33羽目:風の記憶の鱗片
体調崩してて、時間間違えましたぴえん
「お見事ね、みぃとルーイ」
風が吹き抜け、凛とした音が空気を震わせた。
その音に驚いて振り向くと、机にいたヴェルさんだった。
「あれ?さっきよりもハッキリと声?聞こえるけど、何か頭の中にも響いている?」
「私達の国では言葉がなく、直接意思を伝えあっているの。先ほどの私は風の音で、声の真似をしていただけよ。今はハーブティーのおかげで直接交信がしやすくなったのね」
ヴェルさんに言われてポットに残っているハーブティーを見てみる。
【森の導きティー】
カテゴリー:料理
効果時間:30分
味わい:フェイリーフを乾燥させて煎じた、香り高いハーブティー。飲むと心が落ち着き、自然との一体感を得られる。
効果:『精霊の導き』が発動。瞑想・精霊交信時の成功率上昇。自然災害の前兆を夢で見ることがあるとも言われる。
そういえば、みぃに飲ませたときも言ってたっけ?「何か飲んだらバフが付いて、ガイドラインが出てきた」って。
このお茶を飲めば、精霊たちともっと深く繋がれるのかも。いつもの妖精さんとも、これで会話できるかな?
「じゃあ、効果があるうちに聞いておきたいの。『7つの封樹。各地に散らばる精霊王の記憶。全てを集めし時、真なる契約が果たされる』について、知っている事を教えてほしいの」
ヴェルさんが静かに語り始めた。
「私は、7つの記憶のうちの2つ目。風の記憶。精霊王と交わした、決意の記憶を持つ者」
「2つ目?じゃ1つ目はどこに?」
「1つ目は『始源の森』光の使徒ルミエル=セラフィナ、ルーイが会ったのは、最初の記憶を持つ者。――この世界の記憶は、かつて王によって封じられた。けれど、王は信じていたの。いつか新たな世界が生まれ、記憶を継ぐ者たちが現れると。
あなたたち新世界人は、生まれ来る前に最初の記憶を託された存在。私たちはあなた達を導くために、記憶を守り続けてきたの」
NPCたちは記憶を封印されたけど、うちらプレイヤーにだけ託された記憶って……どういう意味なんだろう?
みぃを見ると、何かに気づいたような表情をしていた。
「あのOPムービー……そういう話だったのね。てっきり、世界が戦いを終えた後の話かと思ってたけど」
「ログインして最初に見る、あの世界の説明と映像のやつ?確か、今までバラバラだった勢力が、新たな世界で秩序と調和を築くために協定を結ぶ。新世界人は自然を育て命の導きとなって……みたいな、内容だったよね?」
NPC側から見れば、あのOPムービーは託された記憶になるのね。
ヴェルさんが風を纏い、ふわりと机から浮き上がるとその身体が徐々に強く光り始めた。
すると視界が揺らぎ、記憶の幻影が広がっていく――。
青々とした草が茂る丘の頂に、王と一人の妖精が立っていた。
風が静かに草を撫で、星空はどこまでも澄んでいる。
『……本当に、私でよろしかったのでしょうか?』
その問いに、王はしばし目を閉じた。
彼の表情には、深い苦悩と決断の重みが滲んでいた。
この世界を守るために、記憶を封じるという選択をしたこと。
そして、未来を託したいと願った者たちを、このような形で巻き込んでしまったことを。
やがて王は瞳を開き、ヴェルさんをまっすぐ見つめ、静かに頷いた。
『お主は風のように自由だが、誰よりも遠くを見ている。そして、その自由を手放してでも、民を守ろうとする覚悟もある。
実際、お主がこの事にいち早く気づいたからこそ、我らは多くの命を救うことができる。だからこそ、余はお主に託したい――この記憶を』
ヴェルさんは目を伏せ、左腕の腕章をそっと握りしめた。
それは、王に仕える者の証。
『……私は、風でありながら、止まることを選びます。これからも王の側に立ち、記憶を守り、導く者となりましょう。たとえそれが、孤独という名の静寂であっても』
王は微笑み、彼女の肩に手を置いた。
その笑みには、深い感謝と、拭いきれぬ哀しみが滲んでいた。
『……すまない。こんな決断しかできない王に仕えることになって。だが……ありがとう、ヴェルディス。お主の風は、いつかこの世界を再び動かすだろう。新たな世界では――導く風となれ』
その言葉とともに、草原の草がふわりと舞い上がり、空へと昇っていく。やがてそれは、光の粒となって静かに消えていった。
記憶の幻影が薄れて、馴染みのある木目調の部屋に戻った。
「7つの封樹には、それぞれ精霊王の想いが宿っている。――それを集めることで、世界の記憶の扉が開かれる。
私は導く風。あなた達を待つ次の記憶は、『知の眠る場所』にあるわ。」
ピコン。
システム音と共に表示が現れる。
――《クエスト:『七つの封樹と精霊王の記憶』が開始しました》




