha, toren flam. Felgen’na.
焔よ目覚めよ、技の都の記憶を開け。
その先に広がるは、焔の都。
かつての栄光、今は静寂。
最奥には、炉を守り、炎を食らう獣が待ち構えている。
そこにあるのは、力か、災いか。
選ぶのは、あなた方。
焔を越え、記憶を継ぐ者よ。
どうか、忘れられし火を灯してくだされ。
──さあ、旅の者よ。
この詩が、あなたの道しるべとなりますように。
歌と舞が終わると、ジョンさんは左手を背中に添え、右手を胸元に軽く当てて礼をする。ツバキ先輩は巫女装束の袴の裾を両手でつまみ、上体をほんのわずかに前へ傾けて礼をした。
その一連の流れは、まるで舞踏会の一幕のように美しく、そしてどこか神秘的だった。ツバキ先輩は一仕事を終えたかのように、満足げにこちらへと視線を向けて口を開く。
「『焔と封じられし果実』っていう歌よ。有名な吟遊詩人の演出をサポートして、護衛するクエストで聞いたの」
ツバキ先輩が誇らしげに言うと、ジョンさんも満足げにうなずいた。その話を聞いて、うちはみぃの方を見る。
「この歌からも、うちらのクエストに繋がっている感じがするね?」
「私も思った。さっき地図も確認したけど、東の位置に点があったから、ほぼ間違えはないと思う」
3つの国が繋がっていた時代、人々のために物づくりをしていた場所だったのだろう。
「さてと、みんな準備はいいか?作戦を伝えるぞ」
三影さんが静かに声を上げる。
「各パーティーリーダーは俺とまりんだ。状況に応じて指示を出すから、その時は自分のリーダーの指示を聞くようにな。
まず、ルーイちゃんはタンクとして、敵が流れないよう足止めしてくれ。余裕があれば倒してもいいが、基本は足止め優先。
俺、ジョンはタンクが抱えた敵の殲滅。俺は状況により避けタンクに回ることもある。まりんは戦況を見て柔軟に動いてくれ。
ツバキちゃんとみぃちゃんはバフサポートがメイン。余裕があれば殲滅にも回ってくれ。きの子はとにかく敵を倒すことに集中してくれればいい。
そこまでがボス部屋までの役割だ。ボスは言った通り物理が効かなかったが、俺はギミックがあると踏んでいる。なので、俺とルーイちゃんでタンクを担う。残りのメンバーはサポートをしながら、物理が通りそうなら声を掛け合って叩こう。きの子ちゃんは攻撃に集中してくれ」
「わからないことがあれば、いつでも早めに聞いてね。焦らず、みんなで楽しみましょう」
まりんさんが優しくまとめると、みんなも楽しそうに「おー!」と拳を上げた。みんな一体どんな風に戦うんだろう?そして、ダンジョンの中にも鳥ちゃんはいるかな?
そんなことを考えていると、まりんさんが祈るように手を胸の前で組み、スキルを唱えた。
「【ワープポータル】」
その声とともに、足元に柔らかな光の輪が現れた。それは、水面に広がる波紋のように、淡く揺れる光。前に神父さんが使ったのはこのスキルだったのか。
1人、また1人と輪の中に入っていくと、光に包まれて姿が消えていく。
うちも胸の奥がワクワクと高鳴るのを感じながら、一歩を踏み出した。光の輪に足を入れた瞬間、身体が足元からふわりと浮かぶような感覚に包まれる。
軽かった身体に重力が戻ると同時に、目の前にごつごつとした岩肌が広がる。クリスタルみたいにギルドホームから目的地に、瞬時に移動できるのってすごいなぁ。
「まりんちゃん、ポータルありがとうやで!みんな、ここがダンジョンの入口やねん!」
ジョンさんがジャジャーンと両腕を広げて得意げに言う。
ダンジョンの入口と聞いて、洞窟のようなものを想像していたけれど、目の前にあるのはただの絶壁。
頭の中に大量のハテナマークを浮かべていると、ツバキ先輩がすかさず説明してくれた。
「駄犬、説明が雑。ダンジョンの入口は仕掛けで隠されてるのよ。駄犬の後ろにある灯篭でギミック解除できるわ」
「もっと罵っ……は今度でええかなァ!」
ジョンさんが何か言いかけたところで、まりんさんがにっこりと微笑んだが目が笑っておらず、きの子さんはインベントリから取り出した怪しげなキノコをちらりと見せながら、無言の圧をかけていた。
ジョンさんは慌てて己の欲望を封印し、ギミックの説明に切り替えた。
どうやら、灯篭の表の蓋を開けると、中にはレバーがあり、それを引いて絵柄を揃える必要があるらしい。
歌に出てきた「炎・鉄・精霊」の絵柄をそれぞれ揃えるたび、上部に火を灯す装置が動き始め、最後にサビの部分で聞いた呪文を唱えることで、入口が開く仕組みだという。
「なんか、スロットマシーンみたいだね?」
「この絵を揃えるのが、時間かかるのよねぇ……」
まりんさんが困ったようにため息をつく。
「まぁ、やっていくしかないやん!俺のパチスロで鍛えた目押し技術が輝く瞬間を見とけぇ!」
ジョンさんが意気込んでレバーを手前に引いて倒すと、3つの絵柄が勢いよく回転し始めた。
「ここやぁ!」
勢いよく3つのボタンをそれぞれ押すと、絵柄がピタリと止まる。
《鉄・精霊・鉄》
「よっしゃぁあああ!お仕置きしてくださぁぁい!」
……目押し技術はどこへ?
そしてジョンさんの欲望は、封じられず勢いよく溢れ出した。
スタンプ、ブクマ、★をポチっとしていただくとジョンさんの美声が聞けるかも?
ジョン:「ンフフ~聞いちゃう?俺の美声に酔いしれちゃう?欲しがりさんやなぁ~!あ、俺へのご褒美はケツバットで!」
ツバキ:「……」(スパァァン!!)
大変よろしい叩き音がギルドホームに響き渡ったとか、かんとか。




