28 疑惑の指輪
「さ、まだファナがグレートマッドサラマンダーを相手に鼓舞している間に僕たちは離れるとしようか」
「良いのか?」
「周囲に動く相手が居なくなるまで彼女の理性は戻ってこないからね。バーサーカーと付き合う正しい方法さ」
「そうか。じゃあ気づかれないように急ぎつつ、隠れつつ行こう」
そんな訳でヒーリングサークルで応急手当を行った怪我した冒険者たちを連れて俺達はその場からしばらく離れる。
やがて……10分くらい経過しただろうか。
ファナが何時もの表情で俺たちの元へと戻って来た。
「お疲れさまー」
その手は……大分治っている。バーサーカーの生命力ってすごいな。
生半可な怪我は治るって言っていたのも過言じゃないが……。
「随分と無茶な戦いをするんだな」
「それはアキヒコでしょ。ぼんやりとだけど覚えてるよ。グレートマッドサラマンダーの首に腕輪を掛けて締め上げるなんて真似して」
「少しは貢献しないとな。それに大物だから経験値も良いだろ?」
「はいはい。どちらにしても手助けしてくれてありがとう」
「礼は別に良いさ。こうでもしないとまだ戦ってそうだったし」
少なくとも格上の魔物でファナクラスじゃないとまともに戦える相手じゃなかったってのはわかった。
ルアトルが居るとしても一人じゃ手に負えないってのもな。
「お疲れ様、それじゃ獲物の処理にでも戻ろうか」
ルアトルが間に入って言う。それから逃げて来た冒険者たちの方に顔を向けた。
「手柄はお前らのもんだよ。寄こせとかは言わねえ」
「ああ、回復までしてくれて礼を言うぜ」
「はぁ……まったく、とんでもない大物と出会っちまって最悪だぜ」
「確かに……随分と大物がここに生息していたみたいだね」
ルアトルが考えるように顎に手を当てて答える。
「本気で勘弁してほしいぜ。こっちだって探し物をしてただけだってのによ」
「おや、依頼のブッキングだったようだね」
「という事はそっちもか」
「ま、大した依頼じゃないはずだってのに災難な目にあったね」
なんて言いながら俺達は倒したグレートマッドサラマンダーの亡骸の方へと向かい、亡骸の処分を行う。
大物だから色々と取れそうだな。
「量が量だから……一応山分けしようか。ファナ、君はどうする?」
「いらない。私の分はアキヒコにあげといて」
MVPが興味ないとかどんだけ適当なんだ?
あるいは、こういうのを無敵の人とか言うんだろうか。
「そうかい。じゃあ分けるから確認するんだよ」
と、なんかルアトルが杖から光を放ってグレートマッドサラマンダーの体に線を引く。
「君たちは囚人だから分担はこっちがやっておいたよ。もう収納をして良いよ」
ボスの分け前ってこんな風に出来るのか。
「ファナ」
「何?」
「怪我はもう良いのか?」
「大分良くなってるよ」
呑気に答えるファナだが、何となくだけどダメージが残っている気がする。
俺の勘が間違っていれば良いだけだな。
「ヒーリングサークル」
とりあえず大物の処理をしている間にファナの回復を図っておこう。
これだけ頑張ったんだから労うのは共に行動する者としてしなければならない事だ。
「ん? 大丈夫だって言ってるのにー」
「良いからそこで休んでろ。それとこれもな」
ついでにヒールシロップをファナに投げ渡す。
勿体ないからしっかり塗って回復させてほしいもんだ。
「んー……わかったーあーなんか気持ち良いー」
ファナは俺が放ったヒーリングサークルの上で寝転がって丸まる。
その姿は猫のそれだな。
「おやおや……」
さて、そんなファナを他所にっと。
俺は腕輪をグレートマッドサラマンダーに近づける。
するとスーッと光の線に合わせた分だけグレートマッドサラマンダーが吸い込まれて行った。
そのまま登録部分に格納する。
グレードマッドサラマンダー 5/5 ボーナス 攻撃+10 体力+20 条件達成!
中々悪くない登録効果だ。
「さてと、僕も貰うとするかな」
ルアトルもグレードマッドサラマンダーを杖に吸い込んで登録を行った。
あとはドロップか何かがあるかどうかだな。
んー……骨と肉と革が精製出来るけど、それよりもバラバラと……装備一式などが出てくるのは何なんだ?
鉄の鎧やグリーブ……それとフラッシュスピアとか言う槍とかが出て来た。
「アキヒコ、君のドロップ品をこっちも確認できるんだけどさ。これだけ装備が出るのは犠牲者の遺品も混じっているようだね」
君たちの仲間? と逃げて来た冒険者たちに尋ねると、冒険者たちは首を横に振る。
「いや……俺たちの仲間じゃねえな。他に犠牲者が居たのか」
「んー……一応ギルドに報告しておこう。所持していた品で特定できそうな代物は……ありそうだね」
って感じでルアトルが装備品に関する調べ物をしている最中に俺のドロップ品確認項目で一つ、とある品が目に行ったので取り出す。
それは指輪だ。正確にはセイントブルーレインの指輪って名前の高価そうな指輪だ。
「ルアトル」
「ちょっと確認させてもらうね……ビンゴ、依頼内容にある指輪と特徴が一致した」
「マジかよー」
「あんな化け物倒さないと達成できないとか完全に大外れの依頼じゃねえか」
「グレードマッドサラマンダーの腹の中にある指輪を取ってこいとか割りに合わねえよ」
「ギルドの奴、なに考えてんだろうな」
と、逃げて来た冒険者たちが指輪が見つかった事を知って落胆の声を上げている。
「うーん……」
ルアトルは困ったように唸っているようだ。
まあ、ただの指輪探しで大物と遭遇して倒さないと達成不可能って酷い依頼だもんな。
「まあ結果的に手間が省けたって事で良いのかな。それじゃあ目的も達成したし戻ろうか。ちょっと合流する人がそろそろ来るからさ」
「はーい」
「わかった。けどちょっと待て……よしっと」
俺は周囲にある使えそうな物を持っていくために腕輪に収めた。今度の戦闘で上手く使えたら良いな。
「はー……とにかく助かったぜ。じゃあなー」
って事で俺達は依頼を終えて街のギルドへと向かったのだった。
「さてと……じゃあ報告に行ってくるよ」
ルアトルがギルドの受け付けて報告を行いに出る。
俺とファナはその間、離れた所で待機だ。
「これで依頼も一区切りだが、刑務所に帰るのか?」
「期間雇用って話だったからまだじゃないかしら?」
ああ、そうだったのか。
ま……刑務所で囚人生活しているよりは僅かでも強くなれるから良いか。
環境は割と悪くない。
「おーい」
ルアトルが受付を終えたのかこっちへとやってくる。
「ファナ、ちょっとこっち来てくれない?」
「どうしたの?」
「この前の酒場での件でなんか用事がある人がいるらしくてさ。君を指定しての呼び出し。アキヒコ、指輪は受け取る人が来るらしいからちょっと持って待っててくれない? 他にも待ち合わせがあるからさ」
ちなみに囚人はネコババなんて許されない。刻印の所為でここで高そうな指輪を持ってトンズラなんて不可能だ。
ルアトルはファナを連れて別の案件に行って俺は待機ね。
「はいはい」
「じゃ、急いで行ってくるよ。ファナ」
「んー……わかった」
気乗りしないと言った様子でファナはルアトルと一緒にギルドの奥へと行ってしまった。
しょうがないので受け取りの人がすぐに見つけられるように指輪を手に持ってギルド内で待機する。
ギルド……か。ライムと一緒に居た頃は今日はどんな依頼を請けようかって掲示板で出来そうな依頼を吟味していたっけ。
あれから一カ月くらいか……今では遥か遠い過去であり忌まわしい日々の記憶でしかない。
ライムの野郎が生き残っているのは間違いない。どこで遭遇するかは想像もできないが絶対に報いを受けさせてやる。




