36羽目:手を伸ばして届くなら掴みにいけ
青年は静かに、深くため息をついたけれど、すぐに肩をすくめて笑う。
「……まぁ、いいか。そういえば、自己紹介がまだだったね。俺は人間族の完全支援聖職者でシオン。ギルメンからは何でか神父って呼ばれてるけど、好きな呼び方でどうぞ」
その言葉に続いて、元気な声が響いた。
「ボクはくまくまパトロール隊の隊長くま!熊の獣人族で聖騎士の銀司くま~!」
三影さんとまりんさんの時もそうだったけど、こういう相方って、凸凹なのに不思議とぴったりはまるんだよなぁ。……それにしても、さっきの戦いを見て完全支援とは?という疑問が湧いてくるが、深く考えるのはやめておこう。
「このクマの話は、だいたい半分くらいで聞き流していいからね」
「ひどいくま!クマにはいつも優しくしてって言ってるくま~!」
「うちは人間族で剣士のルーイ!鳥のすべてを受け止めたくてタンク目指してます!銀司さんのタンク、ほんとすごかったです……!」
あのとき、盾を構えて敵の群れを一身に受け止めていた姿に思わず見惚れてしまった。その時の光景が、今も鮮明に心に残っている。
あんな風に守れるようになりたいと、心から思った。
「私はエルフで錬金術師のみぃです。あれだけの敵を全部抱え込めるタンク、動画でしか見たことなかったです」
確かに、バンビー君が教えてくれた聖人さんみたいにすごかった。
みぃが感心したように言うと、銀司さんが胸を張ってドヤ顔を決める。
「すべてを受け止める!タンクの鏡くま!ふふん!ぼくはオストリュウなら40体でも余裕くま!」
「捕食できる数?ほら、熊は危険な動物だから、あんまり調子に乗せちゃダメだよ?」
「それはリアルの熊の話くま!ぼくは、イチゴ大福とほうじ茶ラテのエクストラホイップ、チョコチップトッピング多めが大好きな、かわいい癒し系マスコットなんだくま!」
ぷんぷんと怒る銀司さんに対して、神父さんがやれやれと肩をすくめる。
そんな2人のやり取りがなんだか気心が知れた、長年の戦友のようにとても温かくて、思わず笑ってしまった。
そのとき、空から一羽の郵便ハトが舞い降りて、神父さんの肩にふわりと止まった。
「……とりあえず、今すぐ神父さんの肩と入れ替わりたいんだが?」
思わず口から欲望が漏れ出した。
羨ましい、その肩になって君に掴まれたい……。
じりじりと神父さんへにじり寄っていくが、みぃに肩を掴まれて進めない。
「え?か、肩?あ……銀、呼び出しだ」
ハトさんは、まるで仕事を早く終わらせたかったかのように、ふわりと飛び立ってしまった。あと少しで手が届きそうだったのに……ぐぬぬ。
「え~、もっとタンクのお話ししたかったのに~。残念くま……」
その言葉に背中を押されるように、思わず声が出た。
「……あのっ!」
ハトには手を伸ばせなかったけれど、このチャンスだけは逃したくなかった。
「うち、箱あるが初めてちゃんと遊ぶゲームで……色々教えてもらって、タンクになったんです。
それが今、すっごく楽しくて……だから、もっとタンクのこと聞いてみたいし、銀司さんとも、神父さんとも、もっと一緒に遊びたいです!よかったら……フレンドになってくれませんか?」
少し照れながらも、しっかりと目を見て言った。
2人は顔を見合わせて、優しく笑った。
「「もちろん」くま~!」
みぃも続けてフレンド申請を送り、2人はそれぞれに承認してくれた。
スキルを唱え神父さんが手をかざすと、足元に光の輪が現れ、その中に2人が立つと銀司さんが振り返って言った。
「PKのことは、もう心配しなくていいくま~。たぶん、もう起きないと思うくま~」
「「え……?」」
何かを知っているような口ぶりだったけど、詳しく聞く前に、光が2人を包み込んでいった。
「またね~!王都の《お茶処 りらく》によくいるから、遊びに来てくま~!」
光が消え、2人の姿も見えなくなった。
「嵐のような人達だったけど、あっちでまたすぐに会えるといいね」
「うん!タンクの事もっと教えてもらうんだ!」
言ってたお店によくいるみたいだし、そこに行けば会えるかな?
それにしても、さっきの次郎系みたいなメニューどっかで聞いた気がするんだけど、どこだったかな?んー……まぁ、いっか!
* * *
――某ギルドホームにて。
「証拠が必要だったとはいえ、ギリギリになっちゃって……あの子らに悪かったな」
俺は少し申し訳なさそうに言うと、相棒は肩をすくめて笑った。
「仕方ないくま~。間に合ったから問題ないくま!」
「……にしても、珍しいな。フレンド申請。仲間内以外で申請受けたの初めてじゃない?」
「タンクって、初心者は特になりたい人が少ないくま。だからこそ、学びたいって子は大事にしたいくま~。配信を続けているのはそういう理由もあるくま。それに……あの子、ぼくの動きを短時間で真似しようとしてて、あんな吸収力、初めて見たくま」
その言葉に、俺は少し驚いた。
どのゲームでも、俺たちは最前線を走って配信をしてきた。相棒が盾を構え、俺が回復を絶やさない。敵が倒れるまで耐え抜き、支え続ける。それが俺たちのスタイルだった。
「へぇ。銀がそこまで言うなんて。レベルの上がり方からして、ルーイちゃんの方は第三陣だろうな。2度目の矢も背後からなのに、微妙に急所をズラすように動いてたけど、まさか初心者だったなんて」
大量のモンスターを擦り付けてプレイヤーを倒す――MPK。
プレイヤーを直接狙って倒す――PK。
どちらもMMORPGではよくあることだが、今回はバグを利用した悪質な手口だった。非戦闘職や初心者を狙い撃ちにするそのやり方は、明らかに悪意に満ちている。
箱あるにだってプレイヤー同士で戦える決闘システムはある、PvPがしたいのであれば、それを利用すればいいだけだ。
この検証動画を報告・公開すれば、このPK手法もすぐ修正されるはず。あの弓師もアカウント停止は免れないだろう。
「これで、同じような被害は減るくま!だから、早く撮影に向かうくま~!」
「わかってるって……。てか、間違って配信中にくまって言うなよ?」
「わかってるくま~」
そう言いながら、相棒はくま帽子を外し、白い聖騎士の鎧から黒光りするフルメタルアーマーを身にまとった。
最後に、無機質なフルフェイスマスクをかぶる。
「オンとオフは……しっかり切り替える……派」
「おう……毎回思うけどすげぇな」
俺は苦笑しながら、黒い炎のエンブレムが描かれた司祭服に変えて、主要メンバーに連絡する。
「もっと箱あるを楽しめる人が増えるといいな」
「……うむ」
フルフェイスマスクに覆われた相棒の表情は見えない。でも、その声には、確かに優しさがにじんでいた。
スタンプ、ブクマ、★をポチっとしていただけたらくまくまパトロール隊の一員になれるかも?!
銀司:「今ならなんと、おやつとお昼寝つきくま~!」
神父:「幼稚園か……?」




