65 囚人の戦い
「きゅううううう!」
バシュッと魔弾の射手が作動してルリルから大きな魔弾が放たれてアンデッド達の群れが吹き飛ぶ。
「どうにかなりそうだな」
「きゅう!」
経験値の入りも中々悪くない。この調子ならすぐにLvが上がるぞ。
このルナティックムーンでどれだけ経験値が稼げるかわくわくしてきた。
ファナが派手に暴れているおかげでそっちに注意が向くし、ブラッドサッカーを狙ってファナが縦横無尽に飛び掛かったり鉄球をぶつけてくるのでしっかりと周囲に意識を向けたらどうにかなる。
「アキヒコの方は大丈夫そうね」
「ああ、これもファナやロネット、ルアトルのお陰だな」
一週間前のLv5だった頃とは出来ることがまるで違う。
これはすべてみんなが俺に戦える為に時間を割いてくれたお陰だ。
「じゃあ私も戦ってくるわ。アキヒコ、約束」
「はいはい」
俺は腕輪を一つ、広げてファナの首に通す。
長毛のファナだから拷問時みたいに無理矢理挟み込まない限り、毛に埋もれて首輪になった腕輪が分からないな。
「どう?」
「よく隠れてるもんだな」
「きゅっと締めて見て」
出来ればしたくないんだが……やらなきゃだめか。
ため息をしながら俺はファナの首輪を絞めるように意識する。
ぐぐぐ……と腕輪は絞まり、ファナの首を締め上げる。
「カハ……うん。良いわ」
ファナが満足したようなので締め上げを緩める。
「本当に腕輪を攻撃しないでくれよ」
「それは何があっても守るわ……行ってくるね……はぁあああああ!」
そこからファナはダンジョンの奥の方へと足かせの鉄球をなんとも思ってない足取りで行ってしまった。
刑務所内のダンジョンではそんな戦闘音が響き続けていた。
これが……ルナティックムーンか、本当……休む暇なしで魔物が出てくるな。
何処からやってくるのかと疑問に思ったが文字通り突然目の前の空間が歪んで出てきやがる。
まさに災害だ。俺たちの入っている牢屋の方からも戦う音が聞こえる。
どこでも魔物が出てくるって事がどれだけ厄介かを今になって理解した。
「喰らえ!」
ルリルの動作の隙を突いて背中に乗る俺に飛びかかってきたシックルアンデッドに腕輪をジャマダハル形態にして思いっきり腕を突き出し、シックルアンデッドを突き飛ばして追撃のマジックショットをぶちかまして動かなくなるまで攻撃を続ける。
こんな所で俺は死ぬわけにはいかない。
無数に出てくる魔物たちを屠りながら通路の奥、ダンジョン内を見渡すとこの区画を受け持つ囚人たちが各々武器を振るって魔物たちと戦っている。
「ぐああああ! た、助けて!」
「おら! 何やってんだボケ!」
看守が後れを取って大怪我をした囚人を助けに入り手を掴んで強引に立たせて引き下がってくる。
「おい。お前も回復スキル持ちだっただろ。戦闘は他の奴に任せてこっちにこい!」
看守に声を掛けられる。
怪我をした囚人……俺をボーリング玉扱いしていた奴の傷口を確認……即席で治すのは難しいな。
俺は無造作に怪我をした囚人目掛けてヒールシロップを振りかけて、ヒーリングサークルを作動させる。
「お、おお……すげぇ……あっという間に傷が消えて行く、それに体のだるさまで……」
見る見る怪我が塞がって行く囚人が肩を貸していた看守から離れて立つ。
腕輪の性能に加えて宝石、それと習得したスキルの影響もあって回復量が大幅に増加したようだ。
想像よりも回復が早くなっている。
「回復か!」
「助かるぜってこいつかよ」
「無いよりマシだ! 怪我した奴はこっちだ!」
と、小さな怪我をしている連中が俺の出したヒーリングサークルの範囲へとやってくる。
「あー……傷が……助かるぜ」
「範囲回復か……思ったより使えるみたいだな。お前」
「ついでにルリルの蜜もヒールメイプルシロップだし、ヒールステップって回復スキルもある」
どんだけ回復効果持ちなんだろうな?
プリーストでも無いのにさ。
看守が俺に向かって目を光らせてきやがる。
「お前はここでそのスキルを維持し続けろ」
「それだけで良いのか?」
「逆らう気か? 他に回復持ちの人員を裂けねえんだよ!」
一応回復できる地点があると助かるってか。
面倒極まりないな。
逆らうことは認めないとばかりに俺は囚人と看守たちの回復地点扱いでヒーリングサークルを維持し続ける作業をやらされる。
ヒーリングサークル維持をしていると俺自身に攻撃手段が無くなってしまうのは困った所か。
ルリルが俺の代わりに戦ってくれるけどさ。
「お、おい。魔物共がこっちにきやがるぞ」
「セイフティサークル」
接近してきたアンデッドを弾くように瞬間的にセイフティサークルに切り替えを行う。
俺の囚人と看守の攻撃するチャンスくらいは確保できた。
「おらぁ! いや……割とマジでお前役に立つな」
「対処できる範囲ならな……」
セイフティサークルはすぐに砕けるんでやはり防御結界としての能力は低い。ただ、魔力の増加に合わせて少しは耐えるようになってきている。
やがてドカドカと大きな音が通路の遥か奥で聞こえて来る。
血まみれの屈強な囚人がそんなところから逃げかえって来てヒーリングサークル内にへたり込んで嘆くように頭を横に振る。
「今夜はケルベロススケルトンなんて化け物が湧いてきやがった」
「おい! 何逃げてきているんだ! 戦って来い!」
傷を癒している囚人に向かって青い顔をする看守が我が身可愛さに囚人たちに突撃を命じるが、囚人は行けるかよと降参とばかりにあげてから答える。
「バーサーカーリープッド様が獲物を見つけたとばかりに喜々として暴れて下さってますよ。看守様」
やがてドスン! っと一際強い音が響いたかと思うと静かになり、しばらくしてから通路の奥から……ゆっくりとファナが大きな犬と思わしき生き物の頭蓋骨を引きずってやってきた。
「……本日の特殊湧き一匹目ね」
無造作に頭蓋骨をこっちに転がしてきた後、そのまま来た道を戻って行く。
その姿は……なんだろうな。歴戦の戦士と言った空気を纏っていた。
ファナ……その痛々しい戦う様は雄々しいけど苦しいと俺は思ってしまうよ。
「う……」
ファナが頭に手を当てるとビクッと囚人も看守も怯えるように距離を取る。
「こ、ここで暴れるんじゃねえぞ! バーサーカーリープッド!」
「暴れるならあっちでやれ!」
「はいはい。それじゃ……」
ドスドスと追いかけて来たとばかりの二頭の複数頭を持った骨の魔物、ケルベロススケルトンに向かってファナは飛び掛かって行った。
「ニャアアアアアアアアア!」
やがてファナから強烈な殺気らしきモノが放たれて力の限り暴れ始める。
頭蓋を殴りつけられたケルベロススケルトンが思い切り殴られた方向に顔を仰け反らしている。
「ガアアアア!」
残った大きな骨の頭が幾つもファナに噛みついていくのだけどそれを蹴り飛ばし、ダンジョンの天井に張り付いてそのままケルベロススケルトンの胴体に突撃、流れるように鉄球を足で振り下ろす。
前にも見たけどまるで鬼神の如き戦う様だ。
「ガァアアアアアア!」
血まみれになりながらも雄々しく戦うファナを……俺は黙って見ているだけで良いのか?
「きゅう!」
ルリルがぴょんと腰を上げて鳴いた。
「どうした?」
「きゅうう! きゅう!」
心配ならば共に戦えば良いとばかりに顔を上げて俺を見つめてくる。
「そうだな。行くぞルリル!」
「きゅううう!」
バッと俺の命令を聞き入れてルリルがファナの戦う場所へと突撃していく。
「おらおら!」
マジックショットを連発しながら俺はファナの援護を行う。




