372.進化先の予定
レオやシン、菊姫が遅くまで起きていられるようなので、次のボスまで進むつもりで来ている。なので転移部屋で一旦休憩ログアウトして入り直す。
「おはようでし」
「おはよう」
菊姫と同時にログイン。
人がこないことをいいことに、全員ベッド使用である。レオは使用していないが。
「また落ちてるでし」
シーツと上掛けごと床に落ちているレオを見て、菊姫が呆れた声を出す。
私からはベッドの影で見えないが、ベッドの上にレオはおらず、引っ張られて盛大にシワがより、ずれたシーツがある。
「中身が入っていないはずなのに、何故こんな寝相になるのか」
「ログアウトを選んで、ゲームから意識を切り離すまでの行動から予測だって。おはよう」
不思議を口にすれば、答えが返ってきた。
「おはよう、ペテロ」
「おはようでし。やっぱりこの寝相もレオのせいなんでしね」
「ふあああ! ベッド、もっとでかいの買えばよかった!」
「他のパーティー来た時に大きいの無理でしょ。おはよう」
シンとお茶漬も起き出す。
「レオの分、大きくするという手もあるでし」
「また落ちてるのレオ。時々エビのように跳ねるよね」
エビのように……。お茶漬の言葉に、思わずまじまじとレオの寝顔を見る。
「夢の中でも冒険してんだろ。おはようさん!」
「おはよう」
「はー! よく寝た! おはよう!」
注目の的のレオがベッドにごそごそと上り、布団をかぶる。
「おはようといいつつ寝るの?」
お茶漬が困惑している。
「一応、布団はかぶっとかないと!」
笑顔で起き出すレオ。
よくわからん理屈だが、確かに床から1日を始めたくはない気がする。ベッドから落ちたことも、布団からはみ出たこともないので謎だが。
「朝飯は?」
「パンケーキがいいでし」
「納豆!」
声をかけたら菊姫とシンから両極端な希望。
「洋風で。納豆率高い」
お茶漬ジャッジで本日は洋風。
【ストレージ】に調理済みの料理もあるし、スキルで作るのも時間がかからない。一人ずつ希望のものを出すこともできるが、クランでは一応揃った飯を食うことにしている。
肉の追加とかプラスアルファはありだし、時々ホテルのように和風と洋風を選んでもらうこともあるが。
「では基本はこの辺――」
モッツァレラチーズとトマトのサラダ。アボカドとサーモン、新玉ねぎを和えたもの。温かいほうれん草のソテー、ベーコン、チーズ2種。オレンジとブラッドオレンジ。
シンとレオには牛乳、他はリンゴジュース。
「卵料理の希望と、パンの希望は聞こう。菊姫はパンケーキだな」
「ポーチドエッグでお願いするでし」
「僕はライ麦パン系? ちょっと酸っぱいパンの薄切りと、バターロール。オムレツで」
「私はトーストと目玉焼きかな。半熟で」
「俺もトーストと目玉焼き!」
「俺はオムレツ! 焼きそばパン!」
レオ?
全員の視線がニコニコ笑うレオに集まる。
「……まあいいが」
希望に応じて、各自の皿に盛る。
「ソースいい匂いだけど、このおかずでカオスすぎる」
そういいながらライ麦パンにチーズを挟んで口に運ぶお茶漬。
「美味いぞ!」
コッペパンに少し濃いめの焼きそば、青のり、紅生姜。いい笑顔で口いっぱい頬ばっているレオ。
「ホムラの焼くパン美味いよな。俺も好き〜」
そういいながら、熱々のトーストにバターをたっぷり塗っているシン。溶けずに残るほどぺったりと。
さすが脂好き。
私はトーストにバターを薄く塗り、ベーコンと半熟目玉焼きを乗せて醤油をたらり。時々やる食べ方。
「私もやろう」
マネし始めたペテロ。
「キャラメルソースとブランデー焼きバナナ美味しいでし」
満足そうにパンケーキを口に運び、うっとり頬をおさえる菊姫。
朝食を食べ終え、コーヒー5つに私用に紅茶が1つ。
「そういや、道中で狼の欠片出たけどシンいるか?」
「いるいる!」
レオがシンに言う。
進化石の話だ。私は欠片ではなく石の形で手に入れてしまったが、迷宮では欠片の形でのドロップが多い。それをいくつか集めて石にする。
ドロップ率は抑え気味だが、渋いまではいかず、ボスを目指して層を移動して戦っていれば、一つ二つは落ちる。ただ、種類が多すぎて目当てのものを拾うのは至難。
トレードもできるので、その点はいいのだが、進化先の種族に人気不人気があり、シンの目指す狼やレオの目指す狐は競争率が高く、値段が上がっている。
狐の獣人への進化石はカジノにもあったのだが、今は商品が入れ替わっているので余計に。
「私も狐は一つ持ってるからレオに。そういえば、みんな進化先は何にするつもりなんだ?」
私はすでに天人になっているし、以前からレオは狐、シンは狼を希望していた。
「僕は無難に光のエルフ。退化とか安くなったら、色々変えて遊ぼうかな」
お茶漬の言う退化は『退化石』のことで、一度した進化を取り消してやり直すことができる。
誰かが退化をしたとは聞かないが、『退化石』もカジノの交換品にあったので、存在は知られている。これも入れ替わっているので、また景品に出てくるまでどれくらいかかるか謎。
使った『進化石』は戻らないので、今の状態では気軽にできるものではないし、『退化石』自体も恐ろしく高い。
「エルフってアールヴと光のエルフと闇のエルフで合ってるでし?」
「イェスズエルフがあるね。エルフ系統はそのへん? 他に植物系統とホムラの天人とかもいけるけど」
「イェスズエルフってなんでし?」
「光は回復系、闇は魔法系、イェスズは防御系だって。見た目はわかんにゃい」
「じゃあ、あてちはイェスズエルフ目指すでし」
お茶漬と菊姫の会話。
「私は吸血鬼か、闇堕ち人かな」
「毒人間って話は聞かないもんな」
ペテロの答えにシンが真顔でコーヒーを飲みながら言う。
「植物系の進化、さらに上位にワンチャン?」
こちらはお茶漬。
「私をなんだと思って……?」
笑顔を貼り付けたまま、困惑するペテロ。
「正しい理解でし」
「わはははは!」
私は無言で紅茶を飲んで目を逸らします。
朝食を終えて再び迷宮を進む。出現した敵1号は『赤雨大鷹』。
―― 『赤雨大鷹』か。食材ルートだったが、白と黒、クズノハとリデルで来た時はひどかったな。今は装備が違うので、慎重に。
「ぎゃあああああああ!! 溶ける、溶ける!」
「じゅってする! じゅって!」
「あてちがターゲットに固定されるまで、突っ込んでくのはやめるでし!」
慎重じゃない2垢。初めて足を踏み入れる場所は、だいたい2人が騒がしい。場所もそうだが、新しい敵との遭遇も嬉しいらしく、どんな敵かと様子を見に、すぐ近寄ってしまいがち。
『赤雨大鷹』の他、『替わり鳶』というのが出ているが、『替わり鳶』は様子を窺うようにホバリングしている。ホバリングできるのか。
「酸系の攻撃って、食らうと装備の傷みが激しいんだよね。金くうから僕嫌い」
お茶漬が戦闘に消極的で、いつものポジションより下がり気味。
突っ込んで行ってるシンとレオに、いつもより少し遠くから【回復】をかける。
「ここまでくると、普通の攻撃当ててもなかなか降りてこないね。ホムラ、ダガーお願い」
ペテロが2人を囮に使いつつ何度か攻撃を試したが、効果はイマイチ。
「了解」
【錬金魔法】で再び『金のダガー』を出す作業。
今はレオが突っ込んで行ってしまっているので、ペテロ1人のためにダガー。余裕があるので、他の魔法で攻撃にも――。
「ぎゃああああああっ」
何故か尻にダガーを刺して飛び上がるシン。
「ひゃああああああっ」
【金魔法】『ブレードレイン』がレオに降り注ぐ。
「うっわ。【回復】」
「……!」
私も慌てて回復薬を投げる。レオを襲ったのは、どう考えても私の魔法です。
「『替わり鳶』が仕事してるねえ」
ペテロが隣で少し先の上空を眺める。
この攻撃対象の入れ替えは、どうやら『替わり鳶』の仕業のようだ。
「これ、逆に入れ替わっているレオとシンを攻撃すれば、『替わり鳶』にダメージ行くのか?」
「さあ? 試してみるのが早いかな?」
そして迷いなく試すペテロ。
「ぎゃあああああっ!」
再び上がるシンの悲鳴。
「はい、はい。回復、回復」
適当な様子で【回復】をかけるお茶漬。
人の話を聞かず、毎回突っ込んでいく二人は実験体にされがちである。
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