38 再契約
「初耳と言った顔をしておるな。この程度、独学でも学べるものじゃよ。精製武器を構築できるようになる……早くてLv30前後になる頃には十分にの」
「……」
俺はライムを仲間に加えていたのかって疑問に思われているかのようだ。
「とはいえ、二匹目三匹目の魔物を使役すれば主人が無知でも魔物側の虚偽は気づかれてしまう。契約を切られた魔物は相当の損失が起こる。条件が悪くない限りは主人である魔物使いを慕い、共に生きようとする。相当、心根が腐っておらん限りはな」
基本、魔物使いの配下になる魔物にはメリットしか存在しないのだとレイベルクと言う老人は、俺にレクチャーするように話し続けた。
ライムが裏切ったのは何時だ? 俺がLv47になって、ルリルを仲間にした後だ。
自然とルリルのLvが上がり俺へ見返りとして何かしらのスキルを授ける……そうなった際に自身が何も俺に見返りを与えてなかったことがばれる。
間抜けな俺はそのまま見過ごしそうだけど、調べない可能性はゼロじゃない。
そもそもロネットに相談して訓練校に入り、魔物使いから教わる可能性だって出てくる。
現にこうして雑談で知ってしまうくらいには簡単に手に入る情報だ。
「そして転職は50から、高くて55になった際に上位職に転職することになるんじゃが、共にいる魔物が居ない魔物使いはそこで転職条件を満たせんし転職するまでLvが上がらなくなる。何に転職するかはそれまでの道が、その先を照らすのじゃからな」
ルリルを仲間にしていなかった場合はどうだ? Lv55になって転職できない俺が魔物使いを探して話をするかもしれない。
するとどうだ? 結局ライムが欲深い奴だってばれる所だったんだ。
殆ど最初からライムは俺へ何か見返りをする気は毛頭ない強欲な奴だったって事じゃないか!
考えてみればサンドイッチ一つでついてきた奴だったもんな。
餌付けで仲良くなるのは基本だけど、やっていい奴と悪い奴を比べないといけなかったって事かよ。
動物の中には餌だけはしっかりと貰うけど警戒心だけは無駄に強い奴とか、無駄に愛想が良い奴がいるって話も聞く。
野良猫もそうだったな……就職する前に野良猫の世話とかした際を思い出す。
……まだ猫の方が癒しだよな。ファナみたいなやつもいるし。
「まあ、恩知らずであっても蓄積した力や――」
「じゃあなんだ? 俺が強くなるには魔物を仲間にしなきゃ始まらないと言いたいのか! この特殊武器に限界が来るのかよ!」
ロネットやルアトルが今は俺を雇用してくれているから多少はLvを上げる機会はある。
ファナも処刑までの間は隣に居てくれる。この恵まれすぎている状況を少しでも無駄にせずにLvを上げても俺には復讐する力さえ与えられないってのか?
腕輪だけじゃ、どれだけ頑張っても枷を超えられないのかよ!
あと少しでルナティックムーンが来るんだぞ!
「転職は職業以外に、武器に掛けられた枷を解き放つ。最初は剣であった精製武器の担い手であろうと転職時に大きな剣に重ねられるような変化を起こすのじゃよ」
「く……」
そういえばファナが最初のこの爺さんは精霊を見れるとか言っていた。
連れている魔物の傾向から、そういう方向に転職したって事だろう。
腕輪のスキルもいずれ頭打ち……上位職にクラスチェンジしなければ今のままではライムを仕留めることは叶わない。
なのにその為には魔物を使役しないといけない。
……俺を裏切った魔物を、だ。
俺は一体どうしたい?
何が何でもライムに報いを受けさせて真実を周囲に理解させたい。
そのためならどんな苦痛だって乗り越えてやると心に決めた。
「くっそ……」
俺はルリルに顔を向けて睨みつける。
「……キュウ」
ルリルはただ静かに俺を見つめてから目を閉じ、返事を待っている。
「転職のためにやむなくだ。魔物使いのスキルは使わないから覚悟しておけ」
腕輪のジャマダハルモードを解除する。
「アキヒコさん」
「良かったねアキヒコ、それにルリル、で良いのかしら」
「キュー!」
ファナの言葉にルリルは嬉しそうに鳴いた。
「ほっほっほ、ではしっかりと手続きをしておくとしよう。引き渡しじゃが、君は再度テイミングする方法は心得ているのかね?」
「そりゃあな」
前にもやったように俺は腕輪を解いて広げてルリルの首に……でかいから出来る限り大きく広げるしかないな。
まあグレートマッドサラマンダーの首を締め上げる事が出来たんだからやれない事は無い。
「キュウウウウ」
ルリルの首にしっかりと巻き付けると腕輪から淡い光が放たれて解除していたテイミングが再度繋がる。
テイムカラー完了。
ザザ……――ジャイアント……――ザザ……アルミラージを再登録しました。
ルリル Lv18 種族 ジャイアントアルミラージ ♀
主人 海山明彦
所持スキル
たいあたり 噛みつき ヒールステップ スタンピング 集音 蜜生成 人語理解
……? 切れていたんだよな? なんかよくわからないけど一際強く繋がったような気がした。
それとシステムに砂嵐? 断線していたのをつなぎ合わせたって事でいいんだよな?
……なんか……同時にルリルから光が放たれて俺に流れ込んでくる。
スキル・ターゲットオーダーを習得しました。
スキル・コールモンスターを習得しました。
スキル・ライディングサポートを習得しました
早速魔物使いのスキルを習得した様だ。
これが魔物からの見返りとなるスキルって事なのかね。
……俺、ルリルには大した事はしてないぞ。こんなにスキルを習得して良いのか?
しかし……Lv18になっていたのかよ。既に俺よりも高い。
ただ、ヒールステップって多分、名前からして回復系のスキルでスタンピング……踏みつけとかその辺りか?
集音、まあウサギだから聴覚が高いって事だろう。
あまり強力なスキルは所持していないようだ。
持っていたら報告して速攻契約解除を申請するところだったけどな。
「ライムの例があるからな。妙な事が起こりそうになったらロネット、それとそこのレイベルクだったか、に急いで通報して処分してもらうぞ!」
「キュ、キュー!」
ルリル、お前には言ってない!
ラジャーって感じで片手を上げるな。
「ほっほっほ、その時はわしが全力で事に挑む事を約束しよう」
「はぁ……わかりました」
「しかし、いきなり特殊武器での契約じゃったのか。そりゃあ魔物側からしたら大盤振る舞いで期待に応えるしかないのう。幼いのに利発な子になるはずじゃ」
「どういう意味だ?」
「特殊武器を持たない魔物使いは最初テイミングにおいて道具を使うんじゃよ。それは鞭だったり鎖だったり、首輪だったり専用の品じゃ。その道具によって契約の具合が変わってくる」
最初は家畜に近い魔物に知恵や記憶容量を授けるような物ではない所かららしい。
魔物が主人から力を授かり知恵を宿して期待に応えるように、魔物使いも魔物を徐々に信じて知識を授けて行く。
質の良い道具を使えばそれだけバイパスが強まるそうだ。その最高峰が魔物使いとしての力の結晶である特殊武器や精製武器で行われる契約だ。
主人からの知識や記憶のバイパスが最も強く影響を受ける、最も強い契約であるんだとか。
「ではしっかりとその子と力を合わせこれからの日々を乗り越えてくれることを願うばかりじゃ。そしてユニゾンのスキルを覚えれば一人前の魔物使いじゃ」
「キュー!」
「ああ、そうそう。その子は上質な蜜を精製することが出来る才能を持った子でのう。進化してもその力を残しておる。差し入れに出したシロップの作り方を知りたいかの?」
「色々と便利だったよね。アキヒコ、美味しいってパンに塗って食べてたし」
「キュッ……キュッ……キュウ……キュウウウ……」
なんでルリルの奴、ファナの話を聞いて鼻息荒くしてるんだろうか。
もうヒールシロップをパンに塗って食えないような気がしてきた。
ルリル、お前ちょっと見ない間に変わったな。
この一ヵ月の間、俺も色々あった様にルリルも色々あったんだろう。
だが、俺の所為ではないと信じたい。




