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●第一話 洗濯板を作ろう!

 石けんは村人達に大好評だった。

 特に女性陣には激震を与えたようで、みんな汚れが落ちると知ると、目の色を変えて「もっとちょうだい!」と壺を持参でやってきた。

 よろこんでもらえるとやっぱりうれしいので、追加でさらに石けんを作ってタダで配った。大盤振る舞いだ。


 しかし、ここは古き良きスローライフの農村である。(仕事はハードだが)

 何かをあげれば、何かが返ってくる――それが当たり前の習慣であり、お裾分けの社会だからな。

 村人達からは、お礼にと野菜や木の実や薬草、それにハチミツをもらってしまった。


「そして今日は、村のキレイキレイ大作戦、第二弾! ドン! 洗濯板を作るぞぉおおおお!」


 俺は空に向かって高らかに宣言する。

 なぜなら俺の着ている服がくすんでいて、ちょっと臭い。チーズはついてないのにチーズの匂いがする。

 これでは石けんで体をきれいにしたとしても不充分だよね。

 まぁ、石けんができたから、それを使って洗濯するだけでも違うと思うけど。


 ただ、この村では全自動洗濯機などという便利なものはない。

 川で服を水に浸けて、灰を付けてゴシゴシと手で洗うだけである。

 でも今日からはそんな原始的な生活とはハイ、おさらば! 人は文明の利器によって優雅な生活を送れるのだッ!


 スババババッと神速でいつもの脱穀のお仕事を終わらせてから、俺はさっそく、木こりのヨーサックさんの家に行く。

 行きがけに父さんが「早く終わったなら他にも仕事があるぞ」と言っていたが

 「父さん、ノルマが早く終わったなら、社員にはボーナスを与えるべきです。でないと手を抜いて怠けた方が得をして、誰も真面目に働かなくなります(キリッ」

 と反論して「ふむ、それもそうだな」とご納得していただいた。


 木こりの朝は早いからな。森にもう出かけているかと心配したが、今日のヨーサックさんは切り株の上で薪を切っていた。運が良い。


「こんにちは、ヨーサックさん!」


「おお、ジークんところのボウズか。何か入り用かね」


「ええ、洗濯に使えるような、水に強い板ってないですかね?」


「洗濯? ほんなら、板よりも棒がええだべ。バシバシたたきゃあ、キレイになるべ」


「いやいや、板が欲しいんです! これくらいの」


 俺は手振りで使いやすいサイズ、五十センチくらいの長方形を伝える。


「ほーか。んだば、そこにオーキーファーの板があるだよ。家の壁さしよか思うて作っただけんども、長さがそろわんけぇ、余りは好きにしてよか」


 ちょっと訛が強すぎてヨーサックさんが何を言ってるか聞き取れない部分もあったが、良い感じのサイズの板を五枚もらった。ちょっと赤みがかった色の板だ。


 これをマイナイフ(父さんが刃物を持たせてくれないので、探して拾った黒曜石を割って研磨し、ナイフ代わりにしている)で横溝を何列も彫っていく。いくら【怪力】の持ち主とはいえ、硬い木を精密に削っていくのは大変なのだが――


「ククク、俺には『スキル』があるからなぁー! 経験値1200倍で生ける伝説、人間国宝の木工職人もあっという間に――あれ? おや? くそっ。痛っ!」

 

 ささくれだった木が手に刺さってしまった。板が硬いせいか、すべって思ったように削れない。

 仕方ないので近くに生えているヨモギの葉っぱをニギニギして潰し、傷口に止血として塗っておく。

 薬師のおババ様に教わった民間療法だ。本当はきちんとした傷薬の軟膏が欲しいところだが、この村でそのような薬は行商がやってこないとお目にかかれないし、あったとしても高価すぎて買えない。


 敗血症も怖いから、早めに消毒液――蒸留酒で高純度アルコールを造らないとなぁ。


 幸い、今までスキル【無病息災】のおかげで病気になったことはないが……寒ければくしゃみが出るし、神様も「まず普通の病気にはかからん」という言い方だった。つまり普通じゃない病気はかかるかもしれないってことだ。油断はできない。

 まぁ、今は洗濯板だ。清潔にすることが大切だからな。


 地道にちょっとずつ、ガリガリ削っていくことにする。今日中に作らないといけない――なんてタイムリミットもないのだ。

 のんびりコツコツ。

 ガリガリ。ガリガリ。

 ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ。 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリ……イラッ――「おりゃ!」カスッ――ザク!


「痛った! くそっ! こんな硬くて滑るモノ、石で削れるかっての!」


 俺は気づいた。まともな道具をそろえることが、もう勝負なのだと。

 人間国宝だって、石ころで木を削ってる人なんて、まずいないだろう。


「そんなわけで……ヨーサックさん、ノミを貸していただけませんか?」


 木こりのヨーサックは木材の加工も手がけている様子なので、道具も持っているはずだ。


「ううん、悪いけんども、大事な商売道具は子供には貸せないだよ。遊びなら、ほれ、メンコで遊ぶだ」


 丸く切り抜いた薄い板をもらってしまった。

 これはこれでオルガ達と白熱した戦いができる遊びなのだが……


「ヨーサックさん、遊びじゃないんです。この場で使って、なくしたりもしませんから、どうか使わせてください」


 俺は真剣な目で頼む。ちょっと上目遣いに、目を潤ませ、断られたらエーンエーン泣いちゃうかもね!

 という顔で。


「はぁ……それならええけど、手を切ったりしないよう注意するだよ。心配だべや」


「はい、しっかり注意してやりますから、大丈夫です」


 鉄のノミで手を刺したらシャレにならないので、そこは真剣に本気を出す。

 そう、【集中力】の上位スキル【無我の境地】を持っている俺だ。

 初見のゲームでノーミスクリアは難しいにしても、これならできそうな気がする。

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