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●第二話 『聖なる布』と『美しさ』

「聖なる布だって? ハハ、騙そうったってそうはいかないぜ? おいらは商売の神様は信じてるが、神殿や教会に喜捨したことなんて一度だってないからな!」


 リックが自慢げに笑い飛ばす。

 ま、そういう信心のゆる~い人のほうが、商売するのに都合が良い。

 ガチ勢だと色々と面倒くさそうだもの。

 この世界ではよく神様に祈ったりするが、実際に神様が人前に姿を見せることはほとんどないという。

 たまに姿を見せるってのが驚きだけどな。


「まあまあ、リックさん、一枚サンプルを差し上げますから騙されたと思って使ってみてください。この布はこうして食べ物にかぶせてラップすることで、空気を通さず、腐敗と乾燥を防ぎます。完璧とはいきませんが、三日保つ食べ物なら六日は行けると思います。鮮度を保てるのでおいしいですよ?」


「なら、試してみるか。もらっておこう」


 この布には『ロウっぽいもの』を染みこませて固めている。

 オルガが「もっとハチミツを食いたい!」と言ってバリバリと蜂の巣を食い始めたので、さすがに生は腹を壊すんじゃないかと俺が心配し、煮詰めてみたのだが、おいしくないエキスだった。


 ま、結果としては失敗なのだが……副産物として、そのエキスが冷えて固まるとなんだかロウっぽいものができた。

 湯煎ゆせんしてさらに純度を上げてみたが、オレンジ色のロウだ。安物のプラスチックみたいなテカテカした質感になっているが……ハチミツには殺菌力があるからな。ハチミツは腐らないのだ。


 つまり、立派な抗菌衛生グッズである。

 俺を転生させてくれた神様の話によると、この世界は平均寿命が五十歳に満たないそうだから、こういう衛生グッズはとにかく普及させたほうがいい。

 疫病やペストが流行りだしてから慌てても遅いのだ。俺はスキルで大丈夫でもルルや母さん達が倒れたら困る。


「続きましてはこちら、はい、夜を明るくいろどるムード満点の便利グッズをご紹介! ホイット村ハチミツ印のロウソクです! ジャジャン!」


 オレンジ色の背の低く太めにした、倒れない安定置きタイプのロウソクを出す。実際に火を付けてみたほうが、わかりやすいだろう。


「なんで声が甲高くなるんだ?」


「そこは気分で。――四大精霊サラマンダーよ、我がマナの供物をもって炎の息を吹きかけたまえ。ファイア」


 着火の呪文で火を灯す。芯には亜麻の糸を縒り合わせてみた。蜂の巣を煮て作ったロウが冷えると固まるので、そこに糸を垂らして固定し、浸け込むだけだ。

 ただ、そのままだとちょっと臭いので、コスモスの花のエキスを混ぜて良い香りにしてある。

 アロマキャンドルだ。


「ほう、良い香りがするな。これは『蜜蝋ビース・ワックス』のロウソクか。よし、十個全部買ってやろう。120ゴルダ、大銅貨1枚と小銅貨2枚でどうだい?」


 銅貨か……。日本円で1万2千円くらいだろうか?

 一個あたりだと1200円だから、結構良い値が付いている。


「ちなみに、リックさん。獣油で作ったロウソクだとおいくらですか?」


 イノシシの脂身も加熱すると溶け、一晩放置すると固まる。焼き肉のあとによくフライパンに白く固まって残る脂肪も燃やそうと思えば燃やせるからな。あれもロウソクにできるかもしれない。かなり臭いと思うけど、量産はしやすい。

 ああ、フライパンも欲しいなぁ。


「うっ、わかった。なら、ビース・ワックスの香り付き高級品だからな、大銅貨6枚だ!」


 ピクッと片目の下のほほを引きつらせたリックは、急に値段を5倍にしてきた。

 6万円、一個6000円だ。

 リックさん……、こっちが田舎の子供だと思って、ロウソクを安く買いたたこうとしていましたね?

 まったく、油断ならないヤツだ。

 とはいえ、こっちはこの世界の相場なんて知るよしもないからな。今度、父さんに隣町へ連れて行ってもらって、市場を見ておかないと。


「では売買成立です。次にこれですが。こうやって口紅になります」


 ビース・ワックスに紅花を煮詰めて混ぜたスティック型の化粧品だ。

 最初は炭を混ぜて黒色のペンを作ろうとしたのだが、オルガがふざけて俺の顔にヒゲや丸を書いた。

 洗い落とすのに苦労したが、

 天啓のあの一節――『小さき針を持つ宝の番人から、明かりと聖なる包みと美しさを盗み出すであろう』を思い出した。

 『美しさ』とくれば化粧品だろう。

 試しに作ってみたが、現代のルージュのような鮮やかな赤色とはいかず、ピンク色になっている。

 それでも村の女性陣には好評だった。

 おババ様にもっと強い色はないか聞いてみたが、鉱物を提案されたのでやめておく。

 鉱物はお肌に悪そうだし。


「おお、化粧か。一本、大銅貨一枚なら買おう」


「毎度!」


「おい、いいのかよ、シン。そりゃあ、全部お前が作ったモノだけどさぁ……」


 オルガが後ろでポンポン進む取引に心配したようだが、その通り、元の仕入れがタダみたいなものだから細かい値段は気にしなくたっていい。

 どのみち、このリックは、また俺達と取引せざる・・・・・を得ない・・・・

 この辺の他の村では絶対に手に入らないハズのモノがここにはあるからだ。


「では、リックさん、そろそろ本番の取引といきましょうか」


「本番だと? お、おう、かかってこい!」


 俺は切り札の商品を出した。

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