30羽目:実験って大体爆発しない?
何と2万PVに到達しました!皆様ありがとうございます!
スープを飲み終えてから、ふっと思い出したかのように、インベントリの中から例の護符を取り出す。
「そうだ、みぃ。これ、ちょっと見てくれる?何に使うのかわからなくて……」
「ん?なに?」
【守護の護符】
カテゴリー:スロットアイテム
効果:守護を操る古代の術式が刻まれた護符。自身の位置を中心に、範囲内の味方の被ダメージをわずかに軽減。
※融合することで、装備品の進化可能。
「へぇ……これが、クエストの報酬アイテムでもらったやつね。……っていうか、この術式、めっちゃはっきり見えるんだけど?」
みぃが目を細めて護符を覗き込む。どうやら術式の構造が、護符の上に立体的に浮かび上がっているらしい。
「さっきのスープのバフ効果ってやつ?」
「うん。『幻視のまなざし』で、魔法構造が視覚化されてるみたい。しかも、【魔力転写術式】が反応してる……」
本当に解析スキルって便利だなぁ。一度見たり理解したら、スキルに登録されて解析できちゃうんでしょ?
……ってことは、箱あるで鳥ちゃんも全部解析できるのでは!?
この世界にも野鳥図鑑みたいなの、図書館にあったりするのかな……?
「……この術式、魔力転写術式で融合できるかも。盾と護符、机に置いてもらっていい?」
言われるがまま、盾と護符を机の上に並べて、みぃがその前に立つ。
「あれ……防具強度と魔力が足りないって表示されてる?魔力は魔力石で補えるとして……強度は鋼鉄とか使えばいいのかな?ストックあったかな」
「あ、じゃこれ使えないかな?」
インベントリからアイテムを取り出し、盾の上に重ねて置く。
【重鋳の盾板】×1
防具クラフト素材。オークリーダーの装甲から剥がれ落ちた、重厚な金属板。盾や装甲の物理防御力を向上させることができる。
【魔力石】×1
汎用クラフト素材。魔力を帯びた結晶体で、魔法属性の付与や強化に使用される。
「スキルが光った……いけると思う。【魔力転写術式】」
みぃがスキルを唱えると、護符がふわりと浮かび上がり、盾に吸い寄せられるように張り付く。
すべてのアイテムが光に包まれ、粒子となって溶け込んでいった。
【守護盾】SS
カテゴリー:盾(融合装備)
装備Lv:なし
スキル:なし
効果:《守護の護符》を融合したことで進化した盾。
VIT+5
物理防御力15%増加。
自身の周囲3m以内の味方の被ダメージを常時5%軽減する。
「ただの木のバックラーが……!木と鉄の分厚い盾になってる!」
「なるほど、こうなるのね。……今ので試したい事が明確になったかも」
「どんなこと?」
「レンズやこの盾みたいに、能力を道具に後付けできるかどうか。今まではポーションでプレイヤーにバフを付けることしかできなかったから」
「それ、みぃが第一人者ってこと?めっちゃすごいじゃん!」
「成功したら、ね。でもまずは素材調達からかな」
みぃはすでに頭の中で実験の手順を組み立てているようだった。
「じゃあ、素材取りにいこう!助手ルーイ、準備万端です!」
* * *
というわけで、毎度おなじみの森にやってまいりました!
作業は分担制。
おじいさんは洞窟へマナスライムをしばきに。
おばあさんは川沿いで鉱石とハーブを採取しに。
核をサクッと取りに行ったら、ついでにレベルも上がってしまった。
多くて損はないだろうと、調子に乗って3倍増しでコア抜きした結果Lv23に到達!
マナスライムだけでレベルが2つも上がるとは、恐るべしスライム経済。インフレ起こしてません?とりあえずVITにポチポチ振っておいた。
洞窟を出るとすぐ傍には、澄んだ川が流れていた。
宿へ戻るついでに川沿いを歩いていると、水面に何かがどんぶらこ~どんぶらこと流れてきた。
「……実?」
両手で川から拾い上げ、《森識鑑定鏡》を装着して確認する。
【アルカナの実】
魔力を帯びた樹木に実る六角形の果実。表皮には自然に浮かび上がる魔法陣のような模様が刻まれている。熟すと果皮がやや柔らかくなり、芳醇な香りが立ちのぼる。
使い方:乾燥させて粉末にし、術式刻印の補助材に。混ぜ込むことで物質の魔力変質を促す触媒として高い効果を発揮する。
その他:食用可(要注意)。果実の中心には“アルカナ・ナッツ”と呼ばれる核があり、これ自体が高品質な魔力触媒として重宝される。
実が熟していない場合:強烈な渋みと刺激があり、摂取すると魔力中毒を引き起こす危険性がある。
実が熟している場合:フルーティーで濃厚。
※熟していない実を酒に漬け込むと美味しい、飲みすぎ注意。
桃かと思いきや、説明が梅そのものだと思っていたそのとき、どこからか小さな羽音が聞こえた。
音のする方を振り向くと、あの妖精さんが慌てた様子で飛んできた。
肩で息をしながら、実と自分を交互に指さしている。
「この実、落としちゃったの?」
実を差し出すと、妖精さんはほっとしたように胸を撫でおろした。
「下流へ流される前に拾えてよかった。そうだ、フェイリーフがまた欲しいんだけど分けてもらえたりするかな?あの本のレシピ、作ってみたらすごく美味しかったんだ!また良いレシピ本あったら読ませてね!」
すると妖精さんはぱぁっと顔を輝かせ――いや、もともと光ってるけど、そんなふうに見えた――うんうん、と嬉しそうにうなずいた。
空中で指をくるくると回し、ポンッと一冊の本を取り出すと「ここで読んで待っててね」と言わんばかりのジェスチャーで本を押し付けられ座らされた。一緒に行くよ?と聞いたが待てとの事だったので、お言葉に甘えて、借りた本のページをめくる。
『魔法のスパイスと恋のレシピ帳~妖精キッチン、今日も開店中!~』
ふむふむ……ジャム、スコーン……。
* * *
戻ってきた妖精さんはフェイリーフだけでなく、数々のハーブとアルカナの実以外の果物まで持たせてくれた。田舎のお母さんみたいだなぁ。
待ち合わせ場所の宿に戻って2人で持ち帰った実験素材を、部屋のテーブルいっぱいに並べていく。
「さて、ここからは完全に実験モード。ちょっと時間かかるよ」
みぃが腕まくりをしながら、素材の山を見つめる。
その目はすでに研究者の顔になっていた。
「じゃあ、その間にお菓子でも焼いてようかな。森でいいもの貰ったんだ!休憩の時に食べよう?……そういえば、実験っていうと爆発ハプニングとかのイメージあるけど、宿の中で大丈夫?」
「大丈夫。宿屋やギルドの建物には破壊防止フィールドが張られてるから、爆弾使っても傷ひとつつかないよ」
過去に爆弾を使った人がいたのかな?でも、住宅保険いらずの素晴らしいシステムだね。
みぃが素材をひとつずつ手に取り、順番に術式を刻んでいく。
石、宝石、鉄――どれが一番安定するか、試行錯誤の連続だ。
さて、うちもやっていきますかね!
宿に頼んでお菓子用のグルテミル粉(小麦粉)、ケルノミルクとケルノバターを少量買い取ったので、まずはジャムをコトコト煮込みましょう~!
アルカナの果実を刻み、砂糖をまぶして鍋で煮る。
とろみがついたところで、保存のために酸味のあるシトリオスジュースを絞り入れ、粗熱を取って完成っと。
お次はスコーン。
ボウルに粉と砂糖、塩を少々。冷えたバターを加え、指先でそぼろ状にしたら、ミルクを加えてひとまとめにし、生地をのばして包丁で三角に切る。
180℃の魔導炉でチーンしたらジャムを添えて完璧!
チーンって音と同時に背後でボフッて音がしたけど、お茶休憩にはまだ早いし、もう少し後にしようかな。
時間もあるしアルカナの核はナッツを取り出してローストしてみようか。
しかし、包丁の背で叩いてもびくともしないので、床にナッツを置き、盾を装備する。
「【シールドチャージ】!フンッッ!」
パキンという音とともに、核が砕けるとまばゆい光があふれ出し、空気が震えた。




