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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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35/77

33羽目:風の記憶の鱗片

体調崩してて、時間間違えましたぴえん

 「お見事ね、みぃとルーイ」


 風が吹き抜け、凛とした音が空気を震わせた。

 その音に驚いて振り向くと、机にいたヴェルさんだった。


「あれ?さっきよりもハッキリと声?聞こえるけど、何か頭の中にも響いている?」


「私達の国では言葉がなく、直接意思を伝えあっているの。先ほどの私は風の音で、声の真似をしていただけよ。今はハーブティーのおかげで直接交信がしやすくなったのね」


 ヴェルさんに言われてポットに残っているハーブティーを見てみる。


 【森の導きティー】

 カテゴリー:料理

 効果時間:30分

 味わい:フェイリーフを乾燥させて煎じた、香り高いハーブティー。飲むと心が落ち着き、自然との一体感を得られる。

 効果:『精霊の導き』が発動。瞑想・精霊交信時の成功率上昇。自然災害の前兆を夢で見ることがあるとも言われる。


 そういえば、みぃに飲ませたときも言ってたっけ?「何か飲んだらバフが付いて、ガイドラインが出てきた」って。

 このお茶を飲めば、精霊たちともっと深く繋がれるのかも。いつもの妖精さんとも、これで会話できるかな?


「じゃあ、効果があるうちに聞いておきたいの。『7つの封樹。各地に散らばる精霊王の記憶。全てを集めし時、真なる契約が果たされる』について、知っている事を教えてほしいの」


 ヴェルさんが静かに語り始めた。


「私は、7つの記憶のうちの2つ目。風の記憶。精霊王と交わした、決意の記憶を持つ者」


「2つ目?じゃ1つ目はどこに?」


「1つ目は『始源の森』光の使徒ルミエル=セラフィナ、ルーイが会ったのは、最初の記憶を持つ者。――この世界の記憶は、かつて王によって封じられた。けれど、王は信じていたの。いつか新たな世界が生まれ、記憶を継ぐ者たちが現れると。


 あなたたち新世界人(ニュービー)は、生まれ来る前に最初の記憶を託された存在。私たちはあなた達を導くために、記憶を守り続けてきたの」



 NPCたちは記憶を封印されたけど、うちらプレイヤーにだけ託された記憶って……どういう意味なんだろう?

 みぃを見ると、何かに気づいたような表情をしていた。


「あのOP(オープニング)ムービー……そういう話だったのね。てっきり、世界が戦いを終えた後の話かと思ってたけど」


「ログインして最初に見る、あの世界の説明と映像のやつ?確か、今までバラバラだった勢力が、新たな世界で秩序と調和を築くために協定を結ぶ。新世界人は自然を育て命の導きとなって……みたいな、内容だったよね?」


 NPC側から見れば、あのOPムービーは託された記憶になるのね。

 ヴェルさんが風を纏い、ふわりと机から浮き上がるとその身体が徐々に強く光り始めた。

 すると視界が揺らぎ、記憶の幻影が広がっていく――。




 青々とした草が茂る丘の頂に、王と一人の妖精が立っていた。

 風が静かに草を撫で、星空はどこまでも澄んでいる。


 『……本当に、私でよろしかったのでしょうか?』


 その問いに、王はしばし目を閉じた。

 彼の表情には、深い苦悩と決断の重みが滲んでいた。

 この世界を守るために、記憶を封じるという選択をしたこと。

 そして、未来を託したいと願った者たちを、このような形で巻き込んでしまったことを。


 やがて王は瞳を開き、ヴェルさんをまっすぐ見つめ、静かに頷いた。


『お主は風のように自由だが、誰よりも遠くを見ている。そして、その自由を手放してでも、民を守ろうとする覚悟もある。

 実際、お主がこの事にいち早く気づいたからこそ、我らは多くの命を救うことができる。だからこそ、余はお主に託したい――この記憶を』


 ヴェルさんは目を伏せ、左腕の腕章をそっと握りしめた。

 それは、王に仕える者の証。


『……私は、風でありながら、止まることを選びます。これからも王の側に立ち、記憶を守り、導く者となりましょう。たとえそれが、孤独という名の静寂であっても』


 王は微笑み、彼女の肩に手を置いた。

 その笑みには、深い感謝と、拭いきれぬ哀しみが滲んでいた。


『……すまない。こんな決断しかできない王に仕えることになって。だが……ありがとう、ヴェルディス。お主の風は、いつかこの世界を再び動かすだろう。新たな世界では――導く風となれ』


 その言葉とともに、草原の草がふわりと舞い上がり、空へと昇っていく。やがてそれは、光の粒となって静かに消えていった。


 記憶の幻影が薄れて、馴染みのある木目調の部屋に戻った。


「7つの封樹には、それぞれ精霊王の想いが宿っている。――それを集めることで、世界の記憶の扉が開かれる。

 私は導く風。あなた達を待つ次の記憶は、『知の眠る場所』にあるわ。」


 ピコン。

 システム音と共に表示が現れる。


 ――《クエスト:『七つの封樹と精霊王の記憶』が開始しました》


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