35羽目:ある日、森の中で出会ったのは
盾を前に突き出し、足を踏ん張る。真正面からその愛を受け止めるために。
「べろべろばー!【挑発】!」
《咆哮の耳飾り》が淡く光り、オストリュウの視線が一気にうちへ集中する。
その熱い視線いいよー!!さぁ、おいで!
オストリュウは全力疾走して正面から体をぶつけてきた。
「っ……重っ!止まった!けど盾から手が離せないからモフれないっ!」
衝撃で足元の土が抉れたが、どうにか踏みとどまれた。
「【ウィンドブレード】!」
みぃがスクロールを広げ、緑の光が紋章をなぞる。三日月型の風の刃が巨体の側面を切り裂き、羽毛が舞い上がる。
「来る!範囲攻撃!」
オストリュウはしっぽで地面を叩きつけると、衝撃波が広がった。
土の塊が飛び散る中、咄嗟にみぃのもとへ下がり、守護盾でダメージを軽減する。
「今の内に!【シールドチャージ】!」
しっぽの反動で動きが鈍った隙を突き、盾で突撃すると、その巨体がぐらりと揺れ、羽毛が舞い赤いポリゴンとなって崩れ落ちた。
「あぁ……鳥ちゃぁぁん……モフれなかったぁ……」
「いや、だから恐竜だって……」
ひとまず1体撃退したが、遠くの方で地響きと共にまた土煙が上がる。
またリーダーみたいな敵?そう思って盾を構え直すと、見えてきたのは……大量のオストリュウ。そしてその先頭に、プレイヤーらしき人物。
「……え、プレイヤー?あれ、消えた……?」
プレイヤーらしき人物は姿を突如消したが、オストリュウ達の勢いは止まらない。20体近くがこちらに突っ込んでくる。
「さすがにこれはヤバい……でも逃げきれない……!」
「なら、やるしかないでしょ!止めるから、みぃ、頼んだ!べろべろばー!【挑発】!」
全てのヘイトを引きつけることには成功したが、20体の突進はさすがに重い。盾越しにHPがじわじわ削られていく。
その時――
「しっぽ、また来る!」
奥の個体がしっぽを叩きつけ、土飛ばしの範囲攻撃が当たるかどうかの瞬間――別の攻撃が背後から突き刺さった。
「ぐっ……!」
「いっ……!大量の矢……?どこから?!」
背後を確認する余裕もなく、巨体達の突進が続き、再び土塊を飛ばされる。先ほどは気を取られていたが、今度はどこからか風を切る音がして、また大量の矢が降り注ぎ――HPが一気に削られ、2つのバーが黒く染まる。
え……やられ……?
みぃの姿が肩越しに赤いポリゴンとなって散っていくのが見えた。
その瞬間――
「【魂の修復】!」
「【生命の息吹】!【守護者の鎖】!君たち、もう大丈夫くま~」
2つの声が響いた。
みぃの体が白い光に包まれ、うちの体には緑の光が差し込む。そして、光の糸が3人と、スキルを唱えた人物を繋いだ。
その直後、白い鎧をまとい、体と同じくらい大きな盾を両手で構えたプレイヤーが前に飛び出す。
「かかってこいくま~!【挑発】!【シールドガード】!【シールドプレス】!」
敵の攻撃を一身に受け止めて、さらに跳ね返す。堂々と立ちはだかるその姿はまさに”壁”そのものだった。
白い鎧の隙間から覗く剛毛の腕が、盾を押し返すたびに筋肉を誇示する。突進を受け止めしっぽも受け止める。とてもかっこいい……ただ、見た目はリアルな熊さんだ。
しかも、もこもこのくま帽子をかぶっている。熊さんがくまさんの格好してる……。
「間に合ってよかった、もう大丈夫だよ。【ヒール】」
復活したが、ほぼ空だったうちのHPが回復した。
優しい声が背後から聞こえたので振り返ると、青と白の祭服をまとい、杖を片手に持った聖職者のような青年が微笑んでいた。
「1人スクロールになっちゃってごめんね、2人いっぺんに復活させるのこれしかなくて。あ、彼が繋いでくれている【守護者の鎖】は、ダメージを肩代わりしてくれるスキルだから、しばらくは安心できるよ。一旦、同盟パーティー組もうか?」
「……助かった……ありがとうございます……」
うちがそう呟くと、みぃも隣で大きく安堵の息を吐いた。
「同盟、了解しました。あと、リザと生命スクロール……本当に助かりました。あの矢、何だったんでしょう?」
「うん……後ろからだったよね」
みぃと顔を見合わせると、青年が静かに答えた。
「さっき先頭にいた人影、消えたでしょ?オストリュウをトレインしてステルス系のスキルで擦り付けたみたいだね」
「MPK狙いで……あれ、でも矢は……?」
青年は頷いた。
「この辺り、最近PKが出るって噂があってね。MPKに見せかけた擦り付けで範囲攻撃バグを利用して、背後から狙う手口らしいよ」
「うわぁ……それは性格悪いですね……」
MPK?トレイン?PK?いろんな単語が飛び交ってるけど、さっきの人影が悪いことをしてというのだけは、なんとなくわかった。
「ねぇ~!説明は後にして、倒すの手伝ってくま~!盾だけじゃ火力足りないくま~!」
「はいよ。念のため……【ヒール】フンっ」
「へぶしっ!?ヒールはありがたいけど、もっとクマには優しくするくま~!」
青年が立ち上がってスキルを唱えると杖が光に包まれ、熊さんに向かって放たれた。ただし……すごい剛速球で。
杖って、野球バットみたいに振り回すものだったっけ?でも、みぃも回復薬の瓶を投げつけるから似たようなもんか?
「【浄化の床】!【聖なる光】!」
青年が杖を横なぎに振ると、白い光が地面を這い、範囲内の敵が一斉にダメージを負った。
そして、今度は杖をテニスラケットの様に次々と振ると、先端の石から放たれた光の玉が命中し、オストリュウたちは次々に赤いポリゴンとなって崩れ落ちていった。
「うちもやる!【シールドチャージ】!」
「私も……!【ウィンドブレード】!」
ぼーっと見てる場合じゃない。まだ10体近く残ってる。この人たちだって、いつあの矢に狙われるかわからない。そして、今この瞬間に動きを見て覚えるんだ。
全員で力を合わせ、残りのオストリュウをすべて倒しきって、2度のファンファーレが響く。
《Lv26に到達しました》
《Lv27に到達しました》
「おめ~、私も34に上がったよ」
「「2人ともおめでとう」くま!」
「ありがとうございます!……そういえば、あの矢の人、2人が来てからは全然狙ってこなかったね」
「うーん……他にもやられてた人がいたけど、みんな生産職とか初心者装備の人だったみたいくま~。たぶん、そういう人だけ狙ってたんだと思うくま?」
弱い人だけ狙うって卑怯すぎるでしょ……。でも、まずは。
「助けていただいて……本当にありがとうございました」
「本当に助かりました!」
みぃに続いて2人して頭を下げて感謝する。
「くまくまパトロール隊は、いつでも君たちの味方くま!」
「げっ……その名前マジ……?」
「本気と書いてマジくま!」
すごい良い笑顔で即答する熊さん。
その横で、青年が天を仰いで、静かに深いため息をついていた。
スタンプ、ブクマ、★をポチっとしていただけたら嬉しさでルーイがきっと鳥の舞をしてくれるはず!
ルーイ:「舞はやらんがな」




