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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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15/77

14羽目:脊椎抜きは素早く丁寧に

 他の人の訓練が終わり、ついに自分の番が回ってきた。名前を呼ばれ、前へと進み出る。

 すると視界の隅にシステムメッセージが浮かび上がった。



 《スキル【挑発】獲得》


 【挑発】アクティブ

 獲得条件:指定講習の修了

 効果:使用時、指定範囲内の敵に対して挑発を行い、一定時間ヘイトを自身へ集中させる。効果時間中、対象の敵は他プレイヤーへの敵対行動が減少する。



 よし、やるぞ!


「べろべろばー!【挑発】!」


 自分なりに勢いよく煽りながらスキルを発動すると、スライムが赤い角牛マークを表示し、一直線に突進してくる。腰を落として構え、衝撃を受け止める瞬間に盾を少し後ろへ引き、勢いを吸収するように受け止める。そして、前へ押し出し、距離を確保した。

 すると、先ほどまで必死に追ってきたスライムが、嘘のように大人しくなり、草むらをぽよんぽよんと跳ね回り始めた。

 他の人の時も、チラッと見えてはいたので、もしかして……と思ったけど、近くで見られたからアレが確信に変わった。



 訓練は全員無事に終わったが、気になっていたアレを後で聞いてみよう。確証はないけれど、試してみる価値はあるかもしれない。


「さぁ、これで講習終了だ。みんなよく頑張った。騎士団訓練場では、いつでも訓練できるから積極的に活用するといい。では、解散!」


 ガルさんの号令とともに、ぞろぞろと皆が帰っていく。そんな中、みぃにサッと終了したよとメッセージを送り、ガルさんへ質問を投げかける。


「ガルさん、スライムについて質問があります!さっき、魔法でコアを破壊する必要があるって話してたよね?正面から行くとコアを安全な位置に移動させてしまうって。

 講習していて、スライムは自分の目から遠い位置が、安全だと思ってコアを移動させているのかなって。ほぼ一定で下後方に移動していたから、そこを狙えば物理でもコアを破壊できるかも?」


 ガルさんは少し驚いた様子で腕を組み、考え込む。


「コアがどの位置に動くかは、気にしたことがなかったな……物理攻撃の弓で、稀に倒されることもあると資料を読んだことがあったが。属性矢によるコアへの付属ダメージのものかとばかり……矢がたまたまコアに当たって、という可能性もあるな。なるほど、そういう発想はなかった」


「試してみてもいいですか?」


「面白い着眼点だ。オレも気になる、アシストしよう」


 ガルさんの許可が下りた!みぃも到着したようで、裏庭に出てきたが、何かを察したようで、少し距離をとって静かに見守っているようだった。

 インベントリに短剣をしまい、盾だけを握りしめると、ガルさんが不思議そうに首を傾げていた。うちは盾を構えてスキルを発動する。


「やーい!べろべろばー!【挑発】!」


 煽りながらスキルを発動する。

まあ、煽らなくてもいいんだろうけど、みんなやってたからつい癖になってしまった。赤い角牛マークが表示され、スライムが一直線に向かってくる。当たる寸前に盾をやや後ろへ引き、衝撃を吸収しながら斜め上へ弾き飛ばす――今だ!

 スライムの真下に素早く右手を突っ込むと、液体とは違う固まりのような感触が手に伝わった。そして、そのままコアを一気に引き抜く!

 コアを失ったスライムは体を維持できず、水しぶきのように赤いポリゴンとなって散っていった。


 脊椎抜きならぬ、コア抜き、成功。


 ゆっくりと振り返ると、ガルさん、みぃ、バンビーくんの3人が、口をぽかんと開けたまま固まっていた。

 いやー、まさか本当にできるとは思っていなかったな?

 それに、スライムの中って水風船みたいにひんやりしていて、なかなか気持ちよかった。

 我に返った、ガルさんが焦ったように駆け寄ってきた。



「お、おい!手は大丈夫か?!スライムは、取り込んだ物を溶かす性質があるんだぞ?!」


 ええ?慌ててステータスを確認するが、HPには変化なし。しかし、手袋の耐久値を見てみると98/100になっていた。


「確かに耐久は減っているけど、HPは変わってないから大丈夫だね。素早く抜けば問題ないかと!あ、でもうち【集中回復】持ってるからきっと素手でもいけます!」


 ガルさんは頭を抱えながら天を仰ぎ、みぃは眉間に手を当てて溜息をつく。

 バンビーくんは……未だに口を開けたまま、動けずにいる。


「いや、そういうことじゃないんだが……えぇ?」


「ガルさん、今度は素手でやってみてもいいですか?」


「【集中回復】を持っていても、痛いものは痛いと思うのだが……まぁ、君は止めてもやりそうだし、やってみるといい……」


 ガルさんはすでに諦めモード。だって、耐久値が減っていけば装備は壊れてしまう。ならば、自然回復できる素手のほうが合理的じゃない?

 インベントリに手袋をしまい、さきほどと同じようにあっかんべーをしながら【挑発】スキルを発動する。今度は直接右手を突っ込む。

 ひんやりとした冷たい感覚――その直後、まるでドライアイスに触れたかのような、ヒリヒリとした火傷のような刺激が走るが、そのまま勢いよくコアを掴み、一気に引き抜く!


 コア抜き、2回目成功!

 手を入れた瞬間にHPを確認していたが、5ずつ減少していたので、継続的にダメージが発生していたらしい。


「うそだろ……マジでやりやがった……手、大丈夫なのか?」


「見ての通り問題なし!もうHPも回復してるし!」


 目の前に手を掲げ、グーパーして見せる。


「しかし、まさか本当にこんな方法が成功するとは……オレも試してみよう……」


 そう言うと、ガルさんも【挑発】スキルを発動し、同じように下から右手をスライムの体内に突っ込み、コアを引き抜く。そして、スライムはポリゴンのように散って消えていった。


「ぼ、ぼくもやってみたいです!」


 お、バンビーくんもやる気だ!

 緊張しつつも挑戦し、見事成功。……まあ、2人ともちゃんと手袋をつけていたけどね。


「こ、これはすごい発見かもしれないぞ……!ルーイ、この方法をモンスター研究所に報告してもいいか?もちろん、君が嫌でなければだが」


 突然の大事になりすぎて、どうしたらいいのか分からず、ついみぃに目で助けを求める。


「はぁ……やらかすわねぇ……。でも、とりあえず同意してもいいんじゃないかしら?この発見で戦い方に幅が出るのは確実だし、もし名前が広まるのが嫌なら、設定で変更できるわよ?今ここにいる人たち以外には知らせずに済むし」


「じゃあ、設定はあとで変えるとして、報告はOKです!あと、バンビーくん。うちの名前は内緒にしてくれると嬉しいな」


「も、もちろん!掲示板や聖人様の動画で、新発見が話題になると荒れることもありますし、せっかくできた友達が大変な思いをするのは嫌です……発表された後も本人の名前は黙っておくつもりです」


 こうして、新たな戦術が発見されたことにより、モンスター研究所が混乱に陥った事を今は誰も知る由がなかった。

 ひょんな発想が意外な結果を生み出すこともあるんだなぁ、そんなことを実感しつつ、剣士講習は幕を閉じた。

ガルさん:「(痛くないのか・・・?)」


指をスライムに突っ込むガルさん。


ガルさん:「イッタァ?!!」

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