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●第三話 男爵領ブランデンの街

 中央正面に見えている街の門では兵士達が検問を行っており、街に入ろうとする行商達で行列ができていた。

 兵士に何か手渡したり木札を受け取っているのでここでは関銭を徴収されるようだ。

 周りの壁には指名手配の男の似顔絵も貼ってあり、ならず者が入らないよう警戒しているのだろう。


 ただ……それなりに特徴を捉えた似顔絵も何枚かあったが、そのほとんどが子供の落書きのような感じで、あまり役には立ちそうにない。

 中でも『カンダータ』という名の盗賊の絵は酷い。生死を問わずで金貨百枚もの賞金がかけられているのだが、いやいや、そんなあごひげが尖ってる人なんていないでしょ。漫画じゃないんだからさ。

 これは治安を向上させるために、写真機でも作りたいな。でも、材料はなんだっけ? 銀板と何かだったような気がするけど……。


「よし、次! 名前は? どこから来た?」


「私の名はジーク。ホイット村から来た」


 父さんが兵士の問いに答える。


「ああ、隣村か。いいだろう。農民は大銅貨一枚だ」


「だが、今日は私の息子がたくさん荷を持ってきているが……」


「んん? いいからさっさと払え。負けてやらんぞ」


「いや、そうではなく……」


 うちの父さんは真面目だよなぁ。


「父さん、農民は大銅貨一枚って言われてるんだから、兵士さんを困らせちゃダメでしょ。ちなみに子供料金はありますか?」


「子供料金? 子供はタダでいいぞ」


「やった!」


「じゃ、道具屋に行くぞ」


「父さん、そのあとで市場も見てみたいんだけど、いい?」


「ううむ、ま、少しだけならな」


 よし。


 門を通ると、ようやく中世ヨーロッパらしき街並みになった。

 藁葺きの屋根ではなく、きちんとした石壁や漆喰を木柱や板と組み合わせて造られた家々。

 村の平屋とは違い、どれも二階建てや三階建となっており、ひとつひとつが大きい。屋根は急勾配で、このとんがり具合には何というか……懐かしい感じだ。心地良い趣がある。


 それはなぜなのか――と俺は考えてみた。

 黒い焼き瓦のサイズがキッチリそろえられているから?

 純白で美しい漆喰の壁が、黒い木の柱と対照的できれいなコントラストを作っているから?

 いや、違う。


 ここは街の建物全体に統一感があり、看板などの余計なものがなく、色も形もすべて一つの様式で作られているからだろう。街並みそのものがひとつの芸術品キャンバスなのだ。


 ただ、ガラス窓はないし、地面も舗装されていない。ガラスっていつ頃の発明だったかな。ギヤマンとか江戸切子とか言うのがあるんだから、江戸時代にはもう西洋では作られていたと思うけど。ステンドグラスは……うーん、わからん。世界史も日本史も苦手だったんだよなぁ。大学の入試は公民の政治経済しか勉強してなかったし、試験科目の少ない私立だったしなぁ。


「わぁ! きれいな服の色。みんなおしゃれだね……」


 街の人々を見て、ルルが感動したように言う。

 女性だけでなく、男性もおしゃれだった。青や赤や茶色などの染め物の服を着こなしていて、帽子には羽根飾りを付けていたりもする。白一色の地味な服は俺達だけだ。

 ま、向こうは全然こちらを気にした様子はないし、今は気にしなくていいだろう。ルルが気に入ったなら、服の一着でも買ってやってもいいけど。


 例の物を売れば、それくらいの余裕はできるはずだ。


 他にも去年の秋に、オークが鉄の武装をたくさん落としていったおかげで、村は大金を手に入れている。

 鉄の鎧一式(上半身だけのハーフアーマー)で金貨10枚から、名工の手によって銘が入る上物だと安くとも金貨16枚はするそうで、日本円に換算して一千万円以上という、二つもあれば家が建ちそうな、超高額商品だった! 

 鉄自体があまりこの国では産出せず、加工も大変だとかで、剣よりは部品も多いから職人の手間もそれだけかかるのだろう。


 ただ、普通の魔物があんなピカピカの新品の武装をしていることは滅多にないそうで、それを父さんやおババ様は不思議がっていた。


「ルル、こっちだ」


「あ、はい」


 俺とルルははぐれないよう、ついていく。

 袋の意匠デザインを施した看板の店があり、そこに父さんが入っていく。


「おお」「わぁ」


 初めて道具屋に入った俺とルルは目を輝かせた。

 そこには村では見たことが無いような様々な道具がたくさん並んでおり、眺めるだけでも楽しい。


 色や模様がつけられた陶器の壺や皿、釘や金槌などの大工道具、真鍮のひしゃくや銅鍋、陶器の茶碗、ニスの塗られた高級な木皿やスプーン、マントや鋲で補強されたブーツ、おしゃれな羽根つき帽子、釣り針と糸まである。

 さすがに糸は透明なナイロンではなく、縒った亜麻糸だったが。


 俺は注意深く品物を探したが、磁石やコンパスといった物はなかった。

 まだこの世界は大航海時代には突入していないのだろう。

 父さんにも話を聞いているが、帆船は見たことがあるが、新大陸と呼ばれるような所は聞いたことがないそうだ。


「いらっしゃい。何をお探しで?」


 やや神経質そうな道具屋の主人がうさんくさそうな顔で俺達に聞く。


「これを売りたいのだ」


 父さんが背負い袋を降ろして中身を取り出す。例のフィギュア――バインッバインッの豊穣神の木彫りだ。

 それを見た途端に、道具屋の目つきが変わった。


「ほう、これは見事な……。いったい、どこでこんな品を?」


「息子が彫ったんだ」


「そんなバカな。盗品なら買えないぞ」


「本当ですよ。そう言われると思って――このノミを借りてもいいですか?」


「ダメだ、ノミが欲しいならちゃんと買ってもらおう。銀貨三枚だがね」


「じゃ、これでいいですか?」


 子供が払えるはずもないと高をくくっていたようで、一瞬、驚いた道具屋は、銀貨を受け取って重さを手で確かめてからうなずいた。


「いいだろう。それで? ここで一から彫って見せてくれるのかい?」


「さすがにそこまでの速さはないです。ただ、ここの顔をよく見ていて下さいよ?」


「ふむ?」


「ふーっ」


 息を吐いての集中。細かい作業にはこれが欠かせない。

 コンマ数ミリの精度で、俺は木彫りの像の目を彫り入れた。

 さきほどまでタダの精巧な像だったものに、生き生きとした表情が宿る。瞳のハイライトは大事だよ!


 画竜点睛ってヤツだ。


「どうです?」

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