25羽目:基本ができれば応用できる
3つの淡い光が洞窟内を照らす中、枝分かれした通路をしばらく進んでいくと、やがてくぼみのような広間にたどり着いた。
マルクスさんが部屋の中央にランタンをそっと置くと、青白い光が岩肌をやわらかく照らし出す。自分たちも少し距離を取って、それぞれの足元にランタンを置いた。
このあたりにはエーテルモスが群生しているらしく、壁一面に水滴をまとった苔が広がっていた。
さっそく《森識鑑定鏡》を装着して覗いてみたけれど……何も映らない。
あ、そういえば。
このスコープは森の精霊がいないと何も見えないって、最初に言ってたっけ。洞窟内は森の精霊さんの管轄外なのね。
「《森識鑑定鏡》なしで、普通の苔とエーテルモスを、どうやって見分けるの?」
「エーテルモスは魔力に反応するのでぇ、非攻撃系のスキルを使うのがオススメですよぉ。攻撃系だと、苔が壊れちゃいますからねぇ」
なるほど、SPを消費すればいいのね。
とりあえず【挑発】を使ってみると、壁の苔の一部がぽわっと淡く光り始めた。その光る部分をそっと採取してみる。
苔に向かって、あっかんべーをしている絵面はどうかと思ったけど、仕方がないのである、これしか非攻撃系のスキルないんだもん。
【エーテルモス】×1
錬金術クラフト素材。魔力を帯びると淡く光る性質を持つ苔。錬金術式に使用される。
それを見ていたみぃは笑いをこらえながら、【ポーション調合】のスキルを使って、エーテルモスを採取しながら調合を始めていた。
おい、笑うなら盛大に笑い飛ばしてくれよ!
ポーション調合中は動けないみたいで、採取に少し時間がかかっているみたいだ。
作成の邪魔にならないよう、少し場所を移動しようとランタンを壁沿いまで動かした時、壁の苔が一瞬だけほんのりと光った。
……あれ?もしかして、魔力が通っているものが近くにあれば、それだけで反応するの?
試しにランタンを壁に近づけてみると、苔が弱々しくも確かに光り出した。どうやら、魔力石の魔力でも反応するらしい。スキルほど強くはないけど、十分見分けはつく。
「マルクスさん!みぃ!魔力石を近づけるだけでも苔が光るよ!ほら!」
「本当だ、これならスキルなしでもよく見れば採取できるね」
「……えぇ!まさかこんな発見方法があったなんてぇ……驚きましたぁ」
こうして、2人は魔力石ランタンの力を頼りに、洞窟の壁を照らしながらエーテルモスを効率よく採取していった。
「よし……。残るはマナスライムだね!」
「マナスライムがぁ、よく集まるくぼみがあるのでぇ、そこに移動しましょぉ。これが一番大変なんですけどねぇ……」
先ほどとは逆方向の通路を進んでいくと、やがてT字路のように左右に分かれた空間に出た。
「ここがぁ、マナスライムたちの住処になっている場所ですぅ」
マルクスさんの話によると、マナスライムはマナリーフを摂取して進化した個体らしい。
左側の部屋をそっと覗いてみると、そこには見慣れたスライムたちの姿があった。けれど、よく見ると色が違う。
一般的なブルースライムのような見た目ではなく、しゃぼん玉のように透き通った体に、淡い青緑の光がゆらめいている。
まるで魔力そのものが形を成したような、不思議な存在感を放っていた。
「……あれが、マナスライム?」
「はいぃ、あの色と光が特徴ですぅ。見た目は綺麗ですけどぉ、油断すると体力を吸われちゃいますからねぇ、気をつけてくださいねぇ」
「スライムって、みんな同じ戦い方でいいのかな?」
「基本は同じですぅ。核を破壊しない限り倒せませんからぁ。ただし、今回はその核が目的なのでぇ……」
マルクスさんは少しげんなりした表情になり続ける。
「質のいい核を取るには、1匹ずつ隣の部屋に誘導してぇ、氷属性のスクロールで凍らせますぅ。その間、体だけを削って核を取り出すんですぅ。でも、氷が解ける前に作業を終えないといけないのでぇ……これがなかなか大変なんですよねぇ……」
なるほど、ただ倒すだけじゃなくて、壊さずに取り出すというのが今回の難しさらしい。へぇ?じゃいつも通りでいいね?
「よーし、ここはうちの十八番だね! 一斉に来られると厄介だから、ちょっと離れたところから【挑発】で1匹ずつ引っ張り出すよ。ちょっと試してくるねー!」
「よろー、回復薬系は任せといて」
「……へ?」
この辺りならいけるかな?あの子なら離れているしちょうどいいな。よーし、一丁抜きますかー!
「べろべろばー!鬼さんこっちよぉ~【挑発】!」
マナスライムの名前の横に赤い角牛マークが表示されたのを確認して、つかず離れずの距離を保ちながら隣の部屋へと誘導する。
構えた盾で体当たりを受け止め、跳ね返す。うん、やっぱりコアはそこに移動するんだね。
右手をマナスライムの体に突っ込むと、ピリピリとした感触のあと、手のひらが何かに吸い寄せられるような感覚が走る。
そのままコアを掴んで引き抜くと、マナスライムは体を維持できず、赤いポリゴンのような飛沫となって霧散した。
「やっぱ同じだった!これなら余裕!」
「おーさすが、元祖コア抜きの名は伊達じゃないね。すぐ抜いたから、HPそこまで吸われてなかったよ」
みぃがパーティー欄でゲージを見ていてくれたおかげで、状況もバッチリ把握できた。
……そしてマルクスさんはというと、口をぽかんと開けたまま、まるで顎が外れそうな勢いで固まっていた。
うん、まあ、初見だとそうなるよね。




