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55 洋館


「しかし……こんな所に屋敷なんて建てて何が目的だったわけ?」

「……貴族の錬金術師が研究用に建てたりするわ。人目に触れない研究だったり薬草栽培や採取拠点の為に」

「そんな感じ」

「錬金術師ってこういった所に閉じこもって碌な事をしないから私は嫌いね」

「おやおや、刑務所に籠りがちの君が言うのかい?」

「今はあなたに雇用されて外にいるじゃない」


 って相変わらずファナとルアトルが薄ら寒い会話をしている。


「はぁ……どうして皆さんは……」


 ロネットがなんか嘆いている。どうした?

 人間関係の悩みか? 確かにファナとルアトルは妙なやりとりをしてるな。


「日も大分くれてきたし、この洋館で一夜を明かすんだったな」


 肝試しみたいな感じか。


「中に入るための鍵とかはあるわけ?」

「はい。ギルドで鍵は預かってますよ」


 ガチャリと厳重な門の鍵穴にロネットは持ってきた鍵を差し込んで開けて俺達は敷地の中に入る。


「夜までに先に魔物の処理とかした方が良いんだよな?」

「そうなりますね。この辺りで生息する魔物が入り込んでいる可能性はありますので皆さん、先に処理をしましょう」


 というわけで洋館の庭で根を張っていたマンドラコンやレッドウッドレント等の植物系の魔物の処理を行う。


「倉庫に住み着いていたギャブマウスは仕留めておいた」


 ファナがネズミの魔物の死体を持ってきた。実に猫らしい狩猟に見えて微笑ましい。


「とりあえず軽くチェックをした所だとこんな感じかな」

「そうですね。では皆さん、今晩は固まって行動し、出てくるアンデッドに備えましょう」


 ロネットたちが事前にチェックした洋館内に入る。

 うん。若干埃があるけど小綺麗で普通に泊まれそうな感じだ。


「おー。トイレに行く場合はルアトル、一緒だな」

「アキヒコ一人で行けるんじゃ無かった?」

「こんな洋館だとな」


 推理小説のお約束で一人でトイレに行ったら死亡フラグだろ。


「きゅー」


 そうじゃなくてもヤバイ奴がいるわけだしな。

 まあ、屋敷内でだとルリルを連れて行ける範囲は限られているんだけどな。

 廊下は大きいから問題は無いが個室となると扉が狭くて頭を無理矢理通して入る形だ。

 まあ……みんなバラバラに個室で待機なんて事はしないんだけどさ。

 そんなこんなで洋館内で待機して休む。

 日が沈み……夜が更けていく。

 洋館内の照明は照らされて居てそこまで暗くは無い。

 洋館の窓から外を確認……アンデッドって事はゾンビとかがボコッと地面から出るのか?

 いや、亡霊が出るんだったか。

 となるとポルターガイスト的な方か。


「きゅう?」


 ルリルが俺が見ている窓辺から外をのぞき込む。

 特に何もいる気配は無い。


「ふわぁああ……」


 ファナが眠そうにあくびをしている。


「亡霊退治か……食器とか家具がガタガタ揺れたりするのかね」

「おそらくはそのような現象が起こるとは思いますが、アキヒコさんもファナさんも随分と冷静ですね。この手の依頼は僧侶系の方なら慣れがありますけど他の冒険者の方はあまり無いのですが……」

「そうは言ってもな……」

「刑務所、地下にある迷宮からアンデッドが迷い込んで来るのよね」


 スケルトンだけならいざ知らず、他にもそこそこ出てくるので大分なれてしまっている。

 ゴーストとかも時々来るんだよな。マジックショットが命中する。ポルターガイストなんかも最初は驚いたけど経験済みだ。

 だからこう……幽霊とかも魔物って扱いだから馴れた。ちなみに幽霊って魔物な訳で死んだ人間の霊では無いのが違う所か?

 一応、人間の悪霊とかも魔物化したりするみたいだけどさ。


「おやおや、彼らの方がむしろ専門って事になってそうだね。ロネット」

「ダフラー刑務所における囚人の管理と地下墓地迷宮への対応改善を報告しておいた方が良いでしょうね……」


 なんかロネットが煤けて居るように感じた。


「どうした? ルリルの一番搾りでも飲むか?」


 疲れているなら甘い物を口に入れるのが良いだろう。

 問題は原液は甘すぎて水で薄めるのが良いけどな。


「きゅう?」

「どんな理屈ですか! それと一番搾りって違うでしょ」


 ロネットが突っ込んで来た。

 乗りで一番絞りと言った所を突っ込んで来るとはな。


「じゃあ絞りたてルリル汁」

「ヒールメイプルシロップと言ってください!」


 注文が多いな。中身は同じなのに。


「この場合はミルクとかを飲むのがリラックスするんじゃないかい?」

「ミルクか……」


 と、ルリルを見る。


「きゅうううう!」


 望むのなら母乳を出すように努力します! みたいな事を言ってる気がする。


「……ポータルゲートでミルクを買い出しに行くか?」

「きゅーん!」


 つれないです。ですけどそれでも良い! って感じでルリルが寝転んで来やがる。

 お前でかいくせに俺に絡みつくの程々にしてくれ。


「いりません!」

「庭で倒したマンドラコンを煮てシロップで味付けすれば良いんじゃ無い?」

「ああ、なんか家庭の味っぽいのになりそうだな」


 大根の蜂蜜煮みたいな感じ、風邪を引いた時とか効果ありそう。


「余裕がありすぎです」


 なんて調子で寝ずの番をしていると……。


「ォオオオオオオ……」


 ボヤァ……と、灯りがが消えて、生ぬるい空気と共に亡霊がボヤァっと出現した。

 髪の長い白いワンピースを着た女性……かな? 割とお約束な姿をしてる。

 それ以外に壁に掛かっていた絵画の絵も変わって居て鮮血っぽいのが滴り始め、絵の奥から首なしの馬が走ってきて出てこようとしている。


「早速出てきたみたいだな」

「そのようですね。では任せてください……ターンアンデッド!」


 ロネットが杖を握って祈るようにスキルを放つ。

 カッと光が放たれて……亡霊たちを照らす。


「ォオオ……オオオオオオ」


 が、何の効果も無いとばかりに亡霊がそのまま俺達の方へと飛んで来る。

 しかも家具まで浮かび上がって飛んで来るぞ。


「きゅう!」


 ルリルが守るようにすり寄り、耳を広げて盾のように身を挺して守ろうとしてくる。

 バシッと軽くルリルの耳は家具をはじき返す。


「は、話に聞いて居ましたが本当にターンアンデッドが効きません!」

「それじゃどうする? このまま怪現象を受け入れながら夜明けを待つ感じか?」


 今のところルリルが軽く弾いてくれるだけで怪我らしいものは無いけど……。


「んー……感覚としては目の前に居るんだけどね。なぜか攻撃が当たらないよ」


 ルアトルが火の魔法で飛んでいる亡霊に向かって攻撃したけれどやはりというかすり抜ける。


「こんな時、ファナはどうするんだ? 魔法とか使うか?」

「塩水とか手に着けて切り裂くとかで効果が無い場合以外はね……あの手の亡霊って生きた生物に取り憑こうってくるのでしょうけど私はすでに先約が居るから」


 ああ、ファナって獣の精霊を宿すビーストバーサークシャーマンって職業で既に憑かれている訳だもんな。

 むしろ上位の化け物なんだから憑かれるなんて無いか。


「どうしてもって場合は私もある程度はお祓いの仕方はしってるけどねー」

「知ってるなら手伝ってください!」

「そう言われても専門のあなたには劣るわよ。私のシャーマンとしての能力なんてアコライトとかその辺りよ?」


 ロネットは確かプリーストだったか、初期職業がアコライトだとするならファナの対魔はお察しって事なんだろう。


「うお! セイフティーサークル! ってすり抜けるのか!」

「うぐうう……」


 なんてやりとりをしている間にも亡霊は様々な物をすり抜け、すごい速度で接近、俺達に絡みついて締め上げてくる。


「くううう……」


 ひんやりとしながら異様に息苦しい嫌な感覚だ。


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