●第六話 ドワーフの鍛冶職人
キン、キン、カン、カン、と金属音が響く工房。
そこはすべて石造りの建物で、ドアは開けっぱなしになっていた。
「こんにちは~お邪魔します」
中に入ってみると、頭に布を巻き、上半身裸の汗だくになった数人の男が、大きな金槌を振り下ろして作業していた。
奥には燃えさかる炉があり、離れていても暑い。
「すみませーん」
声をかけるが、反応が無い。
「すまん! ちょっといいか!」
父さんが大声で言うと、ようやく職人達がこちらに気づき、手を休めた。
「何か用かい」
「作ってもらいたい物があるんです」
「注文か。何が欲しい?」
「鉄クシ――銅でいいですが、大きいこれくらいのクシが欲しいんです」
「おい、ボウズ、そんなものを作ったってお前さんのきれいな髪は梳けやしねえぞ」
職人の中の一人、小柄で太った男が肩をすくめて言う。他の職人は大柄だが、この人だけは背丈はほとんど俺と変わらない。
ヒゲを生やし、筋骨たくましい体つきだが――
「あっ、ドワーフ!」
「それがどうした」
「ああいえ、すみません。ドワーフを見たのは初めてだったので」
「まぁ、この国にいるドワーフは少ないからな。だが、腕は確かだぞ。ヒト族になんぞに負けはせん」
頑固そうなドワーフが胸を張って言う。
「ええ、そうでしょうとも。それで、髪を梳くわけじゃなくて、麦の穂の脱穀を簡単にしようと思いまして」
「なに? そんな叩く物を銅にしたって、楽にはならんだろう」
「いえ、叩かないんですよ。こうやって髪みたいにすくんです」
俺は麦穂を持つ動作でやり方を示す。
「ムッ! そうかッ! クシに穂を噛ませて引っ張るだけか!」
「そうそう」
「ほう」「なるほどな……」
職人達や父さんもそれは気づかなかったという様子でうなずく。いけそうだ。
「作ってもらえますかね」
「面白え。やってやろうじゃないか」
「やった!」
「待ってくだせえ、親方。そいつは新しい道具になるんじゃねえですか?」
「そうですよ、親方。新しいのは領主様の許可がいるんじゃ……?」
若い職人二人が止めたが、うーん、いちいち領主の許可がいるとか、面倒だな……。
「構やしねえよ。武器じゃねえんだ。農具、その辺のクワと変わりゃしねえよ」
「いや、クワとは違うと思うんで」「なぁ?」
くわっと目を開いて、クワです! と言いたいが、千歯扱きってクワよりも大きいし、あのでっかいフォークみたいな鋤とも違うしなぁ。勝手にこちらで判断して、領主を怒らせると面倒なことになるだろう。
「許可がいるなら、ちゃんと取った方がいい」
父さんも言うし、仕方ないな。
「じゃ、父さん、領主に許可をもらいに行きましょう」
「シン、お前が頼みに行くのか?」
「職人さんが頼んでくれるならそれでもいいけど……」
ちらりとそこにいる職人三人を見たが、三人とも面倒だと言わんばかりに渋い顔をしてきた。
「やっぱり忙しそうですし、僕が行きます」
「おう、頼んだぞ、ボウズ。許可が下りたら、そうだな、銀貨五枚で売ってやる」
「どうも」
父さんも領主の居場所は知らないというので、街の人に領主の住所を聞いて、そちらに向かう。
貴族だとお城があるかな、と思ったが、大きな二階建ての館で、ほとんど木造だった。ブランデン男爵はそれほどお金持ちというわけでもなさそうだ。街の塀はかなり立派だったんだけど。
「シン、ここは私が話をする。お前はあまり前に出ず、子供らしくしていなさい」
羊の頭をデザインしたドアノックを前にして、父さんが振り向いて言う。
「わかったよ、父さん」
領主が相手だからな。礼儀も気をつけたほうがいい。
「あ、あの、私、ここで待っていようかと」
「大丈夫だ、ルル。子供相手にそれほどうるさく言う貴族はいないぞ。ここは田舎だしな」
「はぁ」
ルルはおびえた様子で気が進まないようだった。でも、ここに一人で待たせるのも心配だからな。
ドアをノックし、領主のメイドに招き入れられた俺と父さんはルルも連れて応接室へ向かった。
「シン、ルル、こっちだぞ」
「ああ、はい」「あっ、はい」
廊下の途中には美しい女性の肖像画や立派な鎧が飾られていたりと、やはり貴族の家の内装は全然違っていた。
だが、今は許可をもらうのが先だからな。俺は見とれているルルの手を引き、父さんを追いかける。
「では、少々お待ちを」
メイドがそう言って先に応接室に入る。
「失礼いたします。旦那様、農民の家族が旦那様に会いたいと申しておりまして」
「なに? 農民が私に会いたいだと?」
「はい、そのように申しておりますので、連れて参りました」
「追い返せ! どうせ金を貸してくれとか、年貢を下げてくれとか、ろくでもない頼みだろうよ」
野太く荒々しい声だが、ここは理由を説明しないと本当に門前払いさせられそうだ。
「お待ちを! そのような理由で参ったのではありません。決して領主様の損にはならぬお話です。いえ、それどころか得になるかと」
「シン!」
父さんが怒ってしまったが、だって許可がもらえないと、またあのプチプチプチプチと面倒くさい作業を父さんや母さん達が続ける羽目になる。俺はスキルがあるからいいけども。




