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46 就寝


「そもそもアキヒコ、君が言った作戦は本当に上手くいくんだろうね?」

「当然、前にもやったことがあるからな」

「失敗したら困るけど任せるよ」

「あいよ」


 って訳でルアトルは村の人たちに声を掛けて準備をしにいく。


「ふあああ……」


 ファナがあくびをしていた。俺も大分眠くなってきた。


「今日は馬小屋か村のどこかで野宿か?」


 どうせこの村の宿には泊めて貰えないんだろうな。


「キュ! キュウ!」


 ルリルが俺の背後でにじり寄って丸まろうとしてきやがる。それは何の真似だ?


「アキヒコはルリルがいるから野宿でも暖かいんじゃない?」

「きゅー!」


 そういった動物との交流とかアニメで見た覚えはあるな。

 難点を言うならルリルの体臭は甘ったるいので寝られるかわからない所か。


「あ、あの……寝る場所の準備はできています。本日は、ありがとうございます」


 村人が俺の話に近づいてきて礼を言ってきた。

 おや? 俺が囚人だから助けるのは当たり前って感じじゃ無いのか?

 首を傾げているとロネットが笑顔で答える。


「アキヒコさんとルリルさんが頑張ったお陰で被害も無く、けがをしていた人たちも元気になりましたからね。皆さんの感謝の印ですよ」

「どうだかな……魔物の主を俺たちに倒して貰いたいから恩を売ってるだけだろ」


 日本じゃ犯罪者に人権は無い。例え俺がやった訳じゃ無くとも、囚人が行った善行なんて評価されたりしない。


「俺の居た国じゃ、囚人に人権なんて無いからな。この世界だって石を平気で投げつけてきやがったし」

「キュー!」


 ルリルが石を投げつけられたって所で毛を逆立たせて威嚇の声を上げる。

 まあ投げてきた奴の中にオレの元上司も居たがな。

 アイツは絶対こっちの世界の方がお似合いだろう。


「はぁ……アキヒコさんをここまで歪ませてしまったのは私たちの所為なんでしょうか……」


 嘆かわしいとばかりにロネットが頭を振っている。

 事実だろ。


「さてと……寝る場所は用意してくれているみたいだし、明日に備えて休ませてもらえるなら休むか……」

「そうね」

「……寝る前にちょっと用を足してくる」


 っと俺が用を足そうとした。


「キュ、キュウウ……」


 するとルリルがなぜか俺の後ろについてくる。


「なんだ? 用を足すと言ってるだろ。いくら俺が不運だからってそこまで運は悪くないぞ」


 どこぞの推理小説じゃないんだぞ。

 用を足しに言って断末魔を上げて死体で見つかるなんて展開になってたまるか。

 そもそもアサシンアナグマたちは撤退してるし、居たら報告する。


「キュウ……キュ、キュウウ」


 何でお前は呼吸を荒くして待ちわびてますって面して俺を凝視してるんだ?


「ルリルさん?」


 用を足す場所の前に回り込んだルリルはパカっと口を開けて何かを待ちわびている。


「……」


 ここでふと、ウサギの生態がなぜか脳裏を過ぎった。

 尚、ウサギと言っても地球で生息している普通のウサギの事だ。

 かなり汚い話ではあるが地球のウサギは……端的に言うと自らのアレを食べる習性がある。

 その延長線からある事だ。

 おそらくこの世界のウサギもそういう性質があるのだろう。


「ふざけんな!」


 お前にはちゃんと十分な餌を与えているだろう。

 せめて自分のアレで我慢しろ。

 訳がわからん。

 こういう所が動物の幻想という奴なんだろうか。


「ルリルさん落ち着いて! そんな事をしたらアキヒコさんに今度こそ捨てられちゃいます!」

「キュー!」


 俺の激しい勘違いかと思いたいけど、餌の催促だったと思うことにする。

 現に貰った野菜をルリルに渡した所むしゃむしゃと食べていたからな。


 ただ……ルリルは俺の牢屋の部屋には連れて行かない方が良いと思った。

 具体的には壺をどうするか試したくも無い。

 どうしてこんな変態に育ってしまったのだろうか……思い込みであってほしい。

 種としての性質であってくれ。


 混乱が収束して、俺達は案内された休める場所とやらに行く。

 そこは……言ってしまえば村の安宿、江戸時代とかで木賃宿と呼ばれる建物みたいな感じの場所だ。

 ぶっちゃけ仕切りの無い家屋で床が土じゃ無いってだけの小屋。

 馬小屋よりも僅かに待遇が良いと思えば良いか……。

 そこに俺とファナとルリルは泊まる事になった。

 ルリルが入れる大きさの扉がある馬小屋じゃない場所って事なんだろう。


 おいおい……ベッドが野外病院で使われていた奴がそのまま運び込まれてるぞ。

 ベッドの傷に見覚えがある。

 ある物を使って俺たちが寝られる場所を確保したって事なんだろうけどさ……。

 ルリルにも気を遣いすぎだろ……思えばルリルがでかすぎるのが問題なんだよな。


 ……あんまり深く考えるのはやめよう。

 最悪ルリルをベッドにして寝れば良いか。喜びそうな気がするし。


「寝る場所の準備……まあ、ルリルも居ることを前提にするとこの辺りが無難か」

「そうね」

「キュー!」


 ベッドの横にぴったりとひっつく形でルリルは伏せの姿勢で座り込んだ。

 ……明日の作戦もあるし、あんまり深く考え込まないようにしよう。

 しかし……ずいぶんと濃密な一日を過ごした気がする。

 マリーゼの奴に絡まれてから一日しか過ぎてないんだぞ……。

 ベッドに腰掛けるとどっと疲れが来る気がした。


「アキヒコ、疲れたでしょうから寝ておいた方が良いわよ」

「言われなくても寝る……けど、寝て大丈夫か不安だ」

「キュ、キュー!」


 任せてください! 私が安全を確保しますって感じでルリルが胸を叩く動作をしてるけどな、俺としてはお前が何をするかわからなくて不安なんだよ。

 ライムの例があるからな。

 俺の意識が無い所でどんな悪さをするかわかったもんじゃない。


「念のため……セイフティサークル」


 範囲を室内に広げて俺はセイフティサークルを展開する。


「ルリル、ここから出たら俺は気づくから妙な真似はするなよ? ついでに、俺にも妙なまねはしないようにな」

「キュ!」


 返事だけは良い奴だな。


「ふふ、アキヒコって魔物使いとしてそんな風にやってきたの?」


 ファナが俺が腰掛けるベッドに入り込んで寝っ転がって聞いてくる。


「ぶー!」


 ダンダンと床を後ろ足で叩いてルリルがそんなファナの動作に抗議の声を上げる。


「なんだか良いな。とても楽しそう」

「……別に」


 ルリルとの付き合いは……あんまり無かったな。


「ぶー!」


 ちょいちょいとファナがルリルに猫が塀の上で犬をからかうような顔を向けて尻尾を揺らしている。

 なんだろう、ファナは獣人でルリルは魔物なんだけど似たものに感じてきた。


「ルリルとアキヒコってどんな出会いだったの? よかったら教えてくれると寝るまでの気晴らしになりそう」

「そんな盛り上がる話じゃない。チェイスウルフに一家で襲われて木の洞にどうにか逃げ延びていたルリルに運良く俺が遭遇して助けたってだけさ」

「キュ! キュウキュ!」

「傷が深かったから治すのに苦労したな。どいつもこいつも見捨てるべきだって言ってた」


 と、俺はルリルとの出会いをファナに話す。

 ファナはそんな俺とルリルの出会いを楽しげに黙って聞いていた。


「こいつ寝ている俺の上で漏らしやがってさ」

「ぶー!」


 もうしないもん! とばかりにルリルは抗議の声を上げているけどどうだかな。


「そっか、ルリルにとってアキヒコが居たから生きれたんだね。じゃあ、頑張るのも納得ね」

「レイベルグの所で幸せに過ごしてりゃ良かったのにな」


 と言うとファナは軽く笑う。


「後味悪すぎで無理だと思う」

「そうか?」

「うん。私だってアキヒコの所に行きたいと思うよ? そんなんじゃ」

「どうだかな」


 ルリルはなんだかんだ魔物なんだ。あのライムと同じくな。

 いつ裏切るかわかったもんじゃない。

 少なくとも俺がルリルと一緒に居るのは強くなるためだ。

 魔物使いが上位の職業に転職するのに必要だから一緒に居るに過ぎない……そう思わないと……。


「キュウ……」

「さて、じゃあ……そろそろ寝ましょうか」

「そうだな……話をして休む時間が減ったら本末転倒だもんな」


 俺はルリルの首に掛けた腕輪に触れてヒーリングサークルも一緒に展開させる。

 体力回復促進もあるからな。

 魔力はそこそこ消費するけど、寝入るまで……と、意識して俺達は就寝をしたのだった。


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